組織的なプロジェクトマネジメントの定着
取締役 山下 徹治昨年1月のコラム「属人的なプロジェクトマネジメントからの脱却」で、当社の組織的なプロジェクトマネジメントへの取り組みをご紹介しました。内容を簡単にまとめると、当社では3年前から大規模案件にはPMO(Project Management Office)という役割の担当者をアサインし、ディレクターの活動を支援することにしていますが、当社なりのPMOの標準形が出来上がり成果も出てきたということ、また次の課題としては「要件定義フェーズがブラックボックス化しやすくスケジュール遅延に気づかない」「プロジェクトが抱える問題点のエスカレーションがうまくいかない」という2点をあげ、引き続きその課題に取り組むということでした。
今回のコラムでは、4年目となるその後1年の取り組みについてご紹介しようと思います。
スケジュール遅延に気づく仕組みづくり
PMO担当者がディレクターや制作担当者に進捗を確認しても、スケジュールに対する感じ方というのは個人差があるため、なかなか真実がつかみにくいという問題点がありました。何か客観的にPMO担当者がスケジュールに対する進捗度合いを把握する仕組みはないだろうかと調査をしたところ、CCPM(クリティカルチェーン・プロジェクト・マネジメント)という考え方にたどり着きました。CCPMでは、スケジュール表の日付ベースで進捗を管理するのではなく、プロジェクト全体のバッファを定義し、その消化具合でプロジェクトの余裕度を測ります。この考え方であれば、例えばトップページのデザインが確定するのが2日遅れたとしても、まだバッファに15日余裕があるから許容できるといった判断を視覚的にできます。ここまでシンプルに視覚化されれば、Webの技術者ではないPMO担当者でもアラートをあげることが可能だと感じとりました。このCCPMの導入に向けて、PMO担当者の研修や試験導入などの準備をおこない、会社としての正式採用が決まりました。現在は適用案件を増やし、組織への浸透を図っているところです。実際にCCPMを適用した案件では、PMO担当者がバッファの増減の資料を提供するとディレクターや制作側もバッファの動きに注目し、バッファが減ってくるとリスクヘッジを考え始めるといった効果が出てきています。
エスカレーションを妨げる心の壁を取り除く
エスカレーションがうまくできない大きな理由は、「忙しい上司に心配事を増やしてしまっては申し訳ない」「エスカレーションすることで周りの人たちに迷惑がかかってしまっては申し訳ない」といった遠慮の気持ちと、自分で何とかしなくてはいけないという責任感が大きく影響しているのではないかと感じています。しかし、これらの遠慮や責任感は組織の内側にベクトルが向いてしまった判断で、一つ間違うとお客様に多大なご迷惑をかける結果につながりかねません。責任感のベクトルがお客様の方向を向いていれば、まったく違う判断、行動になると思います。PMO担当者は、エスカレーションが必要な場合、当事者から上司へのエスカレーションを促す、エスカレーションした内容が正しく伝わっているか確認する、エスカレーションがしづらい状況にあるのであれば、PMO側でエスカレーションするという活動をおこない、確実に何かしらの対策が施されるところまで追跡するようにしました。特に若いディレクターなどはついベクトルが組織の内側に向きがちなので、粘り強くエスカレーションの重要性を説き続けようと考えています。
要件定義フェーズにPMO担当者が同行
要件定義フェーズのブラックボックス化を防ぐための施策として、要件定義から請け負うような大型案件については、PMO担当者が打ち合わせに同行するようになりました。役割としては、要件が提案時と大きく変わったなど、品質や納期を守ることに対してリスクが生じた際に、エスカレーションをおこない早期に対策を図るように促す動きをしています。契約周りの手続きや、外注業者の選定などが今までよりもスムーズに進んでいるという手ごたえはありますが、ゴールが「要件定義フェーズが順調に進むことが当たり前という状態」だとすると、まだまだ課題はたくさんありますので、知恵を絞りながら対応を進めていこうと考えています。
蓄積したナレッジの整理に着手
PMOの活動はミツエーリンクスの中に浸透し、PMOの担当者をアサインする案件の定義から外れた案件でも、何かしら不安要素を感じた部門長や案件責任者からPMOをアサインしてほしいという要望があがるようになってきました。そのような声掛けをもらえること自体、非常にうれしく思いますし、そのような案件には柔軟に対応するようにしています。一方、PMOが入る案件数が増えるにつれ、PMO担当者の人数が不足してきていますので、PMO担当者を増やすためのトレーニングを進めるとともに、新任PMO担当者が今まで蓄積したナレッジを活用できるよう、今まで蓄積したナレッジの再整理をおこなっています。この整理作業は、新任PMOのためだけではなく、既存のPMO担当者にとってもよい復習の機会となっており、今後のPMO活動のレベルアップに好影響があると感じています。
プロジェクトマネジメントの組織的な取り組みは、終わりのない坂道を上っているようなもので、何か問題をクリアしても次々と課題が現れてきます。その瞬間は「参ったなあ」と思うこともありますが、その反面、来た道を振り返るとずいぶん上ってきたなあという気もします。これからも根気強く一歩一歩坂を上っていこうと思います。
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