オーストラリアで感じたWeb標準の潮流
Web開発チーム フロントエンド・エンジニア 木達 一仁9月30日と10月1日の両日、オーストラリアはシドニーで開催されたWeb Essentials 04(以下「WE04」)に参加しました。WE04は、Web標準のなかでも特にマークアップ言語やスタイルシート、アクセシビリティにフォーカスし、それらに対する一層の理解や利用の促進を目的としたカンファレンスです。オーストラリアやニュージーランドはもちろん、遠くイギリス、アメリカ、カナダ、そして日本から200人以上もの参加者が集まりました(日本からの参加者は私一人でした)。
WE04のすべてのセッションのなかで最も印象に残ったものを二つご紹介したのち、イベント全体を通じて感じたWeb標準の潮流についてお話ししたいと思います。
Zen and the Art of Web Improvement
最初にご紹介するのが、Dave Shea氏による1日目のキーノート・スピーチ「Zen and the Art of Web Improvement(Webの進歩における禅と芸術)」。Dave氏といえば、単一のHTML文書にさまざまなスタイルシート(CSS)を適用することで多様なヴィジュアルデザインを実現、文書構造と視覚表現の分離がもたらす可能性を広く世に知らしめた、Zen Gardenというサイトを運営していることで有名なクリエーターです。
氏は、世界中のデザイナーから同サイトに寄せられたデザインをいくつか紹介したうえで、サイトの趣旨を解説。それに続けて、Web標準を利用することのメリットとして「アクセシビリティ」、「SEO(検索エンジン最適化)」、そしてHTML文書のファイル容量の軽量化とCSSファイルがキャッシュされることで実現される「より短時間でのダウンロード」の3つを挙げました。
さらに、同サイトの登場をひとつの契機として、商用サイトにおけるCSSの積極的な導入が始まったこと、いまやWeb標準の利用は十分に実用的な段階に到達していることを述べました。また、ブラウザシェアにおいてインターネットエクスプローラー(IE)の利用率が落ち始めていることに言及し、1年後にはIEが65%、Mozilla Firefoxが25%、OperaやSafariなどが10%のシェアを占めるのでは?という予測でスピーチを締めくくりました。
Pushing Your Limits
次にご紹介するのが、2日目に催されたセッションで、Doug Bowman氏によるプレゼンテーション「Pushing Your Limits(限界を押しやれ)」です。Doug氏は、Web標準の利用にかけては世界的に有名で、Wired NewsやBloggerといった著名なサイトをXHTMLとCSSに準拠して再構築したなどの実績があります。Stopdesignというデザインコンサルタント会社を営むかたわら、Web Standards Projectのメンバーとして、Web標準の普及に貢献しています。
氏はプレゼンテーションの冒頭、CSSに関するいくつかの誤解を解いたうえで、道具としてCSSを認識し、そして使いこなすことの重要性を説きました。またBloggerの再構築を例にワークフローの詳細を解説し、関連文書を整備することや、プロトタイプを素早く作ることなどのポイントを披露。最近よく使われているCSSのテクニックの数々を紹介した後は、自らの手でテクニックを生み出すこと、CSSの仕様にクリエイティビティを限定させてはいけないこと、を結びのメッセージとして話しました。
Web標準の潮流
WE04における数々の素晴らしい講演から強く感じたのは、Web標準を利用することの必要性が、世界的に浸透してきているということです。その背景にはアクセシビリティやSEOがあるのは事実でしょうが、しかし閲覧環境の多様化が加速するなかで、Web空間のユニバーサル性、ひいてはそれに最もよく適合する技術群としてのWeb標準が、広く理解されるようになってきたという側面もあると思います。
もちろん今もなお、Web標準のポテンシャルを100%引き出すには困難な場面も多々あります。キーノートのなかでDave氏が指摘していた点ですが、ブラウザ側のCSSメディアタイプに対する対応が不足しているがゆえに、個々の閲覧環境に特化した表現をいまだ十分発揮できないというのは、その一例でしょう。
今後Web標準の持つ価値が一層広く普及していくためには、情報の受信者側と発信者側の双方に対する啓蒙が欠かせません。その啓蒙は、単にWeb標準を利用するのみならず、いかに「適切に」利用するか、ということをも踏まえたものであるべきでしょう。
たとえば、アクセシビリティというと何か特別な処置を施すことを想像する方もいらっしゃるかもしれませんが、実際にはそうとも限りません。(X)HTMLの仕様に準拠し、視覚表現をCSSで制御するようにするだけで、100%とはいわずとも「それなりに」アクセシブルなサイトを構築することができます。なぜなら(X)HTML自体が、アクセシビリティに配慮して策定された仕様だからです。
Web標準は市場の、そして時代の要請となりつつあります。そういった動きのなかで、弊社はより一層力強くWeb標準にコミットし、またその価値をお客様に提供していきたいと思います。
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