進化するアクセシビリティガイドライン
Web開発グループ アクセシビリティチーム エンジニア 中村 精親To lead the World Wide Web to its full potential by developing protocols and guidelines that ensure long-term growth for the Web.
この文は、W3Cのミッションを引用したものです。筆者なりに訳しますと、「World Wide Webの長期的な成長を確かなものとするプロトコルやガイドラインを策定することによって、Webが潜在的にもっている力が最大限発揮されるように導いていく」といった感じでしょうか。こうした目的のもと、W3Cではさまざまなプロトコルやガイドラインを策定しているわけです。
「Webの可能性を最大限発揮させる」という意味において、アクセシビリティの向上は重要な要素のひとつであるといえます。W3CにWeb Accessibility Initiative(WAI)というアクセシビリティ専門のドメインが存在することは、その表れといえるでしょう。
さて、そのWAIが、この1カ月ほどの間に今後のWebアクセシビリティに大きな影響を与えると思われるふたつのガイドラインをアップデートし、公開しています。本稿ではその内容を簡単に紹介しながら、進化するWebとそのガイドラインの今後について考えてみたいと思います。
WCAG 2.0草案のアップデート
Web Content Accessibility Guidelines(WCAG)は直接Webコンテンツの内容に影響し、また国や地域によっては法律との関連性もあることから、アクセシビリティ関連でも最も注目を集めているガイドラインです。もちろん、私たちのチームにおきましても、少しでも日本語での情報発信ができるように、また日本からの意見が取り入れられるように、その動向については常に注意を払っています。
さて、そのWCAGですが、アクセシビリティBlogでも5月18日のエントリーで既報のとおり、5月17日付で新しい草案が公開されています。
同エントリーでも言及しましたが、最終草案(Last Call Working Draft)となっていたステータスが草案(Working Draft)に戻っています。そのため、かなり時間のかかっている勧告(Recommendation)への道のりが、一見さらに遠くなったかのようにも思われます。しかし、WCAGのワーキンググループによると、必ずしもそういうことではなく、昨年5月の最終草案に対して、1000件を超えるコメントがあり、これを受けてのさまざまな変更を行ったためとされています。
現在は最新の草案に対するコメントを受け付けている状態ですが、public-comments-wcag20@w3.orgに投稿されている、前回の最終草案へコメントした人々の反応を見る限りは肯定的なコメントが多く、今後大きな問題がなければ、2度目の最終草案(Second Last Call Working Draft)、さらには勧告候補(Candidate Recommendation)、と進んでいくものと思われます。
また、肝心のアップデート内容ですが、基本となっている4つの原則こそ変わっていないものの(文章が単語になったとはいえ)、さまざまな面で変更が加えられました。特に大きな変更点を取り上げますと、全体的にわかりやすくなった、というのがひとつのポイントといえます。WCAG 2.0のコンセプトのひとつとして、将来にわたって利用できるガイドラインとする、というものがあります。それを達成するために、特定の技術に依存しない用語が使われているわけですが、これがあまりにもわかりにくいという意見が多かったため、改善されたというわけです。また、わかりにくさという観点からベースライン(baseline)の概念も「Accessibility Supported」へと変更されています。このあたりについては、別途アクセシビリティBlogの方で取り上げていきたいと思います。なお、変更点の詳細については、Summary of Changes Since the 2006 WCAG 2.0 Last Call Working Draftにおいて、まとめられています。
WAI-ARIAのアップデート
現在、そして今後のWebにおいて、Ajaxをはじめとしたリッチ・インターネット・アプリケーション(RIA)は非常に大きな存在といえます。このRIAのアクセシビリティを確保するための文書群がWAI-ARIA Suiteというもので、次の3つの文書から構成されています。
これらの文書はそれぞれ、「Roadmap」がその名のとおり、アクセシブルなRIAに関する今後の計画を示し、「Roles」では役割を定義し、「States and Properties」は状態およびプロパティに支援技術がアクセスできるようにするというものです。「Roles」「States and Properties」については、W3C勧告となるべく策定が進められています。
このWAI-ARIAに関してはまだ草案段階であり、かなり複雑な内容であるため、国内ではまだ解説なども少ないというのが現状です。また、海外では少しずつ対応する支援技術が現れ、それを利用したデモなども作成され始めていますが、そのあたりも日本はまだまだ、といえるでしょう。とはいえ、RIAは既にWebにおいても重要な要素のひとつでありますし、このガイドラインには今のうちから注目していく必要があると考えられます。
制作者、開発者、ユーザーに期待されること
以上のように、Webアクセシビリティに関するガイドラインもWebの進化についていくべく、日々進化を遂げています。しかしながら、どんなにガイドラインが変わろうとも、それを使う人々が変わらなければ、それらは何の意味も持ちません。そうした意味で、私たち制作者は、ガイドラインを正しく理解し活用していくことがますます求められていくでしょうし、そうしなければなりません。これに伴って、支援技術やユーザー・エージェントの開発に携わる人々が仕様に準拠した実装を行い、またユーザーが利用方法を理解していくことで、アクセシビリティという面におけるWebの力が最大限発揮されるようになるのではないか、と考えていますし、そうなることを願ってやみません。
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