ユーザインタフェースの理想形
インタラクション・デザイナー 栗山 進近年、AjaxやFlashといった技術の普及により、RIA(Rich Internet Application)を様々なサイトで目にするようになりました。RIAではAjaxやFlashを利用することで、静的なHTMLでは実現しえない優れた操作性を実現しています。それだけでなく、グラフィックデザインの面においても、動的な側面が加わることでより多彩な表現が行なわれています。
RIAは優れた操作性と多彩な表現を獲得することで、優れたユーザインタフェースを実現してきましたが、その行き着くところを考えてみようというのが今回のコラムの趣旨です。
ユーザインタフェースの2つの理想形
認知心理学の知見をコンピュータシステム等の設計に生かすことを目的とした学問である認知工学において、ユーザインタフェースの理想形には2種類あると言われています。書籍『認知的インタフェース』では、それぞれ「秘書型システム」と「道具型システム」という名称で呼ばれています(p.143)。
それではまず、「秘書型システム」の方から見てゆきましょう。「秘書型システム」とは、ユーザが自分の要求を自分の言葉で述べるだけでその要求を叶えてくれるといったシステムです。困ったときに助けてくれるドラえもんが1つの象徴的な例として挙げられるでしょう。インターネット上でこの型のユーザインタフェースを指向したものとしては、GoogleやYahoo! を代表とする検索サイトが挙げられます。この型をより追求したものとしては、自然言語検索を提供しているgoo Wikipedia(ウィキペディア)記事検索やPowersetといったサイトが挙げられます(@ITによるPowersetの紹介記事)。
次に、「道具型システム」の方を見てみましょう。こちらはユーザが自分の要求を、道具を使うようにシステムを使うことによって達成するといったものです。紙を切るという作業を例に、「秘書型システム」との違いを述べるならば、誰かもしくは機械に紙を切ることを指示する場合が「秘書型システム」に相当し(この場合、システムとは他人もしくは機械ということになる)、自分でハサミなりカッターを用いて切る場合が「道具型システム」に相当します(この場合、システムはハサミやカッターということになる)。良い道具は、使っているうちに使い手の意識に上らなくなります(この時、システムは透明性を獲得したと言う)。インターネット上でこの型のユーザインタフェースを指向したものとしては、オンライン写真編集ツールであるPicnikやオンライン文書作成ツールGoogle ドキュメントが挙げられるでしょう。
2つの理想形から見えてくるもの
これまでの話の流れから、それぞれのシステムに求められる要件が見えてきます。「秘書型システム」においては、その賢さということになります。ユーザの要求をいつも的確に把握し、期待通りの結果を返すことが目標ということになります。「道具型システム」においては、使いこなせるようになるまでにかかる時間が短いこと、良く手に馴染むこと(システムの透明性)、作業への適合性が高いことといったことが目標になります。
この2つの理想形という考え方は、システムあるいはユーザインタフェースを設計する際の大きな指針の一つとすることができます。例えば、車を設計する場合を考えてみましょう。目的地を告げるだけで自動的にそこへ連れて行ってくれる「秘書型システム」の車を指向した場合と、運転することを大きな楽しみとするスポーツカーのような「道具型システム」の車を指向した場合とでは、大きく設計が異なってくるはずです。例えば機能一つをとってみても、燃費を良くするために自動的に最適なギアに変速するといった仕組みは前者には有用ですが、後者では邪魔に思われてしまうことでしょう。
これからユーザインタフェースを設計/再設計する際は、どちらのシステムを目標とするのかを随時意識することで、より良い設計を手にすることができるようになるのではないでしょうか。
参考図書
- 認知的インタフェース コンピュータとの知的つきあい方
海保博之・原田悦子・黒須正明 著
Newsletter
メールニュースでは、本サイトの更新情報や業界動向などをお伝えしています。ぜひご購読ください。