上位目的を意識して、思い込みによるミスを防ぐ
UX本部 UXビジネスチーム UXエバンジェリスト 金山 豊浩上位の目的を意識する
先日、とあるイベントに参加したのですが、会場で飲み物を買うにはEdyしか使えないことが分かっていました。Edyは持っていなかったので、コンビニでEdyカードを手に入れることにしました。
私:Edyカード ありますか?
店員:ありますよ。300円です。
私:では、1枚お願いします。
店員:チャージしますか?
私:(心の声:300円あれば飲み物2本は買えるし、今日凌げればいいか)いえ、チャージはしなくていいです。
ところが、いざ会場の自販機で飲み物を買おうとすると、品物が出てきません。何度か試した後、表示されたメッセージ【チャージ金額:0円】を見て、300円はカード本体の金額で、何もチャージされていなかったことに気付きました。「チャージしますか?」と親切に確認してくれたのに、「300円はチャージされた金額」と思い込んでチャージをしなかったために、中身が入っていない電子財布を買っただけとなってしまったのです。
これは日常生活の一場面でしたが、仕事の中でも同じようなことが起きていないでしょうか?例えば、Webサイト構築やソフトフェア開発などの要件定義において、発注者側は欲しいものを伝えたつもりでも、できあがったものでやりたかったことができない場合などです。開発者側は、言われたことを忠実に実現するのですが、暗黙で期待していたことが伝わっていなくて実際の利用場面で問題が発覚すると、悲劇としか言いようがありません。
では、どのようにすれば、このような事態を防ぐことができたでしょうか?ひとつの考え方として、上位の目的を意識してほしいものを伝えたり確認したりする方法が考えられます。例えば、冒頭のコンビニのケースで言えば、店員が「カードにはまだチャージされていないので何も買えない状態ですが、チャージしますか?」と伝えることで、Edyカードの仕組みが分かっていない人の誤解・思い込みを防ぐことができます。また、Edyカードを購入する側も「Edy対応の自販機で飲み物を買いたいからEdyカードがほしい」と、目的とほしいものを伝えれば、「では、チャージも必要ですね」と店員のサジェスチョンを引き出すことができたかもしれません。
Webサイト構築やソフトフェア開発などの要件定義においても、単に必要な機能やコンテンツを列挙するだけでなく、何故それらが必要なのか、やりたいことは何なのかがイメージできるようにすることが重要です。UXデザイン手法というユーザーのやりたいことを明らかにして解決策をデザインする方法があります。このUXデザイン手法をうまく使えば、Webサイトやソフトウェアを利用する人のニーズや目的が明確になるため、発注者の意図(誰向けにどんな価値を提供したいか)が開発者にしっかりと伝わる要件定義が可能になります。UXデザイン手法について、もう少し詳しく見ていきましょう。
「ペルソナ手法」でコミュニケーションロスを減らす
UXデザイン手法のひとつとしてよく知られているペルソナ手法では、ターゲットユーザーである「ペルソナ」を定義し、そのゴールを記述することで、構築・開発しようとしているWebサイトやソフトウェアを誰が何のために使うのかを明確にすることができます。ユーザーとゴールを明確にしたら、次はペルソナにとっての理想的な体験をストーリーボード(映画の絵コンテのようなもの)で描き、各利用場面で必要な機能やコンテンツを洗い出していきます。
それぞれの機能やコンテンツの上位目的としてペルソナのゴールを常に意識することで、達成方法にも柔軟性や広がり・新しい発想が生まれてきます。要件を詳細化していく過程で、利用シーンを想定しながら本当にやりたかったことができるかどうか、スケッチによるプロトタイプなどを使って検証すれば、暗黙で期待していたことや不足している機能に気付いたり、必要だと思っていたけどよく考えると使わない(=必要ないので削る)ことが明らかになったりします。
このようにして、UXデザイン手法を使って要件を洗練させてWebサイト構築やソフトフェア開発などの関係者に分かりやすく伝えることで、発注者と開発者の間で発生するコミュニケーションロスを要件定義の段階で減らすことができます。
日々の生活の中でも、「何のためにこの作業をやっているんだろう」と意識して考えることで、ミスを防ぐだけでなく、より効果的な仕事につながると思います。あまり突き詰めて考えると、「何のために生きているか」と哲学的な問答にまで到達しますので、適度に掘り下げることにして、本来の目的は何かを考える癖はつけておきたいものです。
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