「Web標準の日々」参加報告
取締役 兼 フロントエンド・エンジニア 木達 一仁去る7月15、16日の両日、東京・秋葉原にてThe Days of Web Standards[Web標準の日々]が開催されました。本イベントは、昨年開催されたThe Day of Web Standards [Web標準の日]の拡大版という位置づけで、CSS Nite(株式会社スイッチ)が主催されたものです。二日間を通じ、実に1,000人以上もの方々が参加され、たいへん盛況のうちに終了した本イベントに、弊社はゴールドスポンサーとして協賛したほか、4名の社員がプレゼンターとして出演。私もその一人として、XHTML+CSSトラックで「転ばぬ先のプロジェクトデザイン 〜Web標準への準拠を見据えて〜」をテーマにお話ししたほか、二日目のブラウザトラックではモデレータを務めさせていただきました。本コラムでは、そのブラウザトラックを中心に、イベントの模様を簡単にレポートします。
あなたも一緒にFirefox 3を作ろう!
Mozilla Firefox(以下「Firefox」)では、現在バージョン3の開発が着々と進められています。本セッションでは、登場が待たれるそのFirefox 3を「スープを刷新した幻のラーメン」に喩え、特長や開発プロセスに参加する方法などをMozilla Japanの根来氏と中野氏が解説しました。
Firefox 3の特長として、ブラウザのブックマークや履歴といった機能があまり使われていないという状況を踏まえた新機能のPlaces、インターネットに接続できなくとも(サービス側が対応していれば)オンラインと同様の閲覧が可能になるオフライン機能などが紹介されました。また、搭載されているレンダリングエンジンのGeckoも同時にメジャーバージョンアップを果たす予定で、CSSへの対応を中心に、さまざまな改善事項が紹介されました。開発プロセスへの参加については、実際の参加者の方々が登壇され、バグ情報の管理を行うBugzillaの日本語版、Bugzilla-jpの利用法を中心に解説がなされました。
Firefoxは、職場ではもちろん自宅でも愛用しているブラウザだけに、その将来バージョンの登場は非常に楽しみです。Web標準への準拠の度合いが一層高まるばかりでなく、「長いURL文字列が折り返されずに表示されてしまう」といった、従来であれば対応に苦慮していた部分にも配慮がなされており、そういった理由からも期待をしています。
Opera 〜Web standards everywhere すべてのデバイスへオープンなウェブ標準技術を
Opera Software ASA(以下「Opera」)といえば、デスクトップ環境はもとより、携帯電話やゲーム機など、さまざまなデバイス上に自社のブラウザを供給していることで知られています。本セッションでは、同社がどのような考え方に基づいてブラウザを開発し、また標準化活動に参加しているのかについて、CSO(Chief Standard Officer)の肩書きを持つCharles氏が講演しました。
たいへん興味深かったのが、質疑応答の時間に私がたずねた「Operaはなぜそこまで人員を標準化活動に割くことができるのか?」という問いに対する答えです。W3Cのほかにもさまざまな標準化活動に積極的にコミットしている同社ですが、仕様策定プロセスそのものが同社に直接的な利潤を生まないことは明らかなわけで、そのあたりの考え方を確認したかったのです。
答えはというと、端的にいってしまえば、そうした標準化活動が最終的には開発コストの節約につながるというものでした。Operaという企業ブランドを高めるといった側面もあるにせよ、標準を自ら率先して形作ることで、その自社製品への反映、すなわち実装のスピードを速めることにもなる、と。そのお話を伺ってなるほどと納得しつつ思い出したのがWidgets仕様です。この仕様の編集者の一人、Anne氏はまさにOperaにお勤めの方なのでした。
Internet Explorerの開発・フィードバックプロセスと、業界標準への取り組みについて
プレゼンターは、マイクロソフト ディベロップメント株式会社において、日本のユーザー/市場からのフィードバックを同社の製品に反映させるための活動に取り組んでいらっしゃる五寳氏。セッションの前半は「Internet Explorer(以下「IE」)とのつきあい方を知る」をテーマに製品の開発サイクルについての解説、そして後半は、より信頼できるIEをリリースするための方法を参加者の方々と共に模索するという、いわば意見交換会となりました。
本セッションを通じ個人的にたいへん印象的だったのは、IEをより優れたブラウザにしたい、そのためにもユーザーからの声をできるだけ多く集めたい、という五寳氏の熱意と真摯さです。かつてIEBlogが開設され、IEの開発者らが(言語は英語に限定されますが)自らの言葉で開発過程を語り、同時にエンドユーザーとのコミュニケーションを開始したことを知ったとき以上の感銘をご講演から受けましたし、五寳氏の存在をたいへん心強く感じました。
今後、日本国内向けに独自フィードバックプログラムが製品のベータ版リリースよりも早い段階に設定されるということで、私も積極的に参加していきたいと思います。どれだけ優れたプログラムが用意されようと、私たちWeb開発者自身が積極的に活用しないことには意味が無いでしょうし、その活用こそは昨年の「Web標準の日」の基調講演でお話ししたような、Webにかかわるすべてのステークホルダーに好循環をもたらすきっかけになるのでは、と思いました。
パネル・ディスカッション「ブラウザはどこに向かうのか」
今年の3月に開かれたSXSW(South by Southwest Festivals + Conferences)に参加した折(コラム「SXSW 2007参加報告」参照)、ブラウザベンダー同士のパネルディスカッションを拝聴して以来抱いてきた、「日本でも同様のイベントが開催できたらいいのに……」との願いが、ついにかないました。本セッションはFirefox、IE、Operaの各ブラウザベンダーより代表者が一堂に会する、非常に貴重な機会となりました。
Web標準、ベンダー間での共同、そしてブラウザとWebの今後という3つのメインテーマそれぞれに質問をあらかじめご用意し、ベンダーごとにお答えいただく形式で進めさせていただきました。総じて三者間に相違は多々あれど、それぞれにWeb標準に準拠しながら、そしてWebのオープンさに配慮しながら、ブラウザをより進化させていくという方向性は、共通していたと思います。
個人的にはmicroformatsへの対応に関する質問に対する、OperaのCharles氏からの回答が非常に面白かったと思います。microformatsとは、既存のHTML仕様に則りながらも、特定のデータフォーマットについて機械でも読み取れるようにするための、極めて草の根的に作られた標準のこと。これに対し、氏は将来的な対応の可能性に言及しつつも、microformatsという仕様そのものへの懸念を表明しました。
microformatsのデザイン原則のひとつに「人間第一、機械は二の次(design for humans first, machines second)」というものがあります。microformats仕様に登場する語彙や仕組みの分かりやすさはそのあたりに由来しますが、それをあまりに尊重し過ぎてしまうと、かえって危険である(機械で処理できないレベルの自然言語に近づいてしまう?)というのが、氏の懸念です。子供が話す程度のレベルに止めるなどすれば十分有効だろう、とも付け加えていました。これはmicroformatsのみならず(X)HTMLの未来、ひいてはWebの未来を考えるうえでも、たいへん興味深いと思います。
終わりに
いかがでしたでしょうか。ブラウザトラックのみならず、Web標準の日々のほぼすべてのセッションのスライドや音声データはいずれ公開される予定です。本コラムだけでは、ご紹介したセッションに限ってもその内容や魅力を十分お伝えすることはできませんけれども、ご興味を持たれた方は是非CSS Niteのサイトを定期的にチェックし、データが公開される日をお待ちいただければと思います。
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