シックスシグマとバランススコアカードの関連性
シックスシグマ推進本部 山下 徹治シックスシグマという経営改善手法が世界から注目をあびています。注目をあびるきっかけは、かの発明王トーマス・エジソンが創業し、現在5年連続で「世界で最も尊敬される企業」(ファイナンシャル・タイムズ誌)に選ばれているGE(ゼネラル・エレクトリック・カンパニー)が全社導入している経営手法こそがシックスシグマだとわかったことでした。その後、日本でもシックスシグマを導入する大企業があらわれ、関連する書籍も十数冊出版されています(アマゾン・ドット・コムでの検索結果による)。
ただ、GE社がこれだけ成功を収めているにもかかわらず、導入する企業が飛躍的に増えているわけではありません。多くの企業はシックスシグマの効果に対して慎重になっているのでしょう。気持ちはよくわかります。
失敗している企業もあることが周知の事実であることや、導入時や運用にかかるコストは膨大である点、またISO9001などのような外部認証機関があるわけではなく、成功したかどうかは成果で証明するしかないという後ろだての弱さなども影響しているかもしれません。つまり成功すれば効果はありそうだが、失敗すると大損する可能性もあるというリスキーさが導入に二の足を踏ませているのでしょう。
弊社では1年前からシックスシグマを導入していますが、上記のようなプレッシャーを常に感じながら試行錯誤を繰り返しています。今回は、その試行錯誤の一端をご紹介しようと思います。
なかなかうまくいかない日々
シックスシグマの導入が宣言され、ほぼ同時に某研修機関でのシックスシグマ研修もスタートしました。それまでに数冊のシックスシグマ本を読んでいたこともあり、講義の内容は思っていた以上に頭に入りました。思ったほど難しくなさそうだというのが一番最初の印象です。その数週間後、取り組むべきいくつかの課題を定義し、プロジェクトがスタートしました。シックスシグマ・プロジェクトの特徴というのは、必ずゴールが決められるというのはもちろんのこと、プロジェクトの期間をあらかじめ設定することになっています。しかも比較的短く設定され、たいてい半年や一年となります。プロジェクトがうまくいかなくても、だらだらといつまでも続けるのではなく、見切りをつけるというのも大切なことだという思想があるからです。
プロジェクトが定義された後は、測定(Measure)というフェーズに入ります。「事実にもとづく改善」がテーマのシックスシグマでは、綿密にデータを収集するというこのフェーズは大きな意味を持ちます。ところが、実際に測定をしてみると、思ったようなデータがなかなか出てこないケースや、データ自体の信憑性がうすかったり、ばらつきが激しかったりと多くの障害が出てきます。プロジェクトには期日が決められているので悠長に構えていることもできません。この測定というフェーズはプロジェクトリーダーがもっとももがき苦しむときだと思います。
例えば、Yという問題を解決しようとすると、その問題を引き起こす要因Xはひとつではありません。Xが10や20あります。シックスシグマ的にはそのXの全体像を把握し、その中でもっとも大きな影響を与えているXを2割程度洗い出すという作業をします。本を読めばその理屈は納得できることですし、単純な作業のように思えます。ところが実際にやってみるとこの作業すらままならないのです。なぜなら弊社の場合、製造業のように工程が機械化されていません。すべての作業は人力です。そもそもばらつきが生じる要因が大きいと言えます。データも定量化された数値データはほとんどなく、定性的なデータが中心です。多くのデータは機械から出力されたものではなく、人からヒアリングした内容となります。ここで一番の難関は、「人は自分が行っている作業がいかに特殊で、困難なものであるかを誇張して伝える傾向にある」という「人間らしさ」です。問題を解決するためには2割のXが欲しいのですが、残り8割のXが誇張されたかたちで集まってきたりします。そうすると、そもそものプロジェクトの定義自体に問題があるのだろうかと不安な気持ちになってくるのです。
シックスシグマは測定データを無視できない
シックスシグマでは測定データを改善のための土台としますので、そのデータを無視して感覚値的な改善活動を行うことはできません。集めたデータが今ひとつ信頼性に欠けていると思っていても、そのデータを信じて次の分析(Analyze)フェーズに進むか、もう一度データを集め直すかの2択しか道はありません。
私の経験では、自分がおかしいと思っているデータに基づいてプロジェクトを先に進めてもうまくいくことはありません。分析のフェーズで矛盾点に気づくか、もしくは改善プログラムまで落とし込んでも効果は出ないという最悪の結果におちいります。では、データを取り直せばいいではないかということになるのですが、ここで大きな問題にぶつかります。
また似たようなデータが集まってしまうのではないか?
せっかく一度プロジェクトを仕切りなおしてデータの収集を再開したとしても、また同じようなデータが集まってしまうというリスクは残ります。実際に同じ人に同じ質問をしたら答えはどうなるでしょう。十中八九同じ答えが返ってきます。私の悩みはまさにそこでした。「プロジェクトを進行する上で障害にぶつかるのは当然として、その障害を確実に乗り越えられる手法はないのだろうか?」実は、私がその答えを探し当てたのはつい3ヶ月ほど前です。そのきっかけは6ヶ月ほど前に弊社代表から「バランススコアカードの4つの視点はすばらしいから君も勉強しておくように」と言われたことでした。私はざっとですがバランススコアカードについて勉強してみました。
4つの視点とは
- 財務的視点
- 顧客満足の視点
- 社内ビジネス・プロセスの視点
- 学習・教育
の視点です。バランススコアカードというのは、この4つの視点がともに係わり合いを持ち、最終的に企業のビジョン、戦略を達成していく企業価値創出のための仕組みと位置づけられることがわかりました。
そのときは、「なるほどもっともだ」とは思いましたが、具体的手法として自分の業務のなかにこうやって生かすことができるという戦術までは持ち合わせず、もうちょっと深く学んでから使おうと考えていました。
ところがこの漠然とした感覚が、シックスシグマにおける私の悩みを解決するひらめきを生んだのでした。
ひらめきは突然
ある日、あるプロジェクトを任された担当者から相談を受けました。それはあるプロジェクトが行きづまってしまって困っているという内容でした。プロジェクトの目標は、バランススコアカードでいうところの「社内ビジネスプロセスの視点」から立案されたものでした。その目標だけを見ても不整合は特にありません。おそらく過去の自分であれば頭を抱えてしまっていたでしょう。ところがその瞬間、私の脳裏に「4つの視点」がひらめきました。その目標は、本来その上位層である「顧客満足の視点」と、さらにその上位層にある「財務的視点」に基づき設定されているはずだと疑問を感じたのです。この感覚は、いまだかつてないものでした。
そして、その担当者に「このプロジェクトが成功したらお客様にはどういうメリットがあるのだろう」「お客様が満足した結果、ミツエーリンクスにとってどういうメリットがあるのだろう」という視点の質問を投げかけたところ、きちんと答えが出てくるではありませんか。私は正直驚きました。そして、「プロジェクトの方向性は間違いないからちょっと視点を上位にシフトしてみよう」というと、次から次へとアイディアが生まれてきました。この瞬間、私はシックスシグマもこうすればいいんだとひらめきました。
つまり、データがうまく集まらない多くの場合、ヒアリングをしている相手の視点が「学習・成長の視点」か、「ビジネスプロセスの視点」にとどまってしまっていることがわかったのです。だからデータにばらつきが生じるのです。正確なデータが取れずにやり直すのでれば、ヒアリング相手の視点をシフトする必要があるのです。そのシフトの法則が、まさにバランススコアカードの4つの視点だったのです。
結果的に、そのプロジェクトは管理者側も現場も共感できるものとなり、モチベーションもあがり無事成功しました。そして私はその論理性に確信を得ました。今後、この思想は社内に浸透し、顧客企業様に多大なメリットを提供すると思います。
まとめ
こうした1年以上にもわたる試行錯誤を経て、私はひとつの結論に達しました。バランススコアカードは経営の抱える課題を管理部門や営業部門、設計部門、生産部門と共有する共通言語を定義する手法であり、シックスシグマは共通認識化された問題を最速で解決するための手法です。ISO群は最適化された改善策をプロセスとして落とし込み、管理していくための受け皿だと定義できます。経営革新ツールとして注目を浴びているこれら3つの手法は、実はそれぞれにメリットとデメリットがあります。それらをお互いに補完しあうことで完成度の高いマネジメントシステムが完成することでしょう。これからも試行錯誤は続くでしょうが、ひとつの大きな壁を乗り越え、シックスシグマプロジェクトは成功に近づいたと実感しています。
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