CHI2015参加報告
第七本部 インタラクションデザイナー 奈須 愛也香2015年4月20日から4月23日までの4日間、韓国ソウルで開催されたヒューマンインターフェースに関する国際会議CHI2015(The33rd Annual CHI conference on Human Factors in Computing Systems)に参加してきました。
CHIカンファレンスは、1982年から続くHCI分野のトップカンファレンスのひとつであり、ユーザインタフェース、情報アーキテクチャー、ユーザビリティなどといった、HCI(Human Computer Interaction)の幅広い分野にまたがる最新の研究成果発表・および教育の場として、毎年何千人という参加者が集まります。発表のカテゴリーも多様で、論文発表、パネルディスカッション、デモ展示、ポスター展示や、コースと呼ばれる講義、ワークショップなどのセッションもあり実に様々です。
初めてのアジアでの開催
今年のCHIカンファレンスは韓国ソウルで開催されました。
今回、アジアで初めての開催という記念すべき回で、アジア各地からたくさんの参加者が参加していました。特に開催地である韓国からの参加者は、全体の約3分の1を占めるほどでした。
今年のCHIカンファレンスは「アジアでの開催」を強く意識した構成となっており、たとえば、Asian CHI Symposia(ACHIS)というプログラムでは、中国や日本、アジア諸国のHCIに特化したワークショップが行われていました。他にも、アジアのHCI動向を共有するシンポジウムなども開催されていたようです。
CHI2015のテーマは「Crossing」
今年のテーマであった「Crossing」。日本語で直訳すると「横断」という意味になりますが、CHI2015での「Crossing」には、「コラボレーション」や「交錯」というような意味や、人とテクノロジー・仮想と現実・研究と実学など様々な分野が互いに刺激しあい連携しあっていく、というような意味が込められていると感じました。
たとえば、「今」と「未来」のCrossing。「今」とは、検索エンジンの使い勝手やテーブルの表現方法など、すでに世の中に存在しているUIを改善していくための研究であり、「未来」とは、ユーザーの動きに連携して形状を変えるような、まだ世の中に普及していない最先端の技術・デザインを創造していくための研究です。CHI2015では、「今」と「未来」の研究がバランス良く語られることにより、参加者がカンファレンスの中で「今」と「未来」を両面から考えられるようになっていたと感じました。
また、「アカデミック」と「実用」という視点では、「アカデミックな場から生まれたイノベーションを、どのように現実世界(実際のプロダクト)に還元していくか」といった内容の発表やケーススタディも多く見られました。
このように、多様な方向性の発表が行われており、さまざまな方向性を持ったデザイナー・研究者がまさに「Crossing」しあえる内容だったと思います。
CHI2015で感じた未来
とても刺激的な研究や発表が多かった中で、これからのHCIの方向性だと感じたのは「IoT(Internet of Things)」と「タンジブル・インターフェース」でした。
「IoT」とは、「Internet of Things」の略で、日本語では「モノのインターネット」と言われており、「様々なものがインターネットやクラウドに接続され、相互に制御する仕組み」の事です。私が特に印象に残ったのは、Samsung Electronics のDonghoon Chang氏の「Journey to a Better Life」やLG ElectronicsのDavid Min氏の「UX Design in the IoT Era」の中で語られていた、未来のIT環境についてのコンセプトです。たとえば、家電と携帯電話が連携して、ユーザー(持ち主)の予定を把握してコーヒーメーカーが起床時間にコーヒーを沸かし、また、帰宅に合わせて家電が連携しあい、室内を快適な状態にセットしておいてくれるような生活空間です。
「タンジブル・インターフェース」とは、タンジブル(実体がある、触れる事ができる)という言葉が意味するとおり、「ユーザーがデジタルな情報を直に操作できることで、より実体感を持って操作できる」インターフェースの事です。たとえば、携帯を商品かざすだけで、その商品についての様々な意見に触れられるアプリのモックアップを体験できる展示があったり、「Ergonomic Interaction on Touch Floors」という論文発表では、床全面がタッチディスプレイになった際のユーザビリティについて発表されており、コンテンツの見せ方、操作時の快適な姿勢などが研究されていました。
カンファレスでは、上記に挙げた以外にもたくさんの「IoT」で、「タンジブル」な、未来を感じる研究・取り組みがされており、沢山の人が夢見てきた未来のIT環境が少しずつ実現に向かっていっているのだと感じました。
もちろん「IoT(Internet of Things)」や「タンジブル・インターフェース」の考え方は、今回のCHI2015で初めて出てきたものではなく、もっと以前から提唱され、取り組まれてきたことですが、今回のカンファレンスでの様々な展示や論文発表・講義を通じ、この2つの考え方がこれからのHCIにとって大きな流れだと感じました。私たちが普段生活していく中では、まだまだこういった流れを実感することはあまりありませんが、最新の現場ではかなりのスピードで研究・実践されていると実感しました。
終わりに
簡単ではありますが、私からCHI2015についてご報告させていただきました。今回のCHIカンファレンスでは、世界中でどんな取り組みがなされているのか知ることができ、また、たくさんの優秀な学生・研究者の姿を見、とても良い刺激を得ることができた4日間だったと思います。
今後どんどんIT環境は変わっていくと思いますが、自分も1人のデザイナーとして、より良いものを提供していけるよう、情熱を持って努力していきたいと強く思いました。
ちなみに、2016年度のCHIカンファレンスはアメリカ合衆国のカリフォルニア・サンノゼで行われるようです。興味のある方はぜひ参加を検討されてはいかがでしょうか?
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