表現形式がデザイン品質に影響を与える
インタラクションデザイナー 栗山 進半年ほど前より、日本マイクロソフト株式会社(旧社名:マイクロソフト株式会社)と共同でユーザーエクスペリエンスデザインのワークショップを行なっているのですが、今回はそこで実感したことの一つを紹介したいと思います。
ユーザーエクスペリエンスデザインのワークショップについて
まず、ワークショップの内容を簡単にご紹介します。ワークショップの構成と内容はおおむね以下の通りで、全日のワークショップとなっています。
ワークショップの構成と内容
- 概要ワークショップの進め方、および、UX(ユーザーエクスペリエンス)デザインの必要性と概要について説明。
- ユーザー調査、ペルソナユーザーが製品に求めることの調べ方(ユーザー調査手法の概要)とそのまとめ方(ペルソナの作り方)について説明および実習。
- タスクフロータスクフローについて説明と実習。実習内容は、ユーザーがゴールを達成するための最良のタスクフロー(作業の流れ)の考案と記述。
- スケッチ具体的な画面案(スケッチ)の作成方法について説明および実習。
- 発表とまとめグループごとに、作成したスケッチの発表とディスカッション。
参加者はワークショップを通じて、あるシステム(Rich Internet Application)のUXを上記プロセスでデザインし、最後にその結果(スケッチ)を発表・ディスカッションします。
デザイン時に利用する表現形式がデザイン品質に影響する
そして、今回実感したことは「タスクフロー」にて起こりました。「タスクフロー」では、フローチャートのような表現形式で、ユーザーがゴールを達成するための最良の作業の流れを考案・記述します。以下に例を示します。
ところが、フローチャートのような表現形式が採用されているためか、参加者の思考がシステム的な視点になり気味でした。つまり、構築しようとしているシステムの処理の流れをどうするかという側面に思考が向き気味となり、ユーザー視点の思考(ユーザーにとって最良の作業の流れを考える)からは離れ気味となっていました。その結果、タスクフローのデザイン品質が今一歩になってしまったグループが出てきてしまいました。
この結果を受け、これ以降のワークショップではタスクフローは用いず、下図に示すストーリーボードを用いることにしました。その際、ワークショップの構成と内容は、実質的には何も変更しませんでした。つまり、タスクフローの代わりにストーリーボードという表現形式を用いるという変更だけを行ないました。ストーリーボードはタスクフローと同様、大局的な作業の流れをまとめるためのものです。タスクフローの各ブロックに記載されている内容と、ストーリーボードの各コマの上部に記載されている内容が同じである点にご注目ください。セリフと表情は、各コマにおける体験を細かに表現するためのものです。
変更した結果は成功で、より確実に参加者の思考をユーザー視点にすることができました。成果物(ストーリーボードやスケッチ)のデザイン品質も、タスクフローを採用していた時と比べ、一定の水準を超えるグループが多くなりました。
ストーリーボードの方が、参加者の思考をよりユーザー視点にすることができた主な理由は、以下と考えています。
- ユーザーのセリフと表情を記述する形式になっており、自然とユーザーに意識が向くようになっているため。
- タスクフローと異なり、(システムの処理の流れを記述するための)フローチャートを連想させることがないため。
こうして、「デザイン時に利用する表現形式がデザイン品質に影響する」と実感するに至ったわけです。
おわりに
上記実感を得て、デザインプロセスだけではなく、デザイン時に利用する表現形式にも十分注意を払う必要があることを改めて認識しました。これは逆の見方をすれば、デザイン時に利用する表現形式を工夫することによって、思考(デザイン)を支援することができると言えます。それゆえ、今後はデザインプロセスだけではなく、そこで用いる表現形式についても改良していこうという思いを強くしました。
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