User Friendly 2011参加報告
ユーザエクスペリエンス本部 彭 志春UX(ユーザエクスペリエンス)は、ここ数年、日本でも重要視されつつあります。なぜなら、各企業は今まで優れた技術を競ってきましたが、現在では技術的面において十分に成熟してきましたので、UXという概念や手法を製品やサービスに導入しないと、厳しい競争の中で勝ち抜くことが難しいからです。
さて、UXとは一体何でしょう?現実としては、世界共通な定義がありません。しかし、共通な認識としては、製品を作成・デザインする時、ユーザの体験、感情を十分に尊重し、ユーザに使いやすい、使って嬉しい気持ちを与えられる製品を作成・デザインすべきであるという考え方です。この分野について、学術+ビジネスの面を含めた学会にはUPA(Usability Professionals' Association)があります。
私は、昨年ヨーロッパのミュンヘンで開催されたUPA international に参加しました。今年9月にアメリカで開催されたUXカンファレンス-UXmasterclassにも参加しました。これらのイベントに参加することで、たくさんの専門知識を勉強でき、ビジネスの面でもヨーロッパやアメリカのUXについて多く知ることができました。
では、中国のUXの分野はどうでしょう。技術的にどのレベルに達しており、ビジネスの面においては、どのような状況になっているのでしょう。そこで、私は、同僚である金山と共に、2011年11月11日〜13日、中国蘇州で開催されたUPA中国—User Friendly 2011に参加してきました。中国人+中国語母語話者である私は、このカンファレンスに興味津々で参加しました。
大会の内容は、ユーザリサーチ、UXデザイン、IA(Information Architect)のサブ分野から多様な種類があります。キーノートスピーチは、UX管理者視点からUX手法までの内容がありました。また、スピーカーは、Lenovoのような中国の著名企業の管理者(姚映佳氏)とPieter Jan Stappers教授のようなアメリカの専門家がいました。そのほか、FacebookのPaul Adams氏もキーノートスピーカーとして、講演を行ないました。
私は、User Friendly 2011に参加して、以下の4つの強い印象を受けました。
- UXチームが設立してある大手企業が多い
- 若者の参加者が圧倒的で、欧米からUXの知識や技術を学ぼうとする人が多い
- UXリサーチャーとデザイナーや技術者のコミュニケーションが難しいのが現状
- 専門レベルが高いUX人材は少なく、ヘッドハンティングが激しい
以下は、これらの4つの印象について、詳しくお話ししたいと思います。
1. UXチームが設立してある大手企業が多い
華為社のUX首席技術専門家である董建明氏が大会の司会を担当していました。Lenovo(聯想)社のアドバンスデザイン及びUX分野の責任者である副総裁を担当している姚映佳氏が大会の開幕キーノートスピーカーとして講演を行ないました。姚映佳氏の話によると、Lenovoグループでは、UX分野の人員が200人ぐらいに上っています。
また、筆者が参加したワークショップの講師は、Baidu(百度)、SinaWeibo(新浪微博)、Nokiaの企業のUX分野の方でした。筆者が参加しなかったワークショップには、Huawei(華為)、Microsoft中国、HP中国、Samsung中国、Tencent(騰訊)、Lenovo及びそのほかのUX分野の方がいました。
そのほか、食事や他の時に参加者とのコミュニケーションからも同じようなことを聞きました。
2. 若者の参加者が圧倒的で、欧米からUXの知識や技術を学ぼうとする人が多い
正確なデータを入手していないのですが、大会に参加した人は1000人前後ではないかと思います。筆者の観察では、若者の参加者が圧倒的でした。
中国語母語話者である私は、参加者が何について会話しているのか簡単に耳に入れることができ、また自分が興味を持つことを参加者に簡単に聞くことができました。話の中で私は、勉強熱心な人が多いという印象を受けました。彼らに、なぜこのイベントに参加しに来たかと聞いたら、今回著名な外国からの専門家が来るから勉強しに来たと答えました。そのほか、主催者のデータによると、今回のデザインコンテストに参加した学生は46大学の960人にも上りました。
3. UXリサーチャーとデザイナーや技術者のコミュニケーションが難しいのが現状
キーノートスピーカーである姚映佳氏の講演の中でも、二日目の夕方のパネルディスカッションのテーマとしても、休憩中の余談でも、またワークショップの最後の質問時間でも、多く語られたのは、やはりUXリサーチを担当する人が他の分野の人達のコミュニケーションが難しいということでした。
なぜこのような課題が大きな課題として存在しているのか、その原因は異なる分野の担当者が多様な知識を持つのが難しいからであると思われます。例えば、メインに心理学を背景とするユーザリサーチャーがコーディングやデザインを知らないのは当然なことで、逆に、デザイナーやプログラマーが人間の認知メカニズムを十分に知るのも難しいことです。この場合、企業としてどうすればこのような問題を解決できるかが課題になるのは、不思議ではないと思われます。
このような問題をどのように解決できるのか、Lenovoの姚映佳氏がいい提案を出していました。彼は、Lenovoについて、このように語りました。「Lenovoでは、昔はボトムアップが主導でしたが、現在は、トップダウンという手法をメインに使っています」。まず企業として、UXを重視する方針を出すべきということです。また彼は、中国の昔の言葉を引用して、解決方法を語りました。それは、「晓之以理,动之以情」(相手に原理を教え、情で相手を動かす)です。更に、彼がひとつの事例を言いました。Lenovoでは、社員旅行があります。仕事の時間を使って、異なる分野の社員を一緒に旅行をさせます。旅行の途中、各分野の社員にコミュニケーションの機会ができ、更に仕事上でも協力するようになりました。これは、Lenovoが今使っている方法のひとつであるようです。
4. 専門レベルが高いUX人材は少なく、ヘッドハンティングが激しい
大会に参加して、ひとつ強く感じたのは、中国のUX分野の成長の勢いが強いということです。しかし同時に、専門レベルが高いUX人材が多くないという印象もありました。UXデザインとはいっても、従来のデザイン中心のデザイナーはまだ圧倒的に多いようでした。筆者は、大会のBaiduWeiboのワークショップに参加しました。予告としては、アジャイル研究開発手法について自社の実例を使用しながら講演するという内容でしたが、結局、実際のワークショップでは、自社製品の宣伝だけという感じで、本当のユーザを導入する研究手法にひとつも触れていませんでした(仮想なユーザ、所謂ペルソナの概念が入っていましたが、あくまで設計者中心であり、設計者が作ったユーザ像でしたので、ユーザ中心ではありませんでした)。専門レベルの高い人材の不足は、激しいヘッドハンティングへもつながっているようです。
今回の大会で、私はいろいろ刺激を受け、そして考えました。例えば、私がいる日本はこれからどのように動くべきか、日本にいる私がどう動くべきか、中国人でもある私がどう動くべきか、UX分野の一人としての私はどう動くべきなのか、たくさん考えました。答えはまだ見つかってはいないかもしれませんが、これから確実にその答えを見つけるために行動していきたいと思います。
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