実践! 生涯顧客創造への道
代表取締役 髙橋 仁1ヶ月前、CS担当スタッフに、「このページ読んでごらん」とあるビジネス本を差し出しました。読み終わった彼女から返ってきた言葉は、「えぇ〜。高橋さん。これって・・・・・ミツエーリンクスじゃないですか!?」でした。
私は何だか嬉しくなって、悪戦苦闘し続けたこの3年間の大実験を振り返りました。今日はこのことに触れてみたいと思います。
そのはじまり
私が見せたのは、「顧客価値創造のマーケティング戦略—進化するCS“カスタマー・バリュー”(ダイヤモンド・ハーバード・ビジネス編集部) 」の「ロス・コントロール社が実践した顧客を永遠に獲得する方法」というページでした。
3年前、私は大きな壁にぶつかっていました。クリエータや技術者が多い組織において、自由に活躍できる環境が必要だと思う反面、情報社会が成熟していく過程として、社会が求めるニーズを分析すると、こうした業界においても規律正しい成熟した企業へと変貌していかなければならないという思い、この二律背反するテーマをどのように乗り切ったらいいのか?ということでした。
私が選んだ道は「属人的組織からプロセス組織への変貌」であり、社内浸透させるために「10%のプロセス、90%の自由」という標語を使用しました。ISO群導入の原点はまさにここにあり、その後徹底的にプロセスマネジメント手法の導入に突き走ることになります。
全体設計の中に、顧客満足→生涯顧客創造という構図があり、この実践には、ロス・コントロール社が行ったビジネスプロセスをベストプラクティスとして採用しました。簡単に言えば「顧客からのフィードバック→改善を継続する」というものですが、私達が実施した3年間の流れは、下記のようなものです。
実施した5つのフェーズ
第一フェーズ
- 情報入手担当者ベースで、納品後、CSアンケートを顧客に提出
- 集計返信結果は、社内の壁に掲示
- 活用各自に任せて、今後の参考にする
ここでのポイントは、CS活動を社内に宣言し、実践を通して意識付けを行うこと。
第二フェーズ
- 情報入手
専門担当者をおき、納品後、CSアンケートを顧客に提出
より多くの情報を入手するために請求書にも別にCSアンケートを同封する - 集計
返信結果は、社内メーリンクリストで全スタッフへ通知 - 活用
大きな問題は、問題点の洗い直しを実行し、手探りで改善方法を探す
ここでのポイントは、CS活動を止めないようすること。また、より多くの情報を入手するために水平展開をする。さらに是正処置を行うというプロセスに関して社内浸透を図る。
第三フェーズ
- 情報入手JIS Z 9920(苦情対応マネジメントシステム)を導入し、定義に基づいた活動を開始
CSインテグレータという専門スタッフを配置し、個別訪問を開始 - 集計社内イントラネットを構築し、データの一元管理を実施
- 活用顧客からの指摘を4段階のレベルに分け、レベルに応じた是正処置を確立
ここでのポイントは、活動全体を定義し、定義に基づいた活動を行うこと。データベース化することによって一元管理を実施、さらに、苦情・要望のレベル分けを実行し対応方法を確立する。
第四フェーズ
- 情報入手英国の企業よりCSアンケートの手法を学び、統計的な測定を可能にするアンケート方法を確立
問題発生ごとにCSインテグレータが個別訪問し、顧客側の立場を理解し、社内にフィードバックする - 集計統計的手法を用いて、CTQ(最も影響度の大きい問題点)の発見手法と、問題の特定する為の5M+1の使用方法をマスターする
- 活用数値に基づいた是正処置手法を確立
ここでのポイントは、活動を数値化するということ、是正処置後の改善度合も数値によって見極めること。
第五フェーズ
- 全ての活動が会社の社風として機能し、継続的改善が習慣化
- 定期的な集計および公式レビュー会議を実施し、自社サービスの強化ポイントを予測し、特定された課題に関しては新プロジェクトが実施される。
現在は第五フェーズまで達しましたが、レベルアップのための社風形成および技術(手法)習得には時間がかかります。特に初期のフェーズには非常に時間を要しますが、第五フェーズまで到達しますと、スピードが上がるだけでなく、そのスピードが加速度的にアップしていくという現象が現れます。
CS活動と苦情対応システムという切り口でスタートした私達の生涯顧客創造は、3年間という長い時間をかけて、七転八倒を繰り返しながら完成したのです。
生涯顧客創造
生涯顧客創造について今までの活動を踏まえた上で、もし、「生涯顧客創造をどのように構築するか?」と問われた場合、今の私の認識によれば、下記のような回答になると思います。
すべての顧客を生涯顧客にすることは不可能である
ここまで来てはじめて理解できたことは、どのような素晴らしい改善手法を身につけても、どのように努力しようとも、すべての顧客を生涯顧客にすることは不可能であるということ。大切なことは「私達の生涯顧客は誰?」 と問い続けながら、私達の姿勢を理解しパートナーとして認識して頂けると思われる現在あるいは将来の顧客企業様に対して、誠心誠意持っている力を傾けることが生涯顧客創造の第一歩だと認識します。
8割の顧客は、時期が来れば入れ替わる
企業というものは、生き物であり、常に変化し成長しています。その変化の過程でパートナーや製品が必要になったり不要になったりします。したがって顧客は常に入れ替わるという前提が必要です。8割の顧客は時期が来れば入れ替わるというスタンスがあってこそ、それを食い止めるものは何かという問いが必然的に生じます。そしてその答えは、ダイナミックな自己変革を継続的に実行し続けることしかありません。さらに、主要顧客2割については、他と平等に扱うこと自体が不平等であるという認識に立ち、特別なサービスを提供し続けなければならないのです。
それでも第一印象は変えられない
弊社に10年以上勤務しているスタッフがいます。当時19歳のかわいい娘でした。彼女が30歳を過ぎ、リーダーとして活躍している今でも当時の面影が心に残っており、19歳の娘と話している感覚になります。また弊社のスタッフが3—5名の時代は力不足で顧客企業様によく叱られました。それらの企業様には今の状態をご説明してもなかなか認めていただけません。さらに心理学的な実験でも第一印象はなかなか変えられないとの結果があるようです。第一印象は実に重要です。初取引においてこの顧客は生涯顧客の可能性があると認識した場合には、通常の2倍以上の力を傾けてサービスをしても損はないのです。
CRMと生涯顧客創造
さて、生涯顧客創造と関連性が深いCRMについて少し触れておきます。
現在、CRM(Customer Relationship Management)という言葉は、耳にしない日はないほど巷にあふれています。ご存知の通り、CRMは優良顧客の囲い込み戦略であり、そのために効果的な関係性強化策を実施するものです。その最終形は生涯顧客創造にあります。つまり、生涯顧客創造が目的であり、CRMはその目的を達成するための手段です。
CRMの必要性が強く出るタイミングはいくつか考えられます。特に市場が成熟した場合、製品の違いが出にくくなった場合、市場が低迷している場合等々です。要はサービスや製品の力以上に顧客の選ぶ権利の力が増大したときに表舞台にでる傾向があるように思えます。
その必要性を簡単に解説したいと思います。
- 上位20%の顧客は、全体の80%に及ぶ収益に貢献するというパレートの法則が示す通り、20%の主要顧客を逃すことは企業の存続に大きな影響を及ぼすということ。
- 新規顧客に販売するコストは既存顧客に販売するコストの5倍かかり、既存顧客の維持は企業活動にとって重要だということ。(1:5の法則)
- 顧客離れを5%改善すれば、利益が最低でも25%改善され、顧客離れ阻止は企業活動にとって極めて重要だということ。(5:25の法則)
ここまで説明すれば、CRM戦略はいかに重要であるか理解していただけるものと思います。
Web運用で生涯顧客創造は可能か?
最後にWeb運用と生涯顧客創造について私の考えを述べたいと思います。
生涯顧客創造という視点に立つと、Webを始めとするIT技術を導入することは極めて重要です。ただし前提として誤ってはならないのは、IT技術はすべてを解決するものではなく、あくまでサブシステムであるということです。顧客が企業に求めるもの本質は、自分に価値を提供してくれる、サービスであり、製品であり、それを支える企業のひとであり、技術であるということです。
顧客は、常に自分にとって一番いいものを欲します。そして、選ばれる企業と選ばれない企業の違いは、大概大きな違いではなく、ささやかな違いとささやかな気配りによって決まることが多いのです。
関係性強化という側面に、IT技術を活用すると仮定します。
天秤の両端に「face to face」と「ITツール」をそれぞれおき、バランスを考慮しながらコントロールするようなものだと考えてみましょう。本来あるべき姿を見失うことなく、さらに不足部分は補完するというスタンスに立ったとき、素晴らしいアイデアが創出され、素晴らしい成果が導きだされるのです。
Webを活用した生涯顧客創造、一度見直してみてはいかがでしょう?
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