主要ブラウザの開発動向とWeb標準準拠
取締役 木達 一仁今年のはじめ、技術評論社のサイトに「2008年のWeb標準」というタイトルで記事を書かせていただきました。そのなかで「更なる標準準拠が期待されるWebブラウザ」と題し、今年登場するであろうWebブラウザについて触れています。それから早くも3カ月近くがたった今、既にInternet Explorer 8(以下IE8)のベータ版が公開され、またそれに刺激されるかのように、他の主要なブラウザでも新バージョンに関する動きが活発化しています。本コラムでは、IE8を含め最近のブラウザの開発動向に関して、Web標準にコミットする立場から俯瞰(ふかん)をし、また私見を述べたいと思います。
Internet Explorer
IE7がリリースされたときと同様、IE8の詳細が、ラスベガスで開催されるMIXカンファレンスの場で明らかにされました。それと同時に、開発者向けのベータ版が公開、ダウンロード可能となっています。IE8についてまず注目すべきは、なんといってもWeb標準への積極的な準拠でしょう。Web Standards Project(WaSP)の提供するAcid2テストをパスし、他の主要なブラウザ(開発版含む)同様に笑顔を表示できるようになりました。Acid2テストは、各種仕様を正しく解釈した暁に、スマイリーを表示するよう設計されているのです。
Acid2テストをパスするのみならず、目標としてCSS 2.1仕様に完全準拠することが、IE開発者のBlog「IE Blog」の記事「Internet Explorer 8 Beta 1 for Developers Now Available」で挙げられています。それが果たして技術的に可能かどうかを疑問視する声も聞かれますが、自社で作成した700以上に及ぶCSSテストケースをW3CのCSSワーキンググループに提供した事実からすれば、力を入れて取り組んでいることは事実でしょう。
IE8に関しては、MIXカンファレンスより前からその表示モードをめぐりWeb上で議論が交わされていた経緯があります。具体的には、最も標準に準拠した表示モードで表示させるためにはHTTPヘッダーもしくはmeta要素を用いてそのように指定する、というMicrosoftの発案に対して、賛否両論が多数寄せられたのです。詳しくはWeb標準Blogの「IE8の新しい標準モードとモードスイッチ」をお読みください。
結局のところ同社は、そのような指定を必要とするのは旧バージョンとの互換性を必要とするコンテンツとし、無指定でAcid2をパスした新しい表示モードを適用するよう方針を変更しました。これは、Web全体の相互運用性を踏まえて検討した結果と説明されています。しかしデザイナーや開発者からの声をしっかり聞き入れ検討した結果でもあることを鑑みれば一層、この方針変更は評価されてよいのではと思います。
またIE8に搭載された新機能のうち興味を引かれるのが、WebSlicesです。これは既存のHTML仕様が提供するセマンティクスを草の根的に拡張するmicroformatsの考え方をベースとしています(microfomartsについては、コラム「microformatsの可能性とWebページの将来像」をお読みください)。特定のclass属性をあらかじめコンテンツに実装しておくことで、IE8ではページ全体ではなくその一部の更新をチェックできるようになります。Blogコンテンツの隆盛とともにフィードの活用が普及してきましたが、WebSlicesもまたWebページに新たな活用法をもたらすかもしれません。
Mozilla Firefox
オープンソースかつクロスプラットフォームのブラウザ、Mozilla Firefox(以下「Firefox」)ではバージョン3のリリースに向けた準備が進められています。本コラム執筆時点では、Beta 4が最新のリリースになります。Firefox3は、Beta2リリースで上述のAcid2テストをパスしており、やはりWeb標準に準拠するよう開発が進められているブラウザです。
Webブラウザのmicroformatsへのネイティブ対応というのは、少し前であればこのFirefoxに期待が集まっていたように思います。既にOperatorやTails Exportなどのアドオンというかたちで、microformatsを利用するための手段が用意されてきましたし、また事実そのような計画が噂された時期もあります。しかし目下、その実装については微妙な状況のようです。しかし、厳密にはmicroformatsそのものへの対応ではないにせよ、IE8がWebSlicesでそれに近いアイデアを採用したことで、Firefox含め他のブラウザもこの動きに追随することを、個人的には大いに期待したいと思います。
Safari
つい先日のことですが、Safariに新バージョン、3.1がリリースされました。これはMac、Windowsの両プラットフォーム向けに提供されており、Windows向けには長らくベータ版という位置づけだったのが、ようやく正式版となりました。今年1月に最初の草案が公開されたばかりのHTML 5仕様や、正式勧告前ながらCSS3の一部に対応するなど、Safariも積極的に標準準拠を推し進めています。
またSafari 3.1では、WebデザイナーやWeb開発者向けに嬉しい機能が搭載されました。「環境設定」の「詳細」で「メニューバーに"開発"メニューを表示」にチェックを入れることで利用できるようになる一連の機能がそれです。閲覧中のページを別のブラウザで開いたり、別のユーザーエージェント名に切り替えたり……。また「Webインスペクター」を起動すれば、任意の要素に適用されているスタイルを簡単に確認することもでき、Webページ制作を手助けしてくれることでしょう。
ちなみにWaSPは上述のAcid2に続き、Acid3テストを公開しています。これは過去のAcidテストよりもかなり複雑化しており、テスト対象をHTMLやCSSよりもDOMやECMAScriptといった部分にフォーカスしたものとなっています。SafariのレンダリングエンジンであるWebKitの開発者がつづるBlog「Surfin' Safari」では、このところ連日のようにナイトリービルドでのAcid3テスト結果を公開しています。最近の記事によれば、Acid3に含まれる100個のミニテストのうち既に93をクリアしており、Acid3テストをパスする最初のブラウザとして有望視されています。
Opera
デスクトップPCで動作するブラウザに限っては、IEやFirefox、Safariほどのシェアを持たないものの、携帯電話やゲーム機など、さまざまなプラットフォームに供給されているOperaは、以前から標準準拠に積極的なブラウザです。現在は9.5というバージョンのリリースに向け、そのプレビュー版が公開されている状況ですが、たとえばCSS3で利用できるようになる予定のセレクタすべてに対応しているのは、同社のWeb標準に対するコミットの表れでしょう。
ところでIEではIE Developer Toolbar、FirefoxではFirebugやWeb Developer Toolbarなどのアドオン、そしてSafariでは上述のWebインスペクターといった具合に、WebデザイナーやWeb開発者にとっては便利なツールが存在しています。そのブラウザを使って、デバッグ作業などを含むサイト構築をいかに支援するかも、ブラウザが普及するうえで重要な要素の一つではないかと思います。
OperaでもかねてよりOpera developer toolsやFirebug Lite、Web Developer Toolbar & Menuと呼ばれるツールが利用できましたが、他のブラウザほどデバッグに便利なツールが存在しない点は、Opera Software社CEOのTetzchner氏も認め、また改善を約束しているところです。その約束が果たされたとき、OperaはWebデザイナーやWeb開発者にとって手放せない存在となるかもしれません。
まとめ
IE、Firefox、Safari、Operaのそれぞれについて、非常に限定的ながら最新の動向を私見を交えてご紹介してきました。どのブラウザも基本的にWeb標準準拠を積極的に推進しているほか、デザイナーや開発者を支援するような動きをみせているのは、たいへん心強いことです。もちろんその支援というのは単に便利な機能やツールを提供するだけではなく、Blogなどを通じて開発の進捗をオープンにしたり、あるいは関連文書を積極的に公開するといった諸々も含みます。
こうしたブラウザベンダーの動きに対し、私たちWeb制作者もまたフィードバックを介して逆に支援をし、相互に高め合う関係性を築ければ良いなと思います。そして最終的には、より多くの利用者に、標準に高いレベルで準拠した優れたブラウザが普及し、同じ標準に準拠して制作されたコンテンツがより多くの環境で意図したとおりに機能、あるいは表示されるようになればと願っています。
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