Web標準のススメ
Web開発チーム フロントエンド・エンジニア 木達 一仁先日、アップルストア銀座で開催された「CSS Nite Vol.3」に、ゲスト出演させていただきました。CSS Niteは、株式会社スイッチ様が企画されているマンスリーイベントで、今月で3回目の開催となります。毎回、Webコンテンツのフロントエンド実装において表現を担うCSS(Cascading Style Sheets)ならびにサイト構築ツールとして定評のあるDreamweaverにスポットを当てて、プレゼンテーションが行われています。
今回私は「Web標準のススメ」をテーマに、CSSのみならず文書構造を記述する(X)HTMLをも含めた、より包括的なWeb標準のお話をさせていただきました。これまでWeb標準セミナーという形式で社内のセミナールームを会場にプレゼンをする機会はあったものの、一般の方々を前にして行うのはこれが初めて。しかも会場に100近くある座席は開始時点で既に満席、立ち見の方もいらっしゃる程の盛況ぶりで、初めのうちはかなり緊張してしまいました。
自分のプレゼンに割り当てられた時間はあらかじめ30分間と定められていたにもかかわらず、せっかくの機会だからと結構な量の情報を詰め込んだ結果、かなりの早口(後で録音を聞いてショックを受けたほどのスピード)で進行しなければなりませんでした。そのうえ、事前にCSS Niteのサイト上で募っていただいていた質問に回答するQ&Aコーナーも、残念ながら割愛せざるを得ませんでした(いただいたご質問は今後Web標準Blogを通じて回答させていただきます)。
当日ご参加くださった皆様には、厚く御礼申し上げると共に、この場をお借りして当日の不手際の数々をお詫びいたします。
今だからこそ声高に主張したい「Web標準のススメ」
プレゼンでは、自分がかつて宇宙開発事業団のWebマスターを務めていた頃にWeb標準の重要性の気付きを得たという自己紹介に始まり、Web標準の定義や歴史、なぜ過去に普及しなかったのか、Web標準を取り巻く状況の近年における変化、それらを踏まえてのWeb標準に取り組むべき理由、欠点あるいは短所の存在、そしてWeb標準を使いこなすポイントについての私見をまとめています。基本的には、これまでWeb標準セミナーを通じお話ししてきた事柄をコンパクトに凝縮させた内容です。
Webコンテンツ実装にWeb標準を適切に利用することで期待されるメリットの数々については、これまでにもさまざまな機会を通じてお伝えしてきました。アクセシビリティの向上、検索エンジン最適化(SEO)への貢献、閲覧環境の多様化への対応、ファイル容量の削減に伴う通信帯域の有効活用、ダウンロードおよびレンダリング時間の短縮に伴うユーザ体験の質の向上やメンテナンス性の向上、サイトリニューアル時のコスト低減など。これらのメリットを個別に考えるなら、必ずしもWeb標準に準拠せずとも享受できる手法が考えられますが、しかし全てのメリットを網羅的に享受しようとなると、もはやWeb標準の利用以外に考えられません。
しかし、何事にも長所があれば短所もあるように、Web標準とて必ずしも良いこと尽くめというわけではありません。プレゼンの「欠点や短所はあるのか?」という項では、いくつかのネガティブな点についてお話ししました。その最たるものが、いまだ足並みのそろわぬブラウザのWeb標準サポートでしょう。まずブラウザがしっかりと対応してくれないことには、Web標準、とりわけCSSの真価を発揮させ、また恩恵に与るのが難しいのは明らかです。
ところが、そのブラウザのWeb標準サポートは、この一年で状況は大きく好転しました。FirefoxやOperaといったモダンブラウザの躍進のみならず、注目すべきは来年登場するWindows版Internet Explorer(以下「IE」)の次期バージョン、IE7。開発者自らがIEについて語るその名も「IEBlog」において、IE7ではスタイルシートの解釈にまつわるさまざまな既存のバグが解消され、またこれまで未サポートであったセレクタやプロパティ、そして透過PNG形式の画像ファイルに対応する予定であることが明言されています。
Macintoshプラットフォームに目を移せば、目下のデフォルトブラウザであるSafariがシェアを伸ばしています。Safariの最新版(バージョン2.0.2)が極めてよくWeb標準に準拠していることは、その一種の指標としてWeb Standards Projectが提供しているAcid2 Testを同ブラウザがパスしていることからもお分かりいただけるでしょう。
折りしも数日前、MicrosoftはMac版Internet Explorer(以下「MacIE」)のサポートを今年一杯で終了することを発表しました。かつてMacIEは、Web標準サポートに関し最も先進的なブラウザとして歓迎されましたが、他のモダンブラウザが台頭するにつれ影が薄くなり、開発停止がアナウンスされてからというもの、Web制作界隈ではどちらかというと厄介者の扱いを受けることが多かったように思います。MacIEの終焉に際しては、個人的には複雑な思いがあるものの、これによってMacIEのシェアの低下に拍車がかかり、Web標準を積極的に利用するための環境は一層整いつつあることは間違いありません。
この他にWeb標準の負の側面として掲げた高い学習曲線、発想の転換やワークフローの改革の必要性などは依然として(特にレガシーな手法による実装に慣れきっている向きには)高いハードルかもしれません。しかし時間の経過と共に、Web標準に準拠しなくとも良い理由が無くなりつつある傾向をはっきりと感じ取ることができます。2005年も残りあとわずかですが、来年はIE7の登場と共に世界規模でWeb標準準拠の機運が一層高まるものと期待し、また私自身その実現に向け精進しなければならない、と感じています。
そう遠くない将来、ユーザシェアの大半を占める主要なブラウザが正しくWeb標準に準拠し、コンテンツ実装の側においてもWeb標準準拠が常識と化し、Webサイト構築を発注されるクライアント様に対しては、クオリティを損ねることなく(品質保証プロセスの簡便化によって)より安価にサービスを提供できるようになる……そんな日が訪れることを信じて止みません。
「スタイルシート スキルアップ・デザインブック I」発売!
ところで、CSS Nite Vol.3の途中じゃんけん大会が行われ、一名の方に書籍「スタイルシート スキルアップ・デザインブック I」がプレゼントされました。これは著名なCSSエバンジェリストであるEric Meyer氏の書いた「Eric Meyer on CSS」の日本語版ですが、私はその監訳を担当させていただきました。原著の出版時期こそ若干古いものの、今なお十分に使えるアイデアやティップスを満載、また原著には含まれていないボーナス・マテリアルも収録した、チュートリアル形式による実践的な一冊です。これからCSSに取り組もうという方も、既に一通りのことは知っているという方にも、是非一度お手に取ってご覧いただければと思います。
なお、「I」があるからには当然「II」があるわけで、続編にあたる「スタイルシート スキルアップ・デザインブック II」(原著のタイトルは「More Eric Meyer on CSS」)も、来年1月の発売に向けて準備を進めている最中です。さらに先のお話になりますが、CSSの可能性をまざまざと見せつけてくれるサイト「css Zen Garden」と、そこに掲載された素晴らしいデザインの数々について解説した名著「The Zen of CSS Design」の日本語版も、来春の発売を目指し準備していますので、ご期待ください。
これらの書籍はいずれも、そのタイトルからお分かりのようにCSSを主題として扱っています。CSSの利用自体は、Blogコンテンツのカスタマイズの流行などを背景に、かなり普及した感があります。しかし、スタイルを適用する対象であるところの(X)HTML文書の構造が文法的だけでなく意味的にも妥当でなければ、それは単にテーブルレイアウトに代表される物理マークアップをCSSで置き換えたに過ぎません。
近頃のニュースでは建築物の耐震強度偽装問題が毎日のように取りざたされていますが、Webコンテンツも似たような危険性をはらんでいるように思います。目に見えにくい文書構造こそがしっかりと設計されていなければ、どれほど見栄えをCSSで立派に飾り立てようと、それはある意味「偽装」に近いものがあるのではないか?と。CSSばかりでなく、意味的な(セマンティックな)マークアップという思想や手法が浸透するうえで、今後これらの書籍がお役に立てばと思います。
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