WCAG 2.0勧告がもたらすWebアクセシビリティの新しい時代
アクセシビリティ・エンジニア 中村 精親1999年5月にWeb Content Accessibility Guidelines (WCAG) 1.0が勧告として公開されてから、実に9年半もの年月を経て、ついにWCAG 2.0が勧告として公開されました。日進月歩どころか、「秒進分歩」とまでいわれる情報関連の世界において、9年半という時間における変化、そして進歩が非常に大きいことはあらためていうまでもないことでしょう。
W3C会員として、またWebアクセシビリティ分野において、積極的な活動をおこなってきた当社としましても、今回の勧告はWeb全体にとってよい意味で非常に大きな影響を与えるものだと思っています。
WCAG 2.0は各方面からとても注目されてきており、それに加えて勧告となるまでに長い時間がかかったことで、既にその内容の変化についてご存じの方も多いかと思います。しかしながら、本コラムではあらためてWCAG 2.0が大きく進化した部分を取り上げ、その価値と重要性を考えてみたいと思います。
テスト可能であること
アクセシビリティPodcast第24回後編の中でWebアクセシビリティに関するJISのワーキンググループ主査を務めておられる渡辺教授もおっしゃっていますが、WCAG 1.0や現在のJIS X 8341-3には「客観的評価ができない」という問題がありました。この点を改善してテスト可能なものとした、これがWCAG 2.0の最大の特長のひとつといえます。
具体的な例として、よく挙げられるのは色のコントラストです。WCAG 1.0や現行のJIS X 8341-3では「十分なコントラスト」として具体的な基準が定められていなかったため、判断する人の主観で「十分」とすることができました。しかし、WCAG 2.0には、例えばある条件ではコントラスト比が4.5:1以上なければいけない、といったような明確な数値基準があります。したがって、ガイドラインを理解している人が、基準に基づいたチェックができるツールを利用することで、客観的にその基準を満たしているかどうかの判断が下せることになります。
これにより、Web制作の現場においても対応が容易になる面があります。実際、当社では勧告になる前、Candidate Recommendation(勧告候補)からProposed Recommendation(勧告提案)となる段階で実装テストに協力しておりますが、その際にも明確な基準があることで、デザイナーとアクセシビリティの検証をおこなう専門家の間での認識が曖昧にならないというメリットが感じられました。(実装テストの詳細につきましては、WCAG 2.0 Implementation Reportや、アクセシビリティBlogのエントリー、WCAG 2.0 Proposed Recommendationなどもご参照ください。)
新しい技術への対応
冒頭でも述べましたが、WCAG 1.0は1999年に勧告として公開されたガイドラインであり、内容的に古くなってしまっていることはもちろんですが、将来起こりうる変化に対して適応しづらいガイドラインでもありました。特に、ガイドライン11ではW3Cのテクノロジーを使うことを推奨しており、その他の形式を利用する場合についてはあまり考慮されていませんでした。ですが、FlashやPDF、Ajaxなどを利用したWebサイトが当たり前となり、こうした現状に適応したガイドラインが必要とされていました。
そこで、WCAG 2.0では「技術非依存」として、今あるさまざまな技術はもちろんのこと、将来的に現れる可能性のある技術にも適応できるように、技術に依存しないような書き方がなされています。そのため、ガイドライン本文は少しわかりにくい表現となっている部分もありますが、その問題は、How to Meet WCAG 2.0、Understanding WCAG 2.0およびTechniques for WCAG 2.0といった関連文書の中で特定の技術に関連した具体例を示すことで解決しています。
こうしたことにより、将来的な技術の進歩にも陳腐化することなく、さらに準拠すべき価値のあるガイドラインになったといえるかと思います。
国際協調
世界的に大きな注目を集めた理由のひとつが、この国際協調にあるといえます。まず、日本国内では前述のWebアクセシビリティに関する日本工業規格、JIS X 8341-3の改正に向けて、2009年9月の公示予定(本稿執筆時点)で作業が進められています。この改正版のJISでは、WCAG 2.0の達成基準をそのまま取り入れることが予定されています。一方、既にリハビリテーション法508条という法律があるアメリカ合衆国においても、同法の改正作業がおこなわれています。これについても、WCAG 2.0の内容を反映したものとなる、ということが明らかになっています。もちろん、日米だけではなく、ヨーロッパを始め各地域において、WCAG 2.0を基本とした規格の改正、もしくは策定がおこなわれており、世界全体でWebアクセシビリティについてはひとつのガイドラインが基準となっていく、といえるでしょう。
以上のような特徴を確認しただけでも、WCAG 2.0が今後のWebにとって非常に重要なガイドラインとなることがおわかりいただけたかと思います。当社では、これまでもパブリックコメントや前述の実装テストなどを通して、WCAG 2.0に貢献し、また一日も早い勧告としての公開を望んでおりましたが、実際に勧告となった今、これからは、ひとつでも多くのサイトがWCAG 2.0に準拠し、よりアクセシブルとなるように更なる活動を続けていきたいと思います。
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