NHKドラマ制作の報告
映像プロデューサー 水ノ江 知丈今年の春にNHKで制作・放送しましたドラマ「私の"だんだん"」で脚本・演出を担当しました。その報告と同時にドラマ制作を通し、映像表現について思うところを記したいと思います。
前回の朝の連続テレビ小説「だんだん」(脚本/森脇京子、出演/三倉茉奈、三倉佳奈)の主な舞台の一つが島根県松江市だったことで、NHK松江放送局が「だんだん」(出雲の方言で「ありがとう」という感謝の言葉。)という言葉をモチーフにしてドラマを制作することになりました。
昨年10月、NHKのプロデューサーからそのお話を頂き、全3話のショートドラマのうち、2話分の脚本と演出を担当することとなりました。シナリオを執筆するにあたり、島根が舞台であること、最後のセリフが「ありがとう」で終わることが必須条件でしたので、その言葉へと収斂していくストーリーを考案していきました。
シナリオ〜「文香の祈り」と「ノートブック」
数本執筆した中からプロデューサーと2本を選び、推敲を重ね、今年1月に決定稿を脱稿しました。
「文香の祈り」は、14歳の文香が離婚をしたパパとママと、もう一度3人で一緒に暮らしたい、と家族再生を願う物語。「ノートブック」は、テレビディレクターの主人公と病床の父親との交流を描いた物語。
いい作品を作ることは、実はそんなに難しいことではありません。問題なのはどれだけいいものを作れるのか、ということ。シナリオの出来は作品の成敗を決めます。シナリオがマズければ、どんなに素晴らしい演出をしても決していいものにはなりません。すべてはシナリオで決まります。
プリ・プロダクション〜撮影〜仕上げ
シナリオがフィックスし、撮影日が決まると、それに向けてスタッフィング、ロケハン、技術下見、美術打合せ、カット割り、キャスティング、衣裳合わせ、リハーサル等を行ないます。
ロケハンでは、まずプロデューサーと美術で島根県の様々な場所を回り、その場所がシナリオに相応しいかどうか等を判断していきます。NHKの場合、企業名や商品名を映すことが出来ないので、たとえば空港では架空の航空会社にしなければいけなかったり、店舗も架空の名称にしなければいけません。
ロケ場所が決まると、再度島根に赴き、キャメラマンや制作部を含めて技下(技術下見)を行います。カット割りを想定し、役者がどういう動きをするのか、キャメラをどこに置くのか、技術的に何が必要か、美術・装飾として何が必要かなどを見極めていきます。
カット割りはディレクターによって異なりますが、きちんと画コンテを起こす人もいれば、台本に線を引いてカットを割る人もいます。私にとってカット割りは「儀式」みたいなもので、綿密に画コンテへと落とし込みます。私の中ではこの段階でシナリオを具体的な形にする作業がある意味、完結します。
今回約10分のドラマを2本、計約20分を5日間で撮影しました。私はもともとカットを細かく割る性分で、撮影するショット数が多く、ロケ移動も多いことからスケジュールはかなりタイトなため、撮影はVEなしのロケスタイル、マルチカメラ(複数のキャメラ)で行いました。
撮影が終わると、放送日が1週間後だったこともあり、すぐに編集・MAを行い、3月に無事オンエアに至りました(OAは3月=島根県のみ放送、4月=全国放送)。
表現者としての指針
今回のドラマに限らず、普段ミツエーリンクスで手掛けている映像案件においても、私は常に2つのことを念頭に置いています。
一つは、「なにを語るか」よりも「どう語るか」。
どう語るか、つまり、どういった表現をするのか。メディアや内容に限らず、伝えたいことや訴求したいことを映像にする際に考えること、たとえばどういったアングルで、どのぐらいのサイズで、カメラワークは? ライティングは? カット割りは?……それらの違いで視聴者に与える印象は大きく変わってきます。どういった表現をすれば、視聴者・観客・ユーザーの心に届くのか。
5人のディレクターがいたら、5通りの表現方法があります。いずれの表現にも正解や間違いと言ったものはありません。しかしそれでも、こういう表現の方が心地よい、見やすい、伝わりやすい、登場人物に感情移入できる等、というのは確実にあるはずです。
そしてもう一つは、視聴者に想像をさせること(想像させるような作りにすること)。つまり、説明過多にならず、直截的な表現を抑えること(モノにもよりますが)。視聴者に想像をさせることで、視覚での理解ではなく、心での理解を促し、心の奥深いところに残るものが生まれてくると思っています。私は、それが本来の映像体験のような気がしており、私が目指しているところです。
「一杯のコーヒーからでも話を始めることができる。とびきり素晴らしいやつをね。私はそれが監督の仕事だと思う。」
ジャン・ルノワール
「だんだん」〜結びとして
2月6日は福山雅治の誕生日。
ましゃは、毎年その日、自分の誕生日に母親に花束を贈るそうです。
「生んでくれて、ありがとう。」
ドラマ「私の"だんだん"」(2009年/NHK)
- 『文香の祈り』 出演/二階堂ふみ、小市慢太郎、近内仁子 脚本・編集・演出/水ノ江知丈
- 『ノートブック』 出演/青山草太、清原眞 脚本・編集・演出/水ノ江知丈
- 『お互い様』 出演/河野良範、佐々木政子 脚本・演出/藤山宏
制作統括/小澤泰山 制作/樋口俊一 進行/長谷知記 美術/須江大輔 衣裳/西村明美 ヘアメイク/畑中朋美 記録/布施和行 装飾/糸賀千佳 小道具/井田徹 取材/門田收平、木村亜矢子、石橋ひろ子 技術/福嶋秀 撮影/桑垣徳志、前田貢作 照明/村地英樹 音声/遠藤博之、藤田晋一郎 音響効果/柳川起彦 編集/水ノ江知丈 撮影助手/児玉宮子 照明助手/木寺伸一、磯貝昂志 特機/友久哲也、松尾哲也 車輌/麻野輝彦、桑原正実、槙原伸幸 制作・著作/NHK
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