Webブランド構築、ナレッジ・マネジメントの視点から考える
ディレクショングループ 棚橋 弘季「自分がどこに向かっているのかわからなければ、とんでもないところに行き着くだけだ」。これは50年代のヤンキースの黄金時代を支えた名捕手、ヨギ・ベラの言葉ですが、ビジネスにおいても、目的を明確にせずに行なう施策は、多くの場合、効果が期待できません。また、それが効果的だったどうかといった評価もできません。ただ、そうは言いながらも、なかなか目的を明確に設定するのは現実的にはむずかしかったりするようです。
目的を明確にした、独自のインターネット戦略だけが効果を生み出す
私たちも時折、お客様企業の担当者から「自社のホームページをどうすればいいか?」という声を聞きますが、多くの場合、目的の設定がうまくいっていない場合が多いように思います。これは私たちのようにWebソリューションを提供する側の責任でもあると思いますが、どうしても自社のホームページをどうするかといった問題を考えるとき、Webやインターネットで何ができるのかというところから思考を始めてしまいがちです。ただ、そこから始めてしまうと、なかなか明確な目的を見出せません。Webやインターネットといったところから始めると、思考の方向性が一般論に傾きがちだからです。Webの特性、インターネットの特性などから考えはじめると、そのつもりはなくても一般的な事例の後追い作業になってしまいます。
しかし、実際の企業のビジネスを考えると、それぞれの企業は自社の事業をいかに個性あるものにし、差別化を図るかということが課題となっています。当然、個々の企業の強みは企業の独自性の部分にありますから、そうした強みをホームページで活かそうとするときに、一般論を持ち出すのはナンセンスでしょう。また、そこで企業の独自性を無視して、無理やり一般論的なビジネスモデルや手法をあてはめようとする複雑で無意味な作業が、そもそもの目的を見失わせたりもしています。
目的が見えにくく感じられたときは、さらに上位の目的から考えるのが得策です。独自性をもった自社のコア・ビジネスの強みを、いかにWebを利用して拡張していくか?など、自社のインターネット戦略をより上位に位置する企業戦略や事業戦略などをもとにして、ホームページで実行する施策を考えることが、実はアクションプランを練る上で最良の近道だったりします。そうすることで、どこへ向かうかという目的も明確になりますし、行き着く場所も「とんでもないところ」とはならず、期待通りか、もうすこし頑張らねばといったような、わかりやすい判断の下せる結果が得られるようになるでしょう。また何より、進むべき方向が明確になったり、効果が判断しやすくなることで、実際にWeb戦略業務を担当されている人自身が、モチベーションを高く保って業務にあたれるようになるのではないでしょうか。
私たちも、経験的事例に基づくモデル(見本)を個々の企業に適用するというやり方ではなく、各クライアント企業固有の強みと弱みを理解することで、既存の経営資源に新しい視点を導入しビジネスの拡張を目指す、真に効果的なインターネット戦略のご支援を行なっていきたいと考えております。
自社の独自性を、ブランドに変換する
さて、企業の課題という意味では、現在、多くの企業が重要な経営課題としてブランド構築に期待と関心を寄せています。その一方でブランド構築においては何をどう扱えばいいのかとお困りの実務担当者も多いようです。
ブランドにとっては、何よりその独自性が他との競争優位性となりますが、企業が競争優位となる独自性を持っているだけでは、そこから自然にブランドが生まれるということはありません。顧客がブランドから、商品・サービスの属性以上の魅力を連想するためには、計画的なコミュニケーションによって、顧客の頭の中のブランド・イメージをマネジメントしていく必要があります。その意味では、ブランド構築とはブランド知識に関するナレッジ・マネジメントだと言えます。
今回と来週の2回にわたるコラムでは、ナレッジ・マネジメントの視点から、ブランドの独自性を伝え、ブランド価値を高めるためのWebコミュニケーションを中心にしたブランド構築について、触れてみたいと思います。
ブランド構築とはブランド知識に関するナレッジ・マネジメント
ブランドが価値あるものになるかどうかは、顧客次第です。商品やサービスなどと違い、ブランド自体には何ら機能的な便益はありません。顧客がブランドを価値あるものとして認めなければ、ブランド自体には何の価値もないのです。こうした間接性はブランドの特殊性のひとつです。ブランドは、顧客がその価値を認めることで初めて、その法的所有者に価値をもたらします。その意味で、実際のブランド構築活動のメインとなる現場は、他でもない顧客の頭の中だと言えるでしょう。
ブランドは認知されるだけでは価値を生みません。もちろん、認知されることが第一条件ですが、どう認知されるかという点もブランド構築においては重要です。ブランドは、顧客それぞれがもつ価値観、期待と結びつく連想とともに認知されなくては、価値あるものとはなりえません。ブランド構築とは、顧客の頭の中のブランドに関するイメージ、連想が、商品やサービスに属性以上の魅力や信頼感などを与えるものとなるよう、複数のコミュニケーションによるシナジー効果によって、顧客のブランド知識をマネジメントしていく活動だということができます。
また、コミュニケーションによってブランドが顧客から愛されるものにするためには、ブランドを提供する企業側の取組みにおいても、統合的な戦略に基づく一貫したコミュニケーションの実行が重要となります。企業の側で、営業、マーケティング、広報などの各部署がバラバラにブランドに関するコミュニケーションを行なってしまえば、それにより創られるブランド・イメージは統一性を欠いたものとなり、結果、強力な価値を生み出すブランドを構築できずに終わってしまうでしょう。顧客に一貫した価値を約束するブランドを構築するためには、従業員だけでなく、外部のブランド・コミュニケーションに関係する人たちをも対象として、中長期的な戦略に基づくブランド知識のナレッジ・マネジメントを行なっていかなくては、強いブランドを構築することはできないでしょう。
ブランド知識をつくるコミュニケーションの条件
ブランド構築とは、企業側が顧客の期待を反映して設計したブランド・アイデンティティと顧客がもつブランド・イメージを、コミュニケーションを通じて統合していく活動だと言えます。ここでまず問題になるのは、企業の知識ベースと顧客の知識ベースでは、その内容が異なるということです。また、個人の知識ベースはその人の価値観や生活環境によって異なりますので、当然、ひとりひとりが違う知識ベースを有しています。それは企業内においても同じで、従業員のブランド知識はひとりひとり異なるはずです。
こうした個々の人々で異なるブランド知識をコミュニケーションにより統合していくことが、ブランド構築の課題となりますが、それにはまず、顧客であれ、従業員であれ、コミュニケーションの対象とする人がどんなブランド知識を持っているかということを把握することから始めなくてはなりません。事実を知ること、つまり、あるべき姿と現状のギャップを知ることが重要です。
ギャップが把握できたら、そのギャップを埋めることが次のアクションとなりますが、その際、知識というものの特性を理解する必要があります。知識と情報は混同されがちですが、この場合、足りない知識を新たな追加情報の発信によって埋めようとしたところで、そう単純にはギャップは埋まりません。相手に話をしただけでは内容が伝わったことにはならないのと同じことです。人は基本的に自分の興味のあることにしか聞く耳を持たないのです。新しい情報を発信する際は、対象者が現在どんな知識を持っていて、その知識と新しい情報のあいだにどのようなリンケージ(連想)が確立できるかという点を考慮して、コミュニケーションを設計する必要があります。対象者の既存の知識とリンケージが確立できない情報は、ただ、その場で右から左へと聞き流されています。人は自分の持っている知識に対して意味のあるリンク(連想)が確立できる情報に出会ったときだけ、その情報を新しい知識として自分の中に取り入れるのだと言ってよいでしょう。
また、対象者に、新しい情報を知識として取り入れてもらうには、誰が情報を発信しているか、情報との接触が何度も繰り返し起こったかどうかといった点も重要な要素となります。同じ情報でも親しい人間から聞いた場合は、親しみや信頼を情報そのものに対しても抱く場合がありますし、さまざまなメディアからおなじ情報を繰り返し聞かされれば自然とその情報が知識として身につくこともあるからです。ブランド戦略を策定する際には、こうした条件を生み出す情報環境を、さまざまなメディアを通じて計画的につくり出すことが必要になってきます。
何をコミュニケーションするのか?
では、どのようなコミュニケーションを行なえばいいのでしょう? ここで悩んでしまう方もいらっしゃるかと思います。しかし、悩む必要はありません。なぜなら、すべての企業は独自の形で事業を行なっているからです。ブランド構築のためにはブランドの独自性をいかにコミュニケーションするかが問題になります。しかし、そのコミュニケーションに必要な知識はすでに会社の中に埋まっているのです。また、顧客に対して事業を行なっているなら、顧客の側にも知識が蓄積されているはずです。たとえば、あなたの会社の営業の方はお客様とどんなコミュニケーションをしていらっしゃるでしょうか?現実の業務の中で行なっているコミュニケーションがヒントになるはずです。消費財メーカーなどでお客様との直接の接点が少ないという方なら、まず、何人かのお客様と実際にコミュニケーションをしてみることです。
重要なことは、どうコミュニケーションするか?と問うことではなく、どうコミュニケーションしているか?と問うことです。どのようなコミュニケーションを行なうかを決めるにはまず、自社内や顧客側に埋もれたブランド知識を掘り当てることです。そして、掘り当てた知識を解釈したり、意味づけを行いながら、ブランド連想を生み出すネットワークを設計します。この作業にはテキストマイニングのツールなども有効ですが、最終的には手作業で連想ネットワークが効果的に組み立てられているかを確認する必要があるでしょう。
こうして組み立てられた連想ネットワークの設計図が、ブランド構築のためのコミュニケーションのシナリオとなります。さまざまなメディアを使って行なうブランド・コミュニケーションでは、このシナリオを用いることで一貫性のある施策を実施することが可能となるでしょう。次回は、こうしたコミュニケーション・シナリオを元にしたブランド構築におけるWebコミュニケーションの役割について書いてみたいと思います。
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