今、あらためてアクセシビリティ向上について考える
アクセシビリティ部 マネージャー 中村 精親当社アクセシビリティBlogで既報(デジタルサービスのアクセシビリティ向上に立ちはだかるもの)の通り、『デジタルを活用した公と民のサービスにおけるアクセシビリティ向上について』と題した緊急提言が、山田肇先生と石川准先生が代表者となって、4月15日に総務省と厚生労働省に対して送付されました。(参考:新型コロナ情報のアクセシビリティ向上:総務省と厚労省に緊急提言 – アゴラ)
この提言を受けて、4月30日には総務省と厚生労働省からは府省庁、自治体宛にそれぞれ依頼文書が発出されています。詳細は自治体・医療機関向けの情報一覧(新型コロナウイルス感染症)|厚生労働省内、2020年4月30日掲載「新型コロナウイルス感染症に関する特設ウェブサイト上での情報提供に係るアクセシビリティについて(依頼)」などをご参照ください。)
前述の緊急提言には私もウェブアクセシビリティ基盤委員会の委員長として賛同をしており、こうした対応が比較的迅速に行われたことについては非常に素晴らしいことだと思っておりますが、一方で現場に近いところでアクセシビリティを向上するために尽力すべき立場として、あらためて平時からアクセシビリティの重要性を伝えていかなければならない、と感じている次第です。
とはいえ、わかっているけど難しい、という担当者の方もいるかと思いますので、今回は少し普段とは視点を変えて、アクセシビリティ向上に向けた対応を検討いただけるような提案をしてみたいと思います。
現状を把握し少しでもアクセシブルにする
緊急提言で言及されているとおり、現状さまざまなサービスにおいてアクセシビリティが低い状況が散見されるのが事実であり、専門的な検証をするまでもなく、問題があることがわかる、というような状態です。
問題の中には提言のとおり、「説明のついていない画像がある」「画像PDFが用いられている」といったものがありますが、これらは本来技術的には比較的容易に改善ができる可能性があるものです。 では何故問題が起きた状態で公開されるのか、ということですが、これは多くの場合、事前に定められた作業フローに問題があるからだと考えられます。
こうした問題は非常に根深いもので、容易に修正できないことも多々あるかと思います。しかしながら、例えば「画像PDF」の例ではわざわざアクセシビリティを下げる手間をかけた上で公開しているようなものもあるのが実状ではないでしょうか。
このような少し現状を見直せば改善する、という問題については、ちょっとした対応で利用者にとっては大きな改善になることもあります。 アクセシビリティの対応には大きな予算がかかるので難しい、と考えている方は少しご自身で改善による効果を調べてみたり、予算の範囲内で当社のような専門家に相談したりしてみてください。直接、最終目標は達成できないかもしれませんが、それが最終的に予算の獲得できるプロジェクトに繋がることも多いのです。
「実現したい方針」と「実現できる方針」を掲げる
現状把握を進めるのとあわせて、「Webアクセシビリティ方針」をきちんと策定することで関係者の認識を変える、というのは経験上有効な手段です(し、公共機関であれば「方針」を公開することが必要です。)
ただし、その際にガイドラインを守ること「だけ」を最終目標として掲げてしまうと、なかなか達成感を得ることができず、前に進んでいかないばかりか、目的を見失ってしまうという事態が多々見受けられます。
対応ができていない部分を別のサイト扱いにする、方針の範囲から削除する、といったよくある話だけではなく、そもそもそのコンテンツを削除してしまう、などといった話も聞かれます。
本来、アクセシビリティを向上させる目的はより多くの人に情報を届けることなのに、誰にも届かない情報にしてしまったら、元も子もありません。
そうならないように、「実現できる方針」をあわせて定めてみてはいかがでしょうか。Webサイトによって事情は異なると思いますが、画像の代替テキストは必ず確認する、キーボード操作だけは必ず試してみる、といった簡単な作業の積み重ねがアクセシビリティはもちろん、Webサイトの品質向上に繋がるはずです。
代替手段をあわせて考えておく
さて、一方上述の方針だけでは、今できることから進めることになるので、現実には情報を取得できない人がいる可能性が生じてしまいます。そこで重要なのが、きちんとした代替手段を提供することです。提言の中でも相談窓口について触れられていますが、電話番号だけでは聴覚障害者や通話用の電話回線を持たない人が利用できなかったり、現在のような有事の際には回線が逼迫してなかなか繋がらなかったり、といった事態を招いてしまいます。インターネットを通じて情報を提供するのですから、メールやアクセシブルなフォームなどを準備しておくことで問題が改善されます。
あらためて、今できることから
もちろん、本来はアクセシビリティガイドラインの内容をきちんと守れている状態でWebサイトを公開して欲しいと思いますし、それがあるべき姿です。
とはいえ、それには時間がかかる、というのが多くの場合現実であり、そのガイドラインを守るためにもともとあった情報をなかったことにしてしまおう、と考えるようなこともあるのが事実であることを知っています。 そのような残念な対応は普段もそうなのですが、現在のような本当に情報が必要なときに想定以上の大きな問題を引き起こします。
提言でも述べられていますが、状況によっては命にも関わるのです。 これからでも遅くはありません。少しでも多くの情報がきちんと届くように、今あらためてみなさまのWebサイトのアクセシビリティを見直していただければと思っておりますし、そのためのお手伝いを当社としてできることがあれば、うれしく思います。
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