CSUN2008参加報告
アクセシビリティ・エンジニア 辻 勝利毎年3月にカリフォルニア州ロサンゼルスで開催される、世界最大級のアクセシビリティに関する国際会議、Technology & Persons with Disabilities Conference(主催のカリフォルニア州立大学ノースリッジ校の頭文字を取ってCSUNと呼ばれています)に、昨年に引き続き今回も参加してまいりました。本稿では特に、筆者が今年のカンファレンス参加で注目した事柄を中心に述べるとともに、去る4月18日に開催したCSUN参加報告セミナーの様子もあわせてご紹介したいと思います。
CSUNとは
前述のとおり、CSUNは毎年3月にロサンゼルスで行われる世界最大級のアクセシビリティに関する国際会議で、今年で23回目を数えます。
今年は3月10日から15日まで、マリオットホテルとルネッサンスホテルを会場に開催され、300ものプレゼンテーションが行われました。参加者は事前に、LetsGoExpoというサイトで参加登録を行い、Web上で公開されたプレゼンテーションスケジュールを参考にしながら、自身の聞いてみたいプレゼンテーションの席をオンラインで予約し、自身のCSUN参加プログラムを作っていくという形式が取られています。同じ時間に複数のプレゼンテーションが同時進行で行われることもあり、膨大なスケジュールの中から自分が参加したいトピックを探し出すのは容易ではありませんが、この事前の参加プログラム作成作業は、CSUNに参加するうえで大変重要な役割を持っております。なぜなら本年からは、安全上の理由から、事前に参加登録していない人が、プレゼンテーションの立ち見をすることができなくなったからです。
ひとつのプレゼンテーションは30分から1時間で構成され、合間には20分の移動時間があります。その20分の中で、次のプレゼンテーションに参加するために移動しなければならないのですが、不慣れな場所でもありますし、聞きたいプレゼンテーションの開催場所が別のホテルになっている場合などは、移動がとても大変でした。ホテル間の移動はもちろん徒歩でも可能ですが、筆者は道中に道に迷ってしまうことを避けるために、シャトルバンを利用しました。これは、カンファレンス開催中に、二つのホテル間を移動するために用意されたサービスで、ホテル間の移動に補助が必要な方なら誰でも利用できるというものでした。
最新の技術や研究に関するプレゼンテーションとともに、CSUNでは多くの出展者の展示ブースを訪れることでも新たな発見ができます。プレゼンテーションで紹介されたものだけでなく、新しい技術や研究成果、サービスなどを自身で体験することが可能だからです。
前置きが長くなってしまいましたが、筆者が参加したセッションの中で、気になったものを二つご紹介します。
Macに標準搭載のVoiceOver
数多くのプレゼンテーションの中で、今年筆者が特に注目したのが、アップル社のMacintoshコンピュータのオペレーティングシステム、Leopardに標準搭載されたスクリーン・リーダー、VoiceOverでした。日本ではほとんど触れる機会のなかったMacを実際に操作し、安定したスクリーン・リーダーの動作を確認することで、オペレーティングシステムに標準搭載されたスクリーン・リーダーの利点を体感できたと思います。
余談になりますが、スクリーン・リーダーが必要な視覚障害者がはじめてコンピュータを購入し利用を開始するためには、コンピュータのほかにスクリーン・リーダーを購入しなければならないというのがこれまでの常識でした。ところが、昨年のCSUN参加報告でも述べているように、スクリーン・リーダーにもオープンソース化の動きが少しずつ始まっており、いち利用者としては歓迎すべきことだと感じています。
またMacでは、コンピュータを購入するだけですでにスクリーン・リーダーが標準で搭載されており、英語圏の視覚障害者であれば、コンピュータを購入するだけで利用を開始できる状態になっている点がすばらしいと感じました。
VoiceOverの基本機能を操作体験するセッションと、iTunesをVoiceOverを使って操作する二つのセッションに参加しての正直な感想は、Macを1台購入したいというものでした。現在は、VoiceOverが日本語環境では利用することができないという点で、断念してしまいましたが・・・。
Yahoo! Mail AJAX版とスクリーン・リーダー
AJAXコンテンツといえば、スクリーン・リーダーや音声ブラウザを用いてアクセスするのが困難であるといわれています。筆者もいちスクリーン・リーダー利用者として、これまでは「きっと自分にはアクセスできない技術だろう」と、ほとんど気にしたことがないくらいでした。
ところが、昨年参加したCSUNでは、このような動的な変化を伴うコンテンツに、スクリーン・リーダーを使ってアクセスできるようにしようとする動きがあることを、いくつかのプレゼンテーションの中で確認しました。そして今回、全盲のエンジニアの方が行われたYahoo!のプレゼンテーションに参加することで、スクリーン・リーダーを使って動的コンテンツにアクセスした場合、どのような読み上げが行われるのかを実感することができました。
このプレゼンテーションでは、スクリーン・リーダーの利用者であっても、Yahoo! Mailのインターフェースをメールクライアントと同じように操作し、メッセージを閲覧したり、返信したりといった作業ができる様子が紹介されました。現在はまだ、この機能はYahoo Mailに実装されてはいないそうですが、このように実際の動作を全盲のエンジニアの方のデモンストレーションで確認することで、AJAXがより身近な技術として感じられるプレゼンテーションでした。
CSUN参加を終えて
4月18日に、今年のCSUN参加報告セミナーを、当社のセミナールームで開催しました。
プレゼンターとして、当社のアクセシビリティPodcastでもおなじみの、株式会社インフォアクシアの植木真氏、当社の木達、そして私の3人が参加し、それぞれがCSUNで印象に残ったプレゼンテーションの情報などを紹介しました。さらにセミナー後半では、アクセシビリティPodcastスペシャルということで、参加者の方々からWebアクセシビリティに関するご質問をいただいてお答えしたり、CSUN参加時のこぼれ話を紹介したりしました。定員50名のセミナーでしたが、当日の悪天候にもかかわらず、大変多くの方にご参加いただきました。中でもご好評をいただいた、アクセシビリティPodcastライブ版につきましては、またどこかで開催できたらと考えております。
最後になりますが、今年のCSUNでも、当社が目指すWebアクセシビリティについてのプレゼンテーションを行ってきました。今年の発表テーマはImprovement of Web Accessibility: What a Japanese Web Production Company Can Do(Webアクセシビリティ向上のために、日本のWeb制作会社としてできること)で、日本のスクリーン・リーダーや音声ブラウザ、そしてそれらのユーザーの現状を紹介するとともに、当社がWebアクセシビリティ向上のためにどのような取り組みを行っているかについてお伝えしてきました。さらに、CSUN終了後の3月17日にはGoogleを訪問し、ショートバージョンのプレゼンテーションも行ってきました。来年もまた、この世界最大級のカンファレンスに参加し、より向上した日本のWebアクセシビリティについて紹介できたらいいなと考えております。
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