HCII 2009参加報告
ユーザビリティ・エンジニア 法邑 有美2009年7月19日から24日の6日間にわたって開催されたHCI International 2009(The 13th International Conference on Human-Computer Interaction)に参加させていただきました。世界中から集まった研究者の発表や、そこで知り合った方々とのディスカッションは大いに刺激的で、ユーザビリティ・エンジニアとしてこれから業務を行なうに当たって非常に参考になるものでした。
以下、HCII 2009に参加して感じたことなど、ご報告させていただきます。
HCIIとは
HCI International(以下HCII)とは、HCIに関する代表的な国際会議の一つです。HCIとは、人間とコンピュータとの相互関係に関する研究領域で、ACM SIGCHI(HCIに関する世界最大の学会)の定義では、「人間が使用するための対話型コンピュータシステムのデザイン、評価、実装に関連し、それら周辺の主要な現象に関する研究を含む学問分野」とされています。
この国際会議は2年に一度開催され、第13回目となる今年はアメリカ合衆国カリフォルニア州のサンディエゴにあるTown and Country Resort & Convention Centerで開かれました。今回のHCIIでは、第一回目のHuman Centered Design(HCD:人間中心設計)の国際会議も新たに加わり、9つの国際会議が同時に行なわれました。この巨大な国際会議の全登録者は73カ国、4348人、採択された論文は1397件とのことで、広大なホテルの敷地が世界中から来た学者や研究者たちに埋め尽くされました。参加者にはDVDにて今回の論文集が配布されましたが、Springerから出版される論文集は17冊にもおよぶとのことです。
セッション
会議は、前半3日間がTutorial、後半3日間がパラセルセッションとポスター発表という構成で、私は後半のパラレルセッションに参加してきました。常時20近いセッションが、朝8時から夕方6時まで、3回のコーヒーブレイクを挟んで並行して行なわれます。当然すべてのセッションを聞くことはできませんし、セッションによっては会場内を大移動する必要もありました(なにせ会場がとても広いのです)。
今回私は、数あるセッションの中から、HCD関連のセッションを中心に参加してきました。HCDとは、使う人間の立場に立ってシステムや機械の設計を行なうことで、ユーザビリティの高いシステムや機械を作ることを目的としています。HCDのセッションには日本やアジアからの発表者が多く、アジア地域でのHCDに対する関心の高さが見て取れました。アジア地域でのペルソナ・シナリオ法を活用した研究報告や、日本でのHCDを用いた活動の報告、またHCDにおけるユーザエクスペリエンスに関する発表などが行なわれました。大学の授業で学生がHCDのプロセスに則ってプロダクトデザインを行なっている活動の報告(時間のある学生時代に、実際にHCDのプロセスを実践しながら学べるというのは素晴らしいことです)や、大型重機におけるユーザエクスペリエンスの発表、Webサイトの構造を考える際に効果的な手法など、興味深い内容の発表ばかりでした。また、発表内容はもちろんのこと、外国の研究者のプレゼンテーションのうまさにも刺激を受けました。特に彼らの「伝えようとする熱意」にはこちらも思わず身を乗り出してしまうほどです。
残念ながら同時間に行なわれていたため参加できなかったセッションもたくさんあり、その中にはアイトラッキングに関するものもありました。アイトラを使用したWebMapの評価や自動的にアイトラッキングデータを分析するというもの、アイトラッキングの技術を利用して人間の学ぶプロセスについて考察したもの、目の動きから、複数ページに表示される検索結果が表示位置によって見られ方にどう影響しているのかというものなどなど…。見たいと思ったセッションすべてを見られないというのは非常に残念ですが、それだけにこの国際会議の大きさがわかります。
企業ブース
企業ブースにも20を超える企業が参加し、各社デモンストレーションを行ない、参加者は各々興味のあるブースでデモの体験や議論などを行なっていました。中でも人気だったのは、DiamondTouchというテーブルトップのタッチディスプレイのデモンストレーションでした。これは複数のユーザが同時に操作できるディスプレイで、少人数での共同作業などの際に効果的に使用できるということを、実際にゲームなどをすることによって体験できました。マウスなどの機器を通さず、自分の指で画面を触って操作するというのは、より直感的な操作が可能になるので、老若男女を問わずに使用できそうです。また、弊社でも使用しているTobiiをはじめ、アイトラッキングの機器を扱う企業も数社出展しており、あらためてアイトラッキング技術の注目度の高さがわかりました。
おわりに
今回HCII 2009に参加させていただき、多くの発表やその際に行なわれる議論などを聞くにあたり、自分の知識・経験の少なさというものを実感し、学ばなければならないことがたくさんあるということを強く感じました。中でも、ユーザビリティやユーザエクスペリエンスという言葉は日々業務で使用していますが、それが意味するところは何なのか、何をユーザに提供するのが最適なのかを考えることは、ユーザビリティ・エンジニアとして必要不可欠なことであり、そもそもユーザビリティやユーザエクスペリエンスとは一体どういうことなのかということをもう一度自分の中で考え、再定義をする必要があると感じました。
今回、HCII 2009への参加は私にとってとても刺激的で、とても有意義なものとなりました。この経験を今後、業務に活かしていきたいと思います。
なお、次回のHCIIは2011年、フロリダ州のオーランドで開催されます。
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