変わりゆくもの、変わらざるもの
アクセシビリティ・エンジニア 中村 精親先日より、ニュートリノという素粒子が光速よりも速い可能性がある、という実験結果についてのニュースが話題になっています。これにより、アインシュタインの相対性理論が否定される可能性が出てきた、とのことですが、このような教科書が書き換わってしまうようなことがあると、世の中には変わらないものなどないのではないか、と思ってしまいます。
しかし、仮にこれが事実だった場合、その事実自体はアインシュタインの時代、そしてそれよりずっと以前から変わっていないはずです。
前置きが長くなりましたが、Webというのも、日々変化のある世界であり、変わらないものなどない、というように感じています。しかし、その中で私が変わらないと思っている事実のようなもの、それは「アクセシビリティの本質とその重要性」です。
Web技術の進化とアクセシビリティ
「HTML5」「CSS3」のような仕様や、「スマートフォン」「タブレット」のようなデバイスの普及など、Webに関わる技術は進化し続けていますが、それに伴って、Webアクセシビリティに関連する技術も進化してきています。
例えば、アクセシビリティといえば、(本来それだけではないにしろ)「音声読み上げ」を想像する方も多いかと思いますが、iPhoneのVoiceOverを利用する視覚障害者の方がいたり、Androidでも、無料で利用できる日本語の音声合成ソフトが発表されたり、とさまざまな点で変化してきています。
と書きますと、先ほど変わらない、と述べたのでは、とお思いの方もいらっしゃるかと思いますが、変わらないのは「本質」であって、「技術」は前述のとおり、次々に変わっていきます。
「技術」の変化に影響されない「重要性」という本質
Webアクセシビリティのガイドラインも技術の変化を追いかける形で、新しいバージョンになっている、というような経緯がありますので、時折、アクセシビリティの中身も変わっているのでは、という人がいます。しかし、WCAG 2月が「技術非依存」であることからもわかりますように、本質的なところは変わっていません。具体的な例の方がわかりやすいと思いますし、実感も湧くと思いますので、いくつか例を挙げてみます。
代替テキストと検索エンジン(などのプログラム)
代替テキストというと、音声読み上げや画像の無効な環境向けのものと思ってしまう方が多いのですが、検索エンジンのようなプログラムが画像などテキスト以外のものを解釈する際にも役立ちます。
Flashの代替要素とiPhone(iOS)対応
Flashでコンテンツを提供する際には、利用できない環境のことを考慮し、代替となる同等のコンテンツを準備しましょう、ということは以前よりアクセシビリティのガイドラインなどでは書かれていることですが、今まではそもそも代替がなかったり、代替はあっても同等ではなかったり、ということがほとんどでした。これが、iPhoneの普及に伴い、閲覧に支障の出る環境が増え、徐々に状況が変わってきています。
画面幅に依存しないコンテンツとスマートフォンの普及
先日のコラム「スマートフォンサイトのデザインと発見」では縦横での画面幅の違いについて言及していますが、そもそもスマートフォンの画面はPCに比べて幅が狭く、一定の幅を前提としてデザインしてきた場合、少なからず影響があったのではないでしょうか。
高いカラーコントラストの確保と屋外での閲覧
こちらも、前述のコラムで言及されていることですが、高いコントラスト比を確保する、ということはアクセシビリティの一要件です。アクセシビリティの観点からだと、視力の低い人や、色覚が多くの人と異なる人のために、といった表現になってしまうことが多いのですが、これが屋外でスマートフォンやタブレットを扱う人にも影響がある、となるとどう感じるでしょうか。
といった具合に、アクセシビリティをしっかり意識したWebサイトであれば、「技術の変化」に関わらず、さまざまな環境からのアクセスを確保することができます。これは企業など多くの人に見てもらいたいWebサイトにとっては、非常に重要なことのはずです。
しかしながら、一般的にはWebアクセシビリティは障害者や高齢者のためのものである、と考えられてしまい、優先度を低くされてしまう方が多い、というのが現状です。当社におきましては、その重要性を考慮し、WCAG 2.0 A 標準対応という方針を進めておりますが、なかなかその価値を理解していただけないこともあったりします。ですが、ここまで書いてきましたとおり、アクセシビリティは多くの人の閲覧に影響を与えます。その重要性を本コラムにて少しでも認識していただければ幸いです。
冒頭、「アクセシビリティの本質とその重要性」は変わらないと思っている、と書きましたが、実は「重要性」は変わってほしいと思っています。それも、低くなってほしいと思っているのです。誰もそんなことをわざわざ考えなくても、あらゆるコンテンツがアクセシブルであるように。
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