One WebへのアプローチとR&D本部のミッション
取締役 木達 一仁ちょうど3週間前にさかのぼりますが、アップル社製のモバイル端末、iPhoneが7月11日に発売されました。当日の模様は、新聞やテレビなどでも比較的大きく取り上げられましたから、ご存じの方も少なくないでしょう。先行して欧米で発売されていたこの端末の国内販売を、首を長くして待っていた私は、発売前夜から長蛇の列に並んでまで購入した一人です。
モバイル端末向けのサイト構築とCSS
iPhoneを含め、世のモバイル端末が搭載しているWebブラウザは、2種類に大別できます。一つはモバイルブラウザと呼ばれるもので、主として狭い通信帯域や小さな画面に最適化されたコンテンツを利用するのに用いられます。もう一つはフルブラウザと呼ばれ、広く一般のデスクトップPC向けにデザインされたコンテンツも十分利用できる性能を備えたものです。iPhoneの場合、後者のフルブラウザとしてSafariが搭載されています。
モバイル端末のブラウザにこうした違いがあるなか、Cameron Moll氏は自著『Mobile Web Design』において、モバイル端末向けにWebサイトを構築する際に用いられるデザイン手法を以下の4つに分類、それぞれのメリット・デメリットを解説しました。
- 何もしない(デスクトップPC向けに制作したコンテンツをそのままモバイル端末でも表示させる)
- 画像やスタイルを減らす
- handheldメディア向けスタイルシートを用意する
- モバイルに最適なコンテンツを用意する(デスクトップPC向けとは別にコンテンツを制作する)
古くはモバイル端末向けのサイト構築といえば、モバイルブラウザ向けに特化して制作することが大半で、多くの場合は最後に挙げた「モバイルに最適なコンテンツを用意する」ことを意味していました。こと日本国内においては、準拠すべき仕様が異なることから、単にモバイル版を用意するのみならず、通信キャリアごとに異なるコンテンツを異なるURLで提供することが一般的でした。
しかし近年では、第3世代携帯電話の普及に伴う帯域の拡大やハードウェアの高性能化が著しく、フルブラウザを搭載したモバイル端末の割合が増しつつあります。つまりコンテンツの側で特に何もしなくとも、デスクトップPC向けに制作したコンテンツが、そのままモバイル端末で利用できつつあるわけです。
しかし、それでモバイル端末向けに特化することの意義や価値が無くなるわけではありません。たとえばiPhoneでデスクトップPC向けのサイトを閲覧すると、大抵の場合そのままでは読みにくく、適度な可読性を確保するには画面の一部を拡大表示しなければなりません。弊社がiPhone発売当日にリリースしたiPhone SiteConverterが、iPhone/iPod touchに特化したインターフェースに変換するのは、特定の端末向けに特化したサイト構築へのニーズにお応えする一環といえます。
大掛かりにインターフェースを作り替えないまでも、より低コストでモバイル端末における表示を改善することはできます。それがCSSを用いた方法です。上述のhandheldメディア向けスタイルシートは、サポートする端末が少なく普及していないのですが、iPhoneが搭載するSafariや携帯電話に多く搭載されているOpera Mobileは、CSS3のMedia Queriesに対応し始めています。メディアクエリーは勧告前の仕様ですが、出力するデバイスの描画領域やカラーチャンネルといった特性に応じたスタイル付けを可能にするものです。Firefoxも、バージョン3.1でこのメディアクエリーに対応する予定とのこと。
One Web
handheldメディア向けスタイルシートを用意するにしろ、メディアクエリーを使うにしろ、CSSでモバイル端末向けに表示を最適化することのメリットの一つは、デスクトップPCからもモバイル端末からも、同じ単一のURLにアクセスしてコンテンツが利用できるということです。これはW3Cが理想として描くWebの姿、「One Web(ひとつのWeb)」に通ずるものがあります。
つい先日(7月29日)のことですが、W3Cでモバイル端末向けのWebを専門的に扱うMWI(Mobile Web Initiative)より、Mobile Web Best Practices 1.0というガイドラインが勧告されました。モバイル端末からのアクセスを踏まえてコンテンツを配信する際のベストプラクティス集のような内容となっていますが、それがOne Webの実現を念頭に置いたものである旨が、3.1 One Webに記されています。
One Webの定義については、Scope of Mobile Web Best Practicesの3.2 "One Web"に詳しくあります。そこには、Webへのアクセス手段として、デスクトップPCをモバイル端末が遠からず凌駕するとの予測に言及しつつ、One Webの前提として以下の3点が記されています。
- 与えられたURIによって結びつけられるリソースの表示は、コンテキストに応じて適切にターゲット化と整形のされた、テーマ的に類似した情報が提供されるべきです。そのようなターゲット化と整形は、エンドユーザーへの配信過程のどの段階でも起こりえます。
- 異なる機器や異なる場所から単一のURIにアクセスした場合、テーマ的に類似した情報が得られるべきですが、その表示や内容については、一部異なるかもしれません。
- 利用する機器や環境に応じて、同じ情報にアクセスする手段が複数ある場合、ユーザーが選択できるようにすべきです。この点はベストプラクティス勧告において詳述されています。
R&D本部のミッション
話は変わりますが、私が本部長を務めますR&D本部には、Web標準チームとアクセシビリティチームという2つのチームがあります。両チームは、個々の分野における社内イノベータあるいはエバンジェリストとして、全社横断的に実案件と並行して以下の業務ならびに活動をミッションとして取り組んでいます。
- 新規サービス開発
- 業務の効率化や成果物の高品質化
- 社内教育
- 普及啓発活動(Web標準BlogやアクセシビリティBlogの運営、最近発売された『マイクロフォーマット 〜Webページをより便利にする最新マークアップテクニック〜』の監訳などはこれに含まれます)
- 以上に必要な調査および研究開発
実は、これらの業務や活動はいずれも、One Web実現のための取り組みと言っても過言ではありません。Web標準に準拠し、アクセシビリティを確保することにより、同じURLで提供される情報やサービスを、あらゆるハードウェア/ソフトウェアを使ってアクセスしてくるすべての人々が利用できるようにすることは、すなわちOne Webの実現にほかなりません。
特定の閲覧環境向けに特化したコンテンツ制作も、それがビジネス的に機能する状況下では引き続き必要とされることでしょう。しかし閲覧環境の多様化が進み、コンテンツのボリュームが右肩上がりに増加する状況下では、One Webを実現する方向性でのアプローチも有効だと思いますし、今後そのニーズは高まるように思います。R&D本部としては、これからもOne Webの実現、そしてそれに紐づいたビジネスメリットの提供に取り組んでいきたいと思います。
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