CSUN 2014参加報告
R&D本部 アクセシビリティエンジニア 黒澤 剛志2014年3月18日から3月21日まで、米国サンディエゴで開催された世界最大級のアクセシビリティに関する国際会議、29th Annual International Technology and Persons with Disabilities Conference(CSUN 2014)に参加してまいりました。このコラムではCSUN 2014に参加して私が感じたことを報告します。
CSUNとは
「International Technology and Persons with Disabilities Conference」は主催のCalifornia State University, Northridgeの略称からCSUNと呼ばれています。今年で29回目を迎え、3日間にわたるセッションの他にもアクセシビリティに関する製品やサービスの展示などが行なわれています。
セッション発表
今回のCSUNでは、私は「Accessibility and the Power of CSS: Disparities between Ideals and Reality」というセッション発表を行ないました。このセッションでは、ブラウザーが支援技術に提供する情報が、HTMLのセマンティクスを反映していない(CSSの影響を受けてしまう)場合があるという問題を取り上げました。会場の部屋は概ね満員で、多くの方に興味をもっていただけたようで大変ありがたく思います。
- ※ なお、セッションの内容はこのコラムでは割愛しますが、4月25日開催予定のCSUN 2014参加報告セミナーで簡単に紹介する予定です。
さて、セッション概要の投稿期限が10月初頭、採択通知が12月初頭、セッション発表が3月末でしたので、概要を考えていた頃から半年以上たっての発表となりました。その間、ブラウザーとアクセシビリティに関する状況は良くも悪くも変わっていったため、発表準備中に改めて調べなおしたり確認しなおしたりといったことが必要でした。これはこの分野ならではの特徴だと思います。
セッション聴講
今年のCSUNでは、私はWebにおけるグラフィックスと数式に関するいくつかのセッションに参加しました。グラフィックスではSVG(Scalable Vector Graphics)、数式ではMathML(Mathematical Markup Language)が主に議論されていました。いずれもいくつかのブラウザーや支援技術がすでにサポートを進めており、セッションではスクリーン・リーダーでのデモなどが行なわれていました。
それ以上に重要だと思ったことは、ブラウザーがグラフィックスや数式を直接扱うことで、それらをビットマップ画像として作っていた時よりも、はるかに多くの情報をブラウザーや支援技術が知ることができる、ということです。
グラフィックスのセッションでは、SVGを使ってグラフを作る場合、コンテンツ制作者は実際のデータを知っているため、データをグラフィックスに埋め込めば、アクセシビリティにも、検索にも、データの再利用にも良いコンテンツを作れるだろう、という話がありました。また、数式のセッションではユーザーが数式を構成する要素をインタラクティブに移動するデモも行なわれていました。これも数式の構成要素をブラウザーや支援技術が知っているからこそできることです。
SVGやMathMLにはまだいくつか課題も残っていますが、今後はこれらの技術を活用しながらアクセシブルなコンテンツを制作できるようになるものと期待しています。
国際的な問題と地域的な問題
今回、もう1つ気になったことは国際的な問題と地域的な問題の区別です。CSUN 2014では私の発表以外にも、標準的な技術を使ってコンテンツを作ってもブラウザーや支援技術が対応していなかったり実装に問題があったりして、ユーザーに情報が届かないことを取り上げたセッションが複数ありました。それらの発表の中では、コンテンツをこう作ると問題を回避できるといった回避策が発表されることもあります。
それらの情報は有益ではあるのですが、多くの場合、発表者の地域で使われているブラウザーや支援技術を前提に議論されています。このコラムを書いている時点で、主要なブラウザーは世界的に見ても数種類しかありませんが、主要な支援技術はスクリーン・リーダーだけでも地域によって異なります。そのため、セッションで発表されている内容が参加者の地域で適用できない場合もでてきます。
それを踏まえると個々の回避策よりも、ブラウザーや支援技術を(地域に依らない)標準的な技術に対応させることが重要だと私は考えます。そのうえで、ブラウザーや支援技術の問題によって情報が正しく伝わらないという国際的な問題に対して、我々の地域ではこういった取り組みをしている、のように問題を分けて議論する必要があるように感じました。国際会議で特定地域の問題を議論することの意義はこの問題意識があってこそだと思います。逆に言えば、日本における問題も国際的な視点から意味づけしたうえで積極的に議論するべき時なのかもしれません。
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