マルチデバイスの時代に向けて
取締役 木達 一仁先日、Appleの新製品であるiPadが日本で発売されました。米国では4月3日に発売されていたもので、偶然にして米国を訪れていた私は、購入こそしなかったものの家電量販店で実機に触ることができました。一部には、それを「大きなiPhone」と呼ぶ向きもあるようですが、百聞も一見も「一タッチ」に如かず。より大きく見やすいタッチスクリーンから、iPhoneとはまた別種の面白さ、そして使い勝手に感じ入った私が、日本での発売当日にiPadを入手したのは言うまでもありません。
メディアの報道を見ておりますと、ことiPadを巡っては、電子書籍を読むためのデバイスとして注目を浴びる機会が多いようです。しかしiPadはより汎用的な、アプリケーション次第でさまざまな用途に利用できるデバイスであり、既にビジネスシーンへの導入が進められているとの記事も目にします。もちろんWebサイトを閲覧することもでき、そのためのブラウザとしてSafariが標準的にインストールされています。
iPadほど広い画面となりますと、デスクトップPC向けにデザインされたサイトを表示させても、著しく使いにくいと感じることは少なくなるでしょうし、また実際そのように感じています。しかし、まったく問題がないわけではありません。冒頭の段落でタッチスクリーンという言葉を用いたように、iPadでは画面に対し指で直接操作を行ないます。小さなリンクボタンやリンクテキスト同士が近接しているところで、拡大表示する手間を省いてリンクをたどろうとすると、押し間違いをすることがあります。
マウスを使っていれば、指で触れるよりも正確な位置指定が可能ですが、iPadやiPhoneではそうはいきません。これはマウス操作を前提としたデザインと、タッチ操作を前提とする場合とで留意すべき違いの一つです。ほかにもわかりやすい例として、iPad/iPhoneではマウスカーソルを特定の要素の上に乗せたとき(いわゆる「マウスホバー」時)のための表示を行なうことができません(そもそもマウスカーソルが表示されていません)。つまりボタンは、それが押すことのできるボタンであると見てすぐ認識できるように見た目をデザインする必要がある、ということです。
上記の例は、いずれも些細な違いと受け取られるかもしれません。しかし、そうした細かな違いに起因した違和感が多く積み重なった結果、最終的には使い勝手の悪さとして認識される可能性があります。ですから、たとえ表示自体は遜色なくデスクトップPC向けのものを再現できたとしても、それがiPadなりiPhoneにおける使いやすさに直結するわけではないのです。既存のWebサイトをiPad/iPhoneに対応させようと考えた場合、それは決して表示に限定した対応として捉えるべきではなく、やはりユーザー体験を全体的に捉え、必要な施策を講じる必要があるでしょう。
近年、iPhoneやAndroid携帯に代表されるスマートフォンの普及が進んでいます。また携帯電話についても、Webサイトの表示能力はデスクトップPCと遜色がないまでに高まりつつあります。iPadを含め、こうしたデバイスはいずれもデスクトップPC向けのサイトを表示することが概ね可能ではありますが、既存のサイトをどのデバイスにどこまで対応すべきかは、悩ましい課題として今後一層顕在化することでしょう。
Webブラウザを搭載したデバイスが、より高性能かつ低価格なものとして普及した先にはマルチデバイスの時代、つまり真に多様なデバイスからWebへアクセスすることの一般化した時代が待ち受けているはずです。その不可逆変化のなかで、私はいまなお「One Web」の実現可能性について思案し続けています(コラム「One WebへのアプローチとR&D本部のミッション」参照)。「ワンソースマルチユース」と言えば聞こえは良いですし、メディアクエリーのような技術を使えば表示上は実現できることは多くありますが、しかし文書構造と視覚表現の不可分な領域を垣間見るにつけ、「One Web」への道のりは遠く険しく感じることがあります。
ともあれ、私は自身を非常に幸運だと思っています。かつてないほどまでにWebへのアクセス手段が多様化し、また日常のあらゆる場面に溶け込みつつあるなかで、上述のような課題に直面しているのは、辛く苦しい反面楽しくもあります。視覚表現のみならずWeb標準、ユーザビリティやアクセシビリティ、Webサイト構築のありとあらゆる要素をマルチデバイスの時代に向け進化させ続けることは、大いなるチャレンジであると同時に喜びでもあります。
本日掲載しましたスマートフォン対応サービスは、マルチデバイス時代に向けた当社なりの第一歩です。是非お気軽にご相談いただければと思います。
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