IRサイトを競争の武器とする — 新興市場上場企業の差別化戦略
取締役副社長 兼 経営企画室長 熊谷 真二IRサイトへの期待は大きいが、成果は不十分
当社が昨年、上場企業を対象に実施した「ウェブサイトに関するアンケート調査結果」によると、ウェブサイトに期待する効果として、91%の企業が、「株主・投資家とのコミュニケーション強化」をあげています。一方で、「株主・投資家とのコミュニケーション強化」について、46%の企業が、「期待した成果が全く得られていない」または「期待した成果がほとんど得られていない」と回答しています。つまり、多くの企業にとってIRサイトへの期待は非常に大きいが、その成果は十分には得られていないのが現状であるといえます。
経済環境が急速に悪化する中で、特に上場企業に対して、IRに関するステークホルダーからのニーズがますます高度化し、それに伴いIRサイトの重要性はますます高くなっていくことが予想されます。そこでいま一度、IRサイトのあり方について、考えてみる必要があるのではないでしょうか。
新興市場上場企業のIRサイトに大きな改善余地
大和インベスター・リレーションズ株式会社が発表した「2008年インターネットIRサイトの優秀企業」には、402社が選出されました。優秀企業は、前年の296社から一挙に106社も増加しています。この402社の内訳を見ると、東証1部上場企業が296社と、優秀企業全体の74%を占めています。また、この296社は、東証1部上場企業約1,670社の18%にあたります。一方、東証マザーズ、ジャスダック、ヘラクレス、セントレックスの新興市場に属する優秀企業は、91社となっており、これらの市場での上場企業約1,350社の7%にとどまっています。
ジャスダック証券取引所も毎年IR優良会社表彰を実施しており、2008年は6社を表彰しています。これらの表彰される企業のIRサイトは、コンテンツの幅では、東証1部上場の優秀企業に比べても遜色(そんしょく)ないレベルにありますが、コンテンツの質、ユーザビリティ等については、改善の必要な点が見受けられます。
日本企業のIRサイトは、東証1部上場企業を中心に、ここ数年で急速にレベルアップしていますが、特に新興市場上場企業において改善余地があるといえます。
新興市場上場企業のIRサイト再構築取り組みのポイント
IRサイトの充実は、すべての上場企業にとっての共通の課題ですが、特に新興市場上場企業にとっては、喫緊の課題と考えられます。IRサイトの総体的なレベルが不十分であり、しかもIRサイトを最大の情報源とする個人投資家のウェイトが相対的に高い新興市場上場企業にとって、IRサイトに対する取り組み方によって大きなチャンスが広がります。企業価値向上、競合企業との競争の武器としてIRサイトをとらえ、サイトの再構築をおこなうことができれば、競合企業に対する差別化を実現できます。
これらの企業が、今後、IRサイトの再構築に取り組むにあたっては、以下がポイントとなります。
- IRサイトのベストプラクティスを分析し、自社サイトとの差異を把握する。
- 自社IRサイトの目標ポジションを明確化し、大胆な投資方針を設定する。
- IRサイト再構築のためのガイドラインを設定する。
- 快適なカスタマー・エクスペリエンスの提供を意識したサイト設計をおこなう。
以下に、その内容について順番に説明します。
IRサイトのベストプラクティスを分析し、自社サイトとの差異を把握する
国内企業のIRサイトのベストプラクティスについては、先の大和インベスター・リレーションズ株式会社の「2008年インターネットIRの優秀企業」とともに、ゴメス・コンサルティング株式会社のIRサイトランキングが参考になります。
ただし、今後は、国内企業にとどまらず、海外企業のベストプラクティスを参考にしつつ、グローバルレベルのベストサイト構築を意識することが重要になります。
グローバルレベルでは、米国のMZ社によるIRサイトランキングがあります。同社が発表したIR Global Rankings, Summary of the 2008 Editionでは、IR Website、Corporate Governance、Financial Disclosure Procedures、Online Annual Report の4部門ごとにベスト30企業がリストアップされています。私自身は、最近、米国企業のサイトよりもむしろヨーロッパ企業のサイトに興味を持っていますが、IR Websiteの部門では、ベストテンにByer(1位)、adidas(2位)、BASF(4位)、Deutsche Post(8位)のドイツ企業4社がランクインしているのが注目点です。
Byer、BASF両社のIRサイトは、サイト全体の完成度の高さとともに、特に戦略面の記述の明快さが日本企業にとっての参考になります。
個人的には、adidasのIRサイトがお薦めです。同社のサイトは、まず、デザインのシンプルさと美しさの点で秀逸です。ナビゲーションもスムーズでストレスを感じさせません。また、同社は、Online Annual Report部門では1位にランキングされており、日本においては、まだ一部の企業でしか実施されていないアニュアルレポートのオンラインでの提供が見事に実現されています。文字どおり、快適なカスタマー・エクスペリエンスが体感でき、何度でも繰り返し訪れたいサイトとなっています。
これらのベストプラクティスと自社サイトの差異を明確に認識することが、IRサイト再構築の出発点になります。
自社IRサイトの目標ポジションを明確化し、大胆な投資方針を設定する
ベストプラクティスの分析をおこない、自社IRサイトの現状を把握した上で、自社IRサイトの目標ポジションをどこに置くのかを明確にする必要があります。最低限、事業上の競合企業、投資対象としての競合企業と同等以上のポジションが目標となります。インターネット関連の技術革新の速さの影響もあり、ウェブサイトの陳腐化のスピードは非常に速くなっています。少なくとも数年単位でのサイトの見直しは避けられないという前提のもとに、自社の目標ポジションを設定することが重要になります。
その上で、IRサイト再構築にあたっての投資方針を決定します。前述のように、日本企業全体のIRサイトのレベルが急速に上がってきている以上、投資家、取引先等に対して存在感を示し、投資対象あるいは、取引対象として注目される企業になるためには、一定レベル以上のサイトを構築することが目標となります。中途半端な投資によるリニューアルを繰り返すのではなく、クリティカルマスを超える投資をおこなって、インパクトのあるサイトを一気に構築する覚悟が必要です。また、結果的に、その方が投資効率に優れている可能性があります。特に、新興市場上場企業の中で突出したサイトを構築できれば、大きな差異化につながります。
IRサイト再構築のためのガイドラインを設定する
サイトの設計作業に入る前に、IRサイト再構築のための明確なガイドラインを設定することが重要なポイントとなります。その際、英国IR協会が発表している Best Practices Guidelines - Websites(PDFファイル) が参考になります。このガイドラインは、IRサイトのベストプラクティスの分析結果をもとに、企業がウェブサイトを通じておこなう投資家とのコミュニケーションの質を改善するためのガイダンスとして位置づけられています。
自社サイトの目標ポジションを念頭に、このガイドライン等を参考にしながら、自社独自のガイドラインを設定します。そして、ガイドラインの要素ごとに、自社IRサイトのあるべき姿を具体化していきます。
快適なカスタマー・エクスペリエンスの提供を意識したサイト設計をおこなう
カスタマー・エクスペリエンスの提供が、企業にとっての競争優位確立・持続のための重要な要因になっているにもかかわらず、それを実現できている企業は少ないのが現実です。
IRサイトは、ステークホルダーのロイヤルティ獲得のための重要な場となります。IRサイトを単なる情報提供の場と考えるのではなく、サイトへのビジターを“お客さま”として捉え、快適なカスタマー・エクスペリエンスを提供することが、ロイヤルティ獲得、さらに、優れたコーポレート・ブランドの確立に繋がることを強く意識したサイト設計をおこなうことが肝要です。
以上のポイントを反映したIRサイトの再構築を実施できれば、必ず、競合企業に対する大きな差別化が実現できると考えられます。
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