真のアクセシビリティ向上への第一歩
アクセシビリティ・エンジニア 中村 精親本日、株式会社ミツエーリンクスは、ウェブコンテンツ・アクセシビリティ・ガイドライン (WCAG) 2.0への標準対応を進めていくことを発表いたしました。
さて、突然ですが、みなさまは携帯デバイスからWebサイトをご覧になったことはあるでしょうか? おそらく、このコラムをお読みになっている方の多くはこの質問に「Yes」と答えるのではないかと思います。もしかすると、今まさに携帯電話からアクセスされている方もいるかもしれません。それでは、音声でWebサイトにアクセスされたことはありますでしょうか? この質問になると、現状で「Yes」と答える方はそう多くないかと思います。しかしながら、私は近い将来にはWebサイトへのアクセス手段がさらに広がっていくのではないか、そう考えています。もちろん、モバイルからのアクセスや音声によるアクセスはその一部に過ぎません。さまざまな閲覧環境が増えていくなかで、アクセシビリティはWebサイト—当然、商用のWebサイトにとっても—今後ますます重要になっていくでしょう。
ガイドラインの改訂
少し唐突なはじまりになってしまいましたが、冒頭の文章に話題を戻したいと思います。WCAG 2.0は、「ウェブコンテンツをよりアクセシブルにするための」国際標準であり、W3C(World Wide Web Consortium)により2008年12月に公開されました。「2.0」はその名のとおり、1999年に公開された「1.0」の後継であり、このバージョンアップにより、その間に進化してきたWeb技術への対応や、今後さらに進化していくであろう技術に対しても適用可能となるように作られています。したがって、この先一定の期間において、国際標準であり続けることが期待されます。
さらに、今年2010年は、日本国内でもこうした流れを受けて、ウェブコンテンツのアクセシビリティに関する規格である、JIS X 8341-3が改正される予定です。しかも、この改正は「ウェブアクセシビリティを取り巻く状況の変化に対応するため」に前述のWCAG 2.0を含む形となります。(JIS X 8341-3 改正原案 「高齢者・障害者等配慮設計指針 − 情報通信における機器・ソフトウェア・サービス − 第3部:ウェブコンテンツ」の公開レビュー参照)
このような理由から、WCAG 2.0への対応は国際標準への対応のみならず、同時に日本国内の規格への対応にもなるのです。
今後のアクセシビリティを考える上でのポイント
標準や規格が重要といっても、法律ではないし、当社のサイトには関係がない、このように考えている方もまだいらっしゃるかもしれません。これは、「アクセシビリティ」もしくは「Webアクセシビリティ」という言葉が、障害者対応、またはもう少し広くなったとしても、障害者・高齢者対応である、と考えているからであると思われます。
もちろん、アクセシビリティ向上により、障害者や高齢者が受ける恩恵は大きいですし、ガイドラインにはそうしたことが中心として書かれています。ですが、冒頭にも書きましたとおり、今後さまざまな閲覧環境からのアクセスが増えることが想定されています。そこで、どのような環境でも一定のアクセシビリティが確保されることがより重要になってくると考えられることから、どのようなサイトにとってもアクセシビリティは重要なのです。
簡単な例を挙げてみます。WCAG 2.0の達成基準のひとつに「1.3.3 感覚的な特徴: コンテンツを理解し操作するための説明を、形、大きさ、視覚的な位置、方向、または音のような、構成要素が人間の感覚に示す特徴だけで提供しない。」というものがあります。
例えば、このコラムがあるページで、「右側のリンクからお進みください。」という説明があるとします。すると、本コラムをお読みのみなさまの多くは、おそらくデスクトップもしくはノートブック環境のWebブラウザから、視覚を主としてアクセスされているかと思いますので、すぐ右に目を移し、コラムのバックナンバーのことだろうか、と思われることでしょう。しかしながら、音声でのアクセスでは、当然すぐに「右側のリンク」が何かを認識することは容易ではありません。と、ここまでは、かつてのアクセシビリティ対応をする理由としてよく挙げられてきた部分です。ここで、再び冒頭の内容を思い出してください。もし、携帯デバイスから先ほどの説明を読んだ場合、どうなるでしょうか。デバイスにもよりますが、スタイルシートに対応していない環境や、横幅が十分に確保できない環境などでは、音声同様に「右側のリンク」をすぐに認識することは難しいかと思います。
本当の意味でアクセシブルなWebサイトとするために
このように、アクセシビリティ向上により影響を受けるのは、障害者や高齢者だけではありません。そこで、どのような環境からでもアクセスができるようにすること、そしてその上でそれぞれの環境で利用しやすいものにしていく、ということがどのようなサイトにとっても重要であり、今後はさらに重要になっていくものと考えています。
当社における今回のWCAG 2.0 A への標準対応は、まだそのための第一歩に過ぎませんが、さまざまなWebサイトがよりアクセシブルに、あらゆるユーザーにとって利用可能なものとなるように、今後とも努力していきたいと思います。
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