CSUN 2015参加報告
第二本部第一部(アクセシビリティ) アクセシビリティ・エンジニア 黒澤 剛志2015年3月3日から3月6日まで、米国サンディエゴで開催された世界最大級のアクセシビリティに関する国際会議、 30th Annual International Technology and Persons with Disabilities Conference(CSUN 2015) に参加しました。今年のCSUNではミツエーリンクスは Accessible Graphics for High Pixel Density Era (高ピクセル密度時代のアクセシブルなグラフィックス)というタイトルでセッション発表を行いました。発表セッションの概要や資料は、アクセシビリティBlogの記事「『Accessible Graphics for High Pixel Density Era』セッションのご紹介」で紹介していますので、詳しくはそちらをご覧ください。
CSUNでは今年も数多くのセッション発表が行われ、私も自分の発表以外の時間には、多くのセッションを聴講しました。
聴講したセッションを通して感じたことは大きく2つあります。1つはWeb開発におけるフレームワーク( Angular.js など)の重要性が高まっていることです。もう1つは組織としてアクセシビリティに取り組む時代が来ていることです。フレームワークに関してはアクセシビリティBlogの記事「CSUN 2015聴講セッション紹介3 - Choosing An Accessible UI Framework」で簡単に紹介していますので、そちらをご覧ください。このコラムでは、組織としてアクセシビリティに取り組むことを見ていきます。
組織としてアクセシビリティに取り組む
例年CSUNでは、大規模な企業や組織におけるWebアクセシビリティの取り組みを報告するセッションが多数行われます。今年のセッションでは、アクセシビリティの専門家だけがアクセシビリティに取り組んでもアクセシブルなWebサイトは提供できない、という内容が多かったと感じています。アクセシビリティというと、Webサイトの開発・運用の後工程で検証・試験を行うイメージをお持ちのかたもいらっしゃるかもしれません。しかし、何の取り組みをせずに後工程でいきなり検証を行っても、大きな手戻りが発生したり、手戻りが大きすぎて間に合わなかったりする場合がほとんどです。そのような状態では、アクセシビリティの専門家がいても十分な対応はできません。そうならないためには、前工程でアクセシビリティに取り組むことが重要です。CSUN 2015ではこの問題に対して、大きく2つの方向性が議論されました。
アクセシビリティにより多くの人を巻き込む
1つはより多くの人を巻き込むという内容です。例えば、BBCでは、各チームにアクセシビリティに関する相談役(Accessibility Champions)を設けて、アクセシビリティの専門家(Accessibility Specialists)は相談役のサポートに回る体制をとっているという発表がありました。現在4000人強の開発者に対して、51人の相談役がいるそうです。チームごとにアクセシビリティの取り組みを進めることで、手戻りを減らすことができ、専門家がサポートにまわる事で、チーム間で成果の再利用が進められているようです。組織の規模が大きな場合、ともすると、専門家は現場から遠い人のように思われがちですが、BBCのこの取り組みでは、現場からの共感も受けているとのことでした。
また、企業や組織向けのアクセシビリティの研修プログラムの紹介もありました。当社が提供しているWorldSpaceの開発元、 Deque Systems 社(Deque)も企業向けにWebアクセシビリティの研修・教育プログラム、 Deque University を提供していますし、当社でもお客様向けにWebアクセシビリティの研修を行うことがあります。今後、アクセシビリティの専門家にはますます「組織やプロジェクト全体でアクセシビリティに取り組む」ことの支援が求められると感じました。
前工程に注力するために、後工程を効率化
もう1つの方向性は、前工程により多くの時間を割けるように、後工程の検証を効率化するという内容です。Dequeのセッションでも後工程の検証の一部はQAエンジニアに移譲して、アクセシビリティの専門家は企画・設計段階の問題に注力しているという発表がありました。その際に利用している、QAエンジニアが使いやすいチェックシートの紹介があり、興味深く思いました(チェックシート自体は非公開)。このチェックシートでは典型的な問題例がテンプレートとして用意されており、QAエンジニアは問題が発生している箇所を記入するだけで、効率よく作業を進めることができます。
また、技術的なアプローチでは、Tenon.ioや GoogleのAccessibility Developer Tools(ADT) を使った自動テストの紹介が見受けられました。End-to-End(E2E)テストフレームワーク、 Protractor にはTenon.ioとADTのプラグインがすでにあり、E2Eテストの導入を進める際には要チェックでしょう。
まとめ
アクセシビリティへの取り組みを組織として取り組んでいく今、私も社内外を問わず関係者の近くに感じられるアクセシビリティ・エンジニアを目指していきたいと考えています。
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