スクリーン・リーダー NVDAに関するロサンゼルスでのミーティング
アクセシビリティ・エンジニア 辻 勝利3月11日から17日まで、カリフォルニア州ロサンゼルスに出張し、アクセシビリティに関するさまざまな技術や研究に触れてきました。今回の出張の目的は大きく分けて三つで、簡単に申しますと以下のようになります。
- Center on Disabilities' 2008 Technology & Persons with Disabilities Conference(通称CSUN)に参加し、プレゼンテーション(参考:CSUN 2008)を行う。さらに、支援技術や関連サービスの最新動向について、知識を深める。
- NVDA開発者と日本語化プロジェクトメンバーによるミーティングを行い、日本語化の現状と問題点を共有する。
- Googleを訪問し、プレゼンテーション(参考:Googleでのプレゼンテーション)を行うとともに意見交換を行う。
CSUN参加報告につきましては、当社のセミナーを通じて皆様にお伝えするほか、次回の私のコラムの中でもご紹介させていただきたいと考えております。今回は2番目のNVDA開発者とのミーティングについてご報告したいと思います。
NVDAとは?
NVDAは、無料でオープンソースのスクリーン・リーダーで、2006年よりオーストラリア在住のMichael Curran氏をはじめとした多くの方々によって開発が続けられているソフトウエアです。Windows上で動作するスクリーン・リーダーで、現在までに20カ国語以上の言語に翻訳されています。
筆者がNVDAの開発者のCurran氏にはじめて会ったのが2007年3月のCSUN Conference会場、Mozillaブースでした。「視覚障害者であっても、一般の方々以上の出費をしなくてもWindowsが搭載されたコンピュータが利用できるようにする」というNVDAプロジェクトの考えに共感し、NVDAを日本の方々にも使っていただけるように翻訳しようと考えて作業を始めました。最初は当社のアクセシビリティチーム内でメッセージの翻訳や動作検証を行っておりましたが、昨年末にUAI研究会参加者の有志の方々にご協力いただき、NVDA日本語化プロジェクトをスタートさせることができました。
今回CSUN Conference会場でNVDA開発者の方々に会える可能性が出てきたため、急遽日本語化プロジェクトのメンバーの中でCSUN Conferenceに参加される方々にご協力いただいて、ミーティングを行うことにしました。
待ち合わせを予定していたMozillaブースがすでに閉まっていて、ともに全盲の開発者と私が無事に会えるかと一瞬あせりましたが、Marriottホテルのロビーで彼らをみつけることができました。
今回ミーティングに参加したのは、前述のMichael Curran氏、早くから開発チームにボランティアで参加しており、先日よりMozillaの協力によってフルタイムで開発を行うことになったJames Teh氏、日本語化プロジェクトからはドキュメントなどの翻訳を担当いただくインフォアクシアの植木真氏、後述する漢字の変換候補の読み上げに関して調査研究をお願いしているアクセシビリティ・コンサルタントの梅垣正宏氏、当社でNVDA日本語化プロジェクトの立ち上げに協力してくれた木達一仁と筆者の4人でした。
夕食をともにしながら始めたミーティングは、いくつか場所を変えながら4時間にもおよびました。ミーティングの中では、NVDA日本語化の現状、現在直面している問題について、筆者も含めた日本語版開発にかかわっているそれぞれが発言し、NVDA開発者との意見交換を行いました。
NVDA日本語化の現状
筆者がNVDAで使用されるメッセージ(ダイアログや読み上げに使用されるもの)を日本語に翻訳しはじめてからほぼ1年がたちました。現在は、NVDA最新版のソースコードに、日本語化プロジェクトで翻訳したメッセージが同梱され、どなたでもダウンロードしていただけるようになっています。
現在NVDAでは、日本のスクリーン・リーダーに必須である、漢字変換時の変換候補を読ませるための機能がありません。つまり、「はし」という文字列を漢字変換したとしても、それが食べるための「箸」なのか、渡る「橋」なのか、または両端の「端」なのかを識別することができないのです。今回のミーティングでも、この機能の重要性について開発者にお伝えし、日本語化プロジェクトとしてこの部分の読み上げ機能を重視していることをお話ししました。
また現在、GalateaTalkというパッケージの音声合成機能を使用してNVDAに日本語を読み上げさせるために作業を進めていること、日本のスクリーン・リーダーの現状を踏まえて、無料で高機能なNVDAが日本に必要なことについてもお伝えしてきました。
開発者の方々からも、アドバイスや問題解決のためのヒントなどの貴重な情報をいただき、充実した意見交換ができたと思います。
今後のNVDA日本語化の作業予定
前述のとおり、これまでNVDAの日本語化作業はメッセージの翻訳を中心に作業を行ってきました。今後はこれに加えて、以下のような作業を行っていきたいと考えております。
- NVDA関連ドキュメントの翻訳
- 句読点をはじめとした全角記号の読み上げ辞書の作成
- 漢字の変換候補の読み上げ機能の追加
- 音声合成エンジンのNVDA向けの調整
なお、作業の進捗状況につきましてはNVDA日本語化プロジェクトのページで随時情報を発信していきますので、NVDAについてご興味をお持ちの方はぜひご参照ください。
今のところ、NVDA日本語化に関してさまざまな問題がありますが、それらをひとつずつ解決してスクリーン・リーダーを必要としている方々に使っていただけるようにしたいと思います。
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