Interaction10 参加報告
インタラクション・デザイナー 栗山 進2010年2月4日から7日までの4日間、アメリカ合衆国のジョージア州サバンナで開催されたInteraction10に参加してまいりました。参加したセッション、ワークショップ、食事の時間を通じて見聞きした内容は非常に興味深く刺激的なものでした。その雰囲気は熱気にあふれ、一部の参加者で議論が閉じることなく開かれていました。これには、インタラクションデザインが新興の分野であるということだけではなく、参加者同士の交流を促すカンファレンスの構成も好影響を与えていたと思われます。カンファレンスを通じ、インタラクションデザイナーとしての意識とモチベーションを大きく高めることができました。
以下、Interaction10を通じて得た情報や経験(エクスペリエンス)をご報告いたします。
Interactionとは
Interactionは、インタラクションデザインに関する非営利専門団体であるIxDA(Interaction Design Association)によって毎年開催されている国際会議です。IxDAはインタラクションデザイナーの様々なニーズに応えるべく、2005年に発足した新しい団体です。その活動の一環として、Interactionを開催しているという訳です。Interactionの目的としては、インタラクションデザイナー同士の結びつきを強めること、互いにインスピレーションを与え合うこと、そしてインタラクションデザイナーの教育などが設定されています。議論の対象は、ソフトウェア(デスクトップ、Webを問わず)、モバイル機器、家庭用電化製品、今流行の拡張現実技術などによるデジタル環境など、幅広くなっています。議論の内容も、デザインパターンといったミクロなレベルから、デザイン方法論やデザイン思想といったマクロなレベルまで、多岐にわたります。また、いわゆる研究者や学者といった方々よりも、実際に日々デザインを行なっている実践者が会議の中心となっています。Interactionは、まだ今年で3回目(第1回は2008年に開催)のとても若い会議ですが、第1回の参加者数は約400名、今回の参加者数は約500名(そのうち、アメリカ合衆国以外からの参加が150名ほど。残念ながら、日本からの参加者は私以外には1名しか発見できませんでした)と、着実にその注目度を増していっています。
今年のInteractionカンファレンス
今年のInteractionは、昨年と同様、最初の1日目はワークショップ、残りの3日間は登壇者による発表セッションが主となっていました。カンファレンスを通じて私が感じたことは、インタラクションデザインの領域の急速な広がりと、そのデザイン手法/方法論の急速な発展と普及でした。これから、順にその内容をご説明いたします。
まず、インタラクションデザインの領域の急速な広がりについてです。既にご紹介したように、そもそもインタラクションデザインが議論の対象とする範囲は広いのですが、セッションなどを聞いているとさらにその対象広げるような内容が散見されました。例えば、 「Service Design: an Interaction Design Perspective」というセッションでは、個々の製品やソフトウェアといったレベルだけではなく、サービスにもデザインが必要とされていることが主張されていました。そして、そこでは新たなデザインのためのツールなどが必要となるものの、インタラクションデザイナーが果たすことのできる役割は大きく、今後、インタラクションデザイナーの参入が望まれるとのことでした。また、「New Soft City」という基調講演では、都市のインタラクションデザインが実例を含め紹介されました。このようにインタラクションデザインがその領域を急速に広げている背景としては、以下のような理由が考えられます。1つには、インタラクションデザインの方法論がある程度確立されたことにより、他分野からの人材の流入や、他分野への方法論の適用が起きたことが考えられます。もう1つには、情報社会の発展に伴い、情報技術を内包するデザインを必要とする領域が広がっていることが考えられます。
それでは次に、インタラクションデザイン手法/方法論の発展と普及についてです。特に私の印象に残ったのは、定性調査手法(正確には、実際にデザインに着手する前に行なう、デザインリサーチの段階における定性調査手法のことをここでは指しています)の発展と普及についてです。
多くのセッションで定性調査の重要性が説かれ、また多くの参加者が、何らかの定性調査に慣れ親しんでいるようでした。ここで、定性調査とは何かと、その利点について簡単にご説明しますと、以下のようになります。定性調査は、調査対象者1人1人の生の声や行動に焦点を置いた調査手法であり(調査対象者の元を訪れたり、利用状況を直接観察したりします)、複雑化した現代社会においては定量調査と比べ、デザインを進める上での仮説を得るのに向いていると言われています。実際、このカンファレンスにおいても、定性調査を重要視する理由の1つとして、利用者の実際の利用状況を知ることができるため、デザインを進める上で役に立つ根拠が得られることが挙げられていました。しかし、それよりも、定性調査からデザイン上のインスピレーションが得られることにその価値を見出していたように思います。つまり、私がカンファレンスを通じて感じたことを要約いたしますと、海外の多くのインタラクションデザイナーは、定性調査を通じて、イノベーションのためのインスピレーションを得ているということです。そしてまた、そのための定性調査手法が各種開発されており、それらが実際に浸透しているということです。1つの実例を挙げますと、私は1日目に「Mental Model Diagrams(Aligning Design Strategy with Human Behavior)」という、日本ではあまり知られていない定性調査手法のワークショップに参加したのですが、4日目の「UX Show & Tell」というセッションにて、同手法による調査結果を発表していた参加者がいたのです。このような海外と日本との違いに、軽くショックを受けつつも、感心させられた次第です。また同時に、こういった手法をものにしてやろうではないかという思いをかきたてられました。
おわりに
以上、Interaction10の概要と、特に私の印象に残ったことについてご報告いたしました。インタラクションデザインという言葉や領域自体、日本ではまだあまり認知が進んでいない状況にありますが、日本でも2008年8月に「DESIGN IT! Forum 2008 - インタラクションデザインの現在と未来 - 」というフォーラムが開催されるなど、注目度が高まってきています。また、定性調査手法についても、行動観察手法に対する注目度の高まりや、エスノグラフィの国際会議であるEPIC が今度の8月末に東京で開催されるなど、日本でも盛り上がりを見せ始めています。私もこうした流れに遅れることなく、また、貢献していきたいという思いを強くしました。
なお、2011年のInteractionは、アメリカ合衆国のコロラド州ボルダーで2月ごろに行なわれます。興味を持たれた方は、来年度の参加を検討されてはいかがでしょうか。
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