3.11とWebアクセシビリティ
取締役 木達 一仁3月11日の東日本大震災発生から、2カ月が過ぎました。当社の位置する東京都内では、電力需給逼迫への懸念から、節電への取り組みが未だ至る所で継続されているものの、概ね震災前の日常に復帰した感があります。もっとも、福島の原子力発電所事故については今なお予断を許さない状況が続いていますが、一時期と比べ大きな余震の発生頻度が下がったことが、要因としては大きいのかなと思っています。今回の震災に関連して、Webアクセシビリティの観点から興味深い動きがありましたので、1カ月以上前にまで遡りますが、本コラムで紹介させていただきます。
震災発生から1週間後の3月18日付けで、財団法人地方自治情報センターが、「国民へ発信する重要情報のファイル形式について」というお知らせを出しました。内容要旨より、その一部を以下に引用します:
震災発生から時間経過とともに、全国民が注目・閲覧を要する重要コンテンツ、政府、地方公共団体から提供される情報の多くが、PDFやExcelファイル形式で情報配信されております。インターネットを通じて多数の国民に円滑に閲覧していただきたいところですが、アクセスが集中し、PDFやExcelファイル形式の場合、容量が大きく、サーバー・回線リソースを圧迫し、重要情報が閲覧できない事象が頻出しています。
また、被災してPCが故障していたり、PCを持っておらず、携帯電話で情報を確認している方もおり、携帯電話の細い回線で容量の大きなファイルを閲覧することが困難なケースもあります。
このため、現在各団体がアップロードしておられる情報は、1分1秒を争うものも多々あるかと存じますが、より多くの方に簡易に情報を受け取っていただけるよう配慮した情報提供も心がけるべきと思われます。
また3月30日付けで、経済産業省より社団法人日本経済団体連合会に対し、「東北地方太平洋沖地震等に係る情報提供のデータ形式について」という題名で周知を依頼しています。こちらも少し長いですが、概要から引用します:
被災地においては携帯電話によるホームページ閲覧しかできないなど、ホームページを閲覧する通信環境が非常に制限されている状況が想定されます。一般的な携帯電話ではPDFデータを直接閲覧することはできません。その場合でも、データが直接htmlで記述されていたり、csv等比較的自動処理が容易な形式でデータが供給されていれば、インターネット上の様々なコンテンツやアプリケーションの制作者の方々に携帯電話でも閲覧できるようなアプリケーションの開発や、より使いやすいwebページの構築などを促すことができます。また、これによって、被災地はもとより、直接の被災地以外の地域においても、提供情報の利用を促進することが期待できます。
つきましては、円滑な情報提供を図る観点から、ホームページにおいて情報提供を行う場合には、極力PDF等自動処理がしにくいデータ形式のみによらず、htmlやcsv等の自動処理に適したデータ形式を併用したり、別途オープンな情報提供APIを整備するなど、データを提供する方法について、ご無理のない範囲で、特段のご配慮をいただけますよう、貴会会員各社にご周知方お願い申し上げます。
いずれの内容にも共通しているのは、より迅速かつ確実な情報の流通に向け、ファイル形式やデータの公開方法に一定の配慮を求めている点です。これらの通達は、今回の震災が発生したからこそ出されたものかもしれません。しかし私は、扱う情報の内容を問わず、Web上で情報を発信している全ての人々が常日頃から意識し、また取り組むべきことだと考えます。本質的には、Webアクセシビリティを確保・向上させる取り組みに通ずる部分が、少なからずあると思うからです。
Excel形式やPDFといったフォーマットで作られたファイルは、それぞれに固有の利便がありますが、多くの場合はファイルを開くためのソフトウェアが(ブラウザとは別途)必要になります。それゆえ、ブラウザ単体で扱えるHTML形式とあえて比べますと、Webを介してそこにある内容を確認できる人は限られてきます。Webで公開する以上、それが営利目的であれ何であれ、一人でも多くの人に情報を届けたいと考えるならば、どのフォーマットなりファイル形式を採用すべきかは、基本的ながら極めて重要といえるでしょう。
もちろん、フォーマットが利用者にとって適したものであればそれで必要十分というわけではありません。たとえHTML形式であっても、文書構造がしっかり反映されたマークアップでなければ、情報伝達に支障を来すおそれがあります。またPDFファイルを用いた情報公開であっても、そのフォーマットが担保する範囲内でアクセシビリティを確保することは技術的に十分可能です(詳しくはアクセシブルPDF作成サービスを参照してください)。
Webアクセシビリティの重要性が、東日本大震災の発生前後で変化したわけではありません。しかし、それをひとつのきっかけとして、社会的に再度スポットが当てられたのは事実だと思います。これを機に、顧客企業様には改めてアクセシビリティ対応の必要性を認識し直していただければ幸いです。当社はWebアクセシビリティソリューションとして、アクセシビリティ対応における戦略と戦術の双方を支援するための各種サービスを提供、また専門のチームを備えています。お問い合わせ、ご相談等はお気軽にお寄せください。
以下余談になりますが、今から14年ほど前の昔、私はある特殊法人のWebサイトの運用に従事していました。ちょっとした事故が発生しますと、発表文や関連資料をWebで公開しなければならなかったのですが、なかには紙でしか存在しない原稿もあり、その場合には1枚1枚、フラットヘッドスキャナで画像に読み込んでは、PDFファイルに貼り付けるなどしていました。実に非効率的、かつ作成したPDFファイルも非アクセシブルなものでしたが、当時としてはそれが一刻も早く公開するための手段でした。昨今では、さすがに原稿が紙でしかないような状況は考えにくいですが……いかに公開を急ごうとも、それが「誰のための公開か」を忘れてはならないという点で、当時の経験は自分にとって良い教訓となっています。
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