アクセシビリティ オーバーレイに対する見解
取締役(CTO) 木達 一仁Web担当者のあなたは、担当しているサイトのアクセシビリティ向上に、今まさに取り組もうとしていたとします。あるいは、既に取り組んでいるけれど、より効率的に取り組みたいと考え、施策を見直している最中だったとしましょう。
そんなとき、どんなWebページでも特定のスクリプトを読み込ませるだけで、コンテンツ自体に手を加えることなくアクセシブルにできる……そんなうたい文句のソリューションが存在することを知ったら、あなたは飛びつきますか?
もしサイトにGoogle タグ マネージャーを導入済みなら、特定のスクリプトを読み込ませる作業は、対象ページ数が数千だろうと数万だろうと短時間で完了できます。うたい文句が事実なら、金額次第とはいえ飛びつくWeb担当者は一定数、いらっしゃることでしょう。
事実かどうかはさておき、そのようなうたい文句のソリューションは実在します。私が認識する限り昨年来、英語圏で比較的よく話題にのぼるのを目にしてきた、アクセシビリティ オーバーレイ(以後「オーバーレイ」)と呼ばれるソリューションが、それです。
英単語のOverlayには「覆い」「カバー」をといった意味があります。オーバーレイを導入しますと、文字サイズを変更したり、テキストや背景の色を変更するための専用インターフェースがページ上に重ねて表示されます。加えて、画像の代替テキストを自動的に付与したりするものもあるようです。
確かに、そうしたインターフェースなり機能がアクセシビリティを向上させる可能性はあり、導入するメリットはゼロではないでしょう。しかし、オーバーレイを批判する専門家や障害当事者の声は数多くあり、論点は私も署名をしたOverlay Fact Sheetにまとめられています。
近年のAI技術の進歩は目覚ましく、Webアクセシビリティ分野での活用に対する期待は高まっています(もちろん私も期待しています)。しかし、オーバーレイが自動的に付与する画像の代替テキストなどの信頼性は、残念ながら十分ではないようです。将来的に必要十分な信頼性を獲得する可能性はありますが、短期的には難しいでしょう。
そもそも、オーバーレイを導入していないサイトであってもOSやWebブラウザ、支援技術をユーザーが活用することで、オーバーレイが提供するのと近しい表示上のカスタマイズ、アクセシビリティの確保は可能です。この点については、みんなの公共サイト運用ガイドライン(2016年版)において以下の指摘がなされている通りです。
ホームページ等において、音声読み上げ、文字拡大、文字色変更等の支援機能を提供する事例がありますが、これだけでは、ウェブアクセシビリティに対応しているとは言えません。
利用者は、多くの場合、音声読み上げソフトや文字拡大ソフトなど、自分がホームページ等を利用するために必要な支援機能を、自身のパソコン等にインストールし必要な設定を行った上で、その支援機能を活用して様々なホームページ等にアクセスしています。
そういうわけで、たとえオーバーレイの導入に一定の合理性が認められたとしても、導入はおすすめしません。
語弊があるかもしれませんが、アクセシブルではないコンテンツが生まれる要因を一種の疾病にたとえるなら、対症療法ではなく根治を目指した治療なり施策を提供したい、と私は考えています。そのような施策には、制作物におけるアクセシビリティ品質の継続的改善のみならず、Webの本質とユーザーの多様性の双方に根ざした価値提供を組織文化に組み込むための教育やプロセス設計も含まれます。
オーバーレイ導入の是非はもちろん、Webアクセシビリティについてお悩みやお困りごとがございましたら、ぜひお気軽にご相談ください。
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