プロジェクト定義の重要性 〜報われないプロジェクトにしないために〜
マーケティング本部 プランニンググループ 森 ゆき報われないプロジェクト。それは失敗したプロジェクトとは違います。プロジェクトメンバーはその使命を果たし、プロジェクトは十分な成果を上げたはず。にも関わらず、上司や会社からその成果を正当に評価してもらえないプロジェクト。そういうプロジェクトを私は「報われないプロジェクト」と呼んでいます。私はミツエーリンクスに入社する前、電子回路の設計技師として某メーカーに勤めていました。例として、そこで私が見た「報われないプロジェクト」をご紹介します。
その社内プロジェクトは十分な成果を上げた
そのメーカーでは、事業部がいくつかの製品部に分かれており、それぞれの製品部が100名前後のスタッフで構成されていました。そのうちのA製品部では、効率が良く、人的ミスの起こりにくい設計手法を追求しており、多種多様な自動設計ツール及びライブラリーと、それらを使いこなすノウハウが蓄積され続けていました。
ある時、事業部長からA製品部に対し、重大なミッションが与えられました。A製品部の持つ設計ノウハウを、他の製品部の設計技師に伝え、事業部内で技術を共有するというものでした。
A製品部では、早速プロジェクトチームを編成し、上記ミッション達成に向け活動を開始しました。対象となる設計技師の人数は数100名。マニュアルやトレーニング資料を作成してトレーニングを開催し、デモデータを用意してデモを実施。その後、OJT(On the Job Training)で実回路の設計を指導。数年がかりで取り組み、事業部内の設計技師たちはA製品部の持つ設計ツールを使いこなすことができるようになりました。そしてその結果、それぞれの製品部の生産性が上がり、事業部全体の売上げが向上したのでした。
プロジェクトの評価方法が分からない
各製品部では、グループ毎の売上げと利益を定期的に数字で表し、事業部長に報告していました。上記社内プロジェクトは見かけ上、売上げはありません。A製品部の売上表には、プロジェクトメンバーの売上げは0円と記載されました。そして、そのプロジェクトメンバーが足を引っ張る形で、そのプロジェクトを管轄するグループの売上げは他のグループに比べ、一段低いものとなりました。事業部長は、数年前に自分がそのプロジェクトを指示したことなど覚えていないかのように(実際、忘れていたのかもしれません)、各製品部の売上げ数字だけを見て、A製品部には売上げの少ないグループがあり、好ましくないと指摘しました。 事業部全体に対し大きく貢献したはずのプロジェクトは、残念ながら正当な評価を受けることなく、その役目を終えて解散となりました。
プロジェクトメンバーには、達成したことに対して評価してもらえなかったという残念な気持ちが残りました。成功したプロジェクトは、成功したということを決裁者、この場合だと事業部長から表明してもらう必要があります。そのためには、「どういう状態が、どういう状態に達したらこのプロジェクトは成功である」という到達したい姿、すなわちプロジェクト定義が、プロジェクト開始時に明確にされている必要があります。
正当な評価を受けるために、プロジェクト定義が必要です
大きな財務的利益を生むプロジェクトの場合は心配ありません。誰から見ても、そのプロジェクトを遂行する意義と成果が明確だからです。しかし、社内プロジェクトに多く見られるような、直接的財務的利益をもたらさないプロジェクトの場合は、「報われない」状態で終わるケースが多い。それは常に、そのプロジェクトの最終ゴールと評価基準を、決裁者が理解していないことに起因します。プロジェクトマネージャーは、自分のプロジェクトを「報われない」状態にしないために、すなわち、成果を正当に評価してもらうために、最初にしっかりとプロジェクト定義をして、決裁者に理解させることが重要です。
本例報われないプロジェクトのメンバーの一人であった私は、当時、社会人数年目の若輩ながら、いつか自分がプロジェクトを仕切る立場になった時には、報われないプロジェクトは絶対に作らないと強く思いました。これが、私がプロジェクトマネージメントに興味を持ち、真剣に考えるようななったきっかけだったかもしれません。
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