UPA2011参加報告
ユーザエクスペリエンス部 松本 絢子先日、UPA(The Usability Professionals' Association) 2011 International Conferenceに参加してきました。ユーザエクスペリエンス(以下、UX)の分野で仕事をするエンジニアやデザイナー、コンサルタントなどが集まり、ユーザビリティやUXに関する研究成果の発表やビギナー向けのレクチャー、参加型のワークショップなどが開催される、年に一度の国際イベントです。
UX一年生の私
私はUXというフィールドに携わってまだ半年ほどしか経っていないため、現在は基本的なものの考え方や知識などを勉強中であり、UXに関してはまったくの初心者です。そのため、今回の参加にあたってはまず「UXとは何か?」といったこの分野の基本となる知識から学びたいと考えていました。もう一つの目的としては、世界におけるUX事情を知りたいというのがあります。弊社のようなWeb制作会社の中で初心者ながらUXに関する仕事に触れるようになり、Web制作の過程においてUXのノウハウを取り入れることの重要性を感じつつも、まだ十分に浸透していないという印象を受けました。また、Web制作においてUXの価値がさらに広く理解されるべきだと感じるようになりました。そういった中でUPAのような国際的なイベントに参加することで、海外ではその点でUXがどのように認識されているのか、海外の現状としてビジネスにおけるUX市場がどのくらい盛り上がっているのか知ることができるかもしれないという期待がありました。
とことん「人」のUX
実際にいくつかのワークショップに参加したり、プレゼンテーションを聴いてみて一番感じたのは、UXは「人」についてとことん考える分野であるということです。たとえば“The Psychology Behind Usability”(Susan Weinschenk)というセッションでは、UXを心理学的な側面からとらえており、人間が自分の経験や周りの状況によって無意識的に物事をどのように知覚し行動するかといった話など、「人間」そのものを理解することが何よりも欠かせない要素としてUXの考え方と深く結びついていることが強調されていました。一方で、“Usability Fundamentals Program Orientation”(Eva Gaumondほか)や、“Strategic Alliances — Find a Friend to Meet Your Goals”(Jan Triplett)などのセッションでは、人間そのものというより、よい「人間関係」を築くことの重要性について言及されていました。特に共通して述べられていたのは、UXの考え方を理解してもらうためには、プロジェクトに関わるほかの立場の人やクライアントに対して、まず自分がどういう人間で何をしているのかをきちんと説明し納得してもらうことが重要だということでした。このように切り口は様々ですが、自分が参加したセッションでは、この分野に携わる人がいろいろな角度から常に「人」について考えているということを具体的に実感することができました。
THEプロフェッショナルな人たち
全体を通して特に記憶に残っているのは、カンファレンスに参加している人同士があらゆる場面でとても居心地のよい雰囲気を作り出していたことです。“Principled Interface and Interaction Design”(Ken Becker)というレクチャーの中で、あるWebサイトのトップページをデザインしてみようというグループワークに参加した際には、一人一人が積極的に意見を出し合う中で必ず相手の出すアイディアのいいところを評価・採用し、意見を前向きにとらえ、みんなで一緒にいいものをつくろうという姿勢がどの参加者からも見られました。食事の席や休憩時間など、セッション以外で会話をするときでも、相手に興味を持ち、知りたいという意欲を持って会話を楽しむ人ばかりで、実際知り合った人は皆、つたない私の英語に真摯に耳を傾けてくれました。おかげで英語での会話力にかなりの不安を抱えていた私も少し安心することができ、多くの人と知り合うことができました。今回の参加者たちが驚くほど協力的でオープンな人ばかりだったと感じたのは、はじめは文化の違いによるものかと思いましたが、どの人も仕事でUXに携わって日々「人」のことを考えている人たちばかりだからこそつくられた空気だったのではないかと今は考えています。
“つながってる”
今回UPA2011に参加してみて、UXについて考えるうえでは、すべてにおいて「相手を理解しよう」という姿勢が共通している、つながっているということを強く感じました。ユーザーにとっての使いやすさを考えるときはもちろんですが、一緒に仕事をする社内の人とプロジェクトについて考えるとき、クライアントの要望を聞きながら相手にとって何が最も重要かを考えるとき、さらにはユーザーテストで効果的なデータを得るために被験者への接し方を考えるときなど、相手の立場を想像して物事を考えるということが大前提であり、すべての基本としてつながっているということです。言葉で聞くとどれも言うまでもないようなごく当たり前のことばかりで、目新しい話や珍しい話が飛び出てくるわけではなかったのですが、そういった考え方が多くのセッションであえて言及されたというのは、それだけ当たり前のことが一般的に認識されていないということでもあり、またそれだけ当たり前のことが一番重要であることを表してもいるのだと改めて思いました。
これから仕事をするうえで、多くのプロジェクトに参加し、社内外の多くの人と接する機会がどんどん増えていくと思いますが、UXに関するスキルを伸ばすためには、まずは関わる相手や周りの人を理解することから意識してみようと考えるようになりました。そして周りの人とも連携し、UXの考え方やその価値をWeb制作により深くつなげていく(結びつけていく)ためにも、自分自身をきちんと説明・表現し、理解してもらうことで信頼関係を築くことが今後につながる第一歩だと感じています。
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