IA Summit 2016 参加報告
UX本部 インフォメーションアーキテクト 前島 大米国アトランタにて開催された IA Summit 2016 に参加いたしました。本コラムでは基調講演の内容をベースに全体の概要をお伝えいたします。
IAとは、IA Summitとは
IAとはInformation Architecture(もしくはInformation Architect)の略で情報設計を意味し、複雑な情報をわかりやすく整理し受け手に伝えること、逆に受け手が目的とする情報にスムーズに辿り着けるようにすること、またそういった情報の構造化を行うスキルのことを指します。
IA Summitは世界中のそういった専門スキルをもった人々が年に一度ひとつの場所に集まるグローバルイベントとして広く認知されています。
より幅広い視点で、より幅広い人々と
17回目となる今年のテーマは「A Broader Panorama」です。
デジタルスペースはIoTデバイスや音声デバイス、ヴァーチャル・リアリティなど新しいテクノロジーの発展によりページベースの考え方からよりインタラクティブなものへと変容しています。そのような新たな情報空間を組み立てるため、IAの役割は今後ますます責任あるものになってきます。またIA/UXを考えるにあたり分野を超えてより広い視野で様々な立場や領域の人々と協力することが必要となります。
多様性と一体性をデザインする
カンファレンス初日のオープニングキーノートは書籍Managing Chaosの著者であり20年以上デジタルチームの組織改善に取り組んできたLisa Welchmanが「Inclusiveness in the Digital Maker Community」というテーマで、Digital GovernanceにおけるDiversity(多様性)とInclusiveness(非排他性/社会的一体性)について語りました。
「Digital governance is about getting a team to work together toward a shared goal.」と表現されるように、デジタル組織をよりよい方向へ進めていくためにはDiversityとInclusivenessが不可欠で、CEOやCMOをはじめコンテンツストラテジストやIA、UXデザイナー、コーダー、ライター、システム開発者など多様な役割、考え方の人々が共通のゴールに向かって意図的に一体化するようチームデザインすることが重要となります。
2日目のイブニングトークでは全盲のアクセシビリティエンジニアLéonie Watsonがアクセシビリティの重要性について説きました。
もし視力が失われたらあなたはどのようにマウスを操作するだろうか、もし体が不自由になったらあなたはタッチスクリーンをどのように操作するだろうか、それは年をとったあなたの姿でありアクセシビリティを無視することは未来のあなた自身を切り捨てることを意味するため、アクセシビリティに対応することはすべての人間にとって責任あることである、という非常にメッセージ性の高い内容でした。
また、真の意味でInclusivityを達成するためにはアクセシビリティが必須であると主張しました。
各セッションの内容は本コラムで詳しくは触れませんが、デジタルサービスエコノミーにおける人種ごとの居住エリアにデジタルデバイド(情報技術格差)が生じているという内容もあり、個々人としても社会としてもすべての人々に分け隔てない環境を実現することが我々に求められています。
ユーザー体験からヒューマン体験へ、そして人間らしさの実現へ
最終日のクロージングキーノートは世界有数のUXデザイン会社Adaptive Path社の創設メンバーの一人であるJesse James Garrettによるものでした。
人類の始まりから考えると、電話や車や組織が存在しなかったころと今の世界は全く異なる環境にあり、科学技術の発展により我々は新たな世界を造り出し新たな体験を再形成してきたが、それらは本当に我々のために作られたものなのか?それらは故意に生まれたものだろうか?という問いかけに始まります。今回の話の中で彼はユーザーについてではなくヒューマンについて多く語るだろうと述べた上で、ユーザーにおけるユーズとは長い体験ストーリーの中のほんの一部でしかなく、人間のすべての体験がユーザー体験という括りに含むことができないことと、我々個々人の多様性は性格、経歴、人種や性別、文化背景など無限であることからUser Experience(ユーザー体験)ではなくHuman Experience(ヒューマン体験)として理解する必要があると述べました。
また、オープニングキーノートでLisa Welchmanが語ったデジタル組織論を例に出し、組織や社会システムはある種のモンスターであるが、人間によって造られたものであり人間一人ひとりによって成り立っている以上、お互いが共感や尊敬、理解し合うことでHumanity(人間らしさ)を実現することが人類の宿命であるといいます。そしてそれが実現した未来は今ここに生きている誰もがその世界を見ることはできないが我々がそうしたいと今決意するのであれば実現可能だろう、と締めました。
終わりに
「A Broader Panorama」というテーマのごとく、非常に視点の高く幅広い内容に触れることができ、日々の仕事への取り組み方を見直すきっかけとなるような体験ができました。ちなみに最後のJesse James Garrettによるストーリーは7つの章から成る「セブンシスターズ」というタイトルでした。これはプレアデス星団の別名であり日本では昴として知られ、語源は「すばる(統ばる)」に由来し、“come together”や“unite”を意味しています(また当日5月8日は母の日でもありプレアデス星団にまつわるギリシャ神話の7人の姉妹ともかけていたようです)。
IAという職種は、情報を扱う以上に組織や社会、人間についての理解を深める必要があり、すべての人々が一緒にひとつになって幸せになるためにはどのように世の中を設計すればよいのかを考えるミッションをもつ存在であると強く感じました。
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