“公認内部監査人”という指針
公認内部監査人(CIA) 野口 由美子先般、公認内部監査人(Certified Internal Auditor/以下CIA)の認定を受けました。CIAとは、米国に本部のある内部監査人協会(The Institute of Internal Auditors/以下IIA)が主催・認定を行う国際資格です。“公認内部監査人”を“指針”と考えるに至った経緯や今後の抱負などをお話したいと思います。
基準の必要性
今から約4年前、経営監査室が新設され、内部監査担当者として任命されました。室員は一名。内部監査といえばマネジメントシステム監査しか経験がなく、個人としても、部門としても一からのスタートでした。素人が行う内部監査では有効性も甚だ疑問ですが、必要に迫られてすぐに運用に入りました。監査される側はたまったものではなかったでしょうが、今思えば、いきなり運用に入ったメリットもありました。それは拠り所となる“基準”の必要性を思い知ったことです。内部監査は各社各様であるとはいえ、核となる部分について知っておく必要があると感じました。IIAが『内部監査の定義』、『倫理綱要』、『内部監査の専門職的実施の国際基準』、『実践要綱』(翻訳版:日本内部監査協会)などのガイダンスを定めていることは知っていましたが、実務に応用できるほどよくは理解していませんでした。そこで、知識を深めるにはCIA試験の教材等を使うのが手っ取り早いのではないかと考えました。試験自体は4つのパートに分かれており、1つのパートごとに学習が終わると、確認の意味で本試験を受けてみました。Part1はガバナンス、リスク、コントロールにおける内部監査の役割(The Internal Audit Activity's Role in Governance, Risk and Control)、Part2は内部監査の実施(Conducting the Internal Audit Engagement)、Part3はビジネス分析と情報技術(Business Analysis and Information Technology)、Part4はビジネス・マネジメント・スキル(Business Management Skills)です。Part1では、個人として、経営監査室としてどうあるべきか考え、Part2では内部監査業務の実施方法についてポイントを知ることができました。Part3、Part4は監査対象となる分野や被監査部署との関わり方の基礎知識として、とても有益でした。なお、学習の機会や受験の費用を会社が提供してくれたことは大きな成功要因だったと思います。
身分の説明性
内部監査とは監査される側にとってどのように思われているのでしょうか?たいていの人は自分の仕事に自信と誇りをもっていると思います。そこへ得体のしれない人がやってきて、あれこれほじくり返し、ああしたほうがいい、こうしたほうがいいと言ってくる…。「一体、この人は何者なのか。」「この人に何がわかるのだろう?」私ならそう思うに違いありません。そしてやはり、他者から評価されるというのは反発を覚えるものではないでしょうか。内部監査をする“資格”があるということで、ひとつの説明になればいいなと思いました。
ところで話が少し逸れますが、監査対象となる仕事については、実際にやっている人が一番よくわかっています。内部監査人の仕事は “上から目線”では効果がありません。ただ、当事者でない人間が客観的に、全社的・部署横断的に、あるいは内部統制の観点から見てみたら、違うやり方や改善点が見えてくるかもしれないということだと思います。要するに内部監査は、視点を変えてチェックしてみるというプロセスなのだと思います。被監査部署の方には、改善への好機ととらえて、大きく構えてもらえたらいいなと思います。
CIAとしての責務
IIAの『倫理綱要』によれば、CIAのみならず内部監査人には誠実性、客観性、秘密の保持、専門的能力の4つが求められます。これらについてコミットメントを兼ね、思うところを述べてみたいと思います。
まず「誠実性」ですが、<内部監査人の誠実性は、信頼を確固なものとする。このゆえに、誠実性は、自らの判断が信用される基礎となる。
>とあります。人間性を問われている気もしますが、確かに「あなたなんかに言われたくない」と思われてしまったら、業務を行った意味がなくなってしまいます。また、<自己の業務を、正直、勤勉および責任をもって行う。
>ともあります。当たり前のことのようにも聞こえますが、これは、専門的能力の項の<自らが必要な知識、技能、経験を有している業務のみに従事する。
>ということと深く関係しているような気がします。わからないことはわからないとし(正直)、わからないまま放置せず(責任)、日々、専門的能力の向上に努める(勤勉)という姿勢が大事なのかなと思います。
次に「客観性」について、<内部監査人はその心証の形成において、関連する状況のすべてについて調和ある評価を行い、自己の利害あるいはその他によって不当に影響されてはならない。
>とあります。客観性を得るためには、内部監査部門の位置づけ、報告経路、監査方法、伝達方法、その他様々な側面からのアプローチがありますが、“私”のなかの客観性を考えるうえでは、“私”について知る必要があるのかもしれません。“私”が評価する以上はどう頑張っても“主観”であるわけですが、認知特性や欲求などを理解し、“客観”に近付けていきたいと思います。
それから、「秘密の保持」、これは一度でも失敗すれば信用をなくしてしまうものだと認識しています。当社では早くから情報セキュリティや個人情報のマネジメントシステムを運用(ISO27001認証、プライバシーマーク保有)していることですし、これからも気を引き締めていきたいと思います。
最後に「専門的能力」です。CIAを維持するには継続的専門能力開発(Continuing Professional Education/CPE)制度の単位取得が必要です。知識・技能については、様々な情報源を利用して習得していきたいと思います。また、経験により特に高めたいこととしては、ひとくちにいえば、“人間への理解”です。人間の行動パターンや動機づけなどが考慮されていない業務プロセスはうまく機能しないと、実務を通して感じています。改善提案を行うにあたっては、業務プロセスの“ヒューマンデザイン”とでもいうべき、遵守しやすい業務プロセスを心がけたいと思います。また、コミュニケーションに関しても“人間への理解”は前提だと思います。内部監査業務においては、どう働きかけたら相手を動かせるかということが常にテーマです。どうお願いしたら必要な資料を提出してもらえるか、どう質問したら必要なことを聞き出せるか、どう書いたら(話したら)結果そのままに伝えられるかなどです。小手先のスキルではなく、相手によって、場合によって、柔軟に対応できるようになるためには場数を踏み、日々努力していきたいと思います。
内部監査人としての挑戦はまだ始まったばかりです。
<>内は日本内部監査協会発行の『倫理綱要』から引用
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