ユーザー視点で期待するWebブラウザの進化
取締役(CTO) 木達 一仁Web品質Blogでは、Google ChromeとMozilla Firefox、2つのWebブラウザについて、新しいバージョンがリリースされる都度お知らせをしています。どちらのブラウザも基本的には毎月、新たなメジャーバージョンが安定版として公開されており、新規で機能が追加されたり、あるいは既存の機能が改善されるなどしています。両ブラウザに限らず、Microsoft EdgeのようなChromiumベースのWebブラウザであればChrome同様、頻繁にアップデートされていることでしょう。
新たなWeb標準なりAPIが次々と実装され、利用可能になること自体は、大変素晴らしいと思いますし、いち制作者としては歓迎したいとも思います。しかしDeveloper Experience(DX)、いわゆる開発者の視点はさておきUser Experience(UX)、つまりユーザーの視点ではどうでしょう? Webブラウザの使い勝手や利便性は、果たして向上しているのでしょうか?
セキュリティの向上やプライバシーの保護といった側面では、確かに進化していると感じますし、実際それらを前面に押し出すBraveのようなブラウザも存在します。しかしながら、WebサイトやWebアプリケーションを利用するという体験自体を何か劇的に改善するようなアップデートは近年記憶になく、あえて極論を申せば、ユーザー視点においてWebブラウザは進化を止めてしまったかのように映ります。
私はいちユーザーとして、Webブラウザはまだまだ進化できるし、また進化して欲しいと考えています。進化して欲しいというより、ユーザーにもっと寄り添って欲しい、とも表現できるでしょうか。それは主に、Webコンテンツの表示のカスタマイズについてです。
元来、Webコンテンツをどう表示させるかは、ユーザーに決定権があります。例えば老眼が進行し、また両目に白内障を患っている私は、文字の大きさを標準より大きくしてWebページを閲覧することが少なくありません。制作した側の意図なりデザイン趣意はさておき、コンテンツをどう表示のうえ利用するかは原則、ユーザー個々の自由なわけです。
「Webサイトはあらゆるブラウザで完全に同じく見えるべきか?」という問いかけをそのままドメイン名にした、古くからある啓発サイトに「NO!」と記されているように、まさにWebサイトの見え方・表示というのはブラウザごと、ユーザーごとに異なって然るべきです。そもそもブラウザの「リーダー機能」を使って広告などを非表示にするユーザーもいれば、スクリーンリーダーを介した音声で、つまり視覚ではなく聴覚でもってWebコンテンツを利用する視覚障害者もいます。
閑話休題。私のように文字を大きくして特定のWebサイト/Webページを閲覧したいニーズを持つ方は、少なくないでしょう。にもかかわらず、多くのブラウザはそのための機能を、目立ちにくい場所に仕舞い込んでいます(文字サイズを変更するキーボードショートカットをひとたび覚えてしまえば、大した問題ではありませんが……)。私の知る限り、数少ない例外のひとつがVivaldiで、気付きやすいウィンドウ右下にページをズームする機能がデフォルトで表示されています。
話は、文字の大きさにとどまりません。CSSでコントロールされている範疇であれば、ユーザースタイルシートと呼ばれる技術でもって、あらゆる表示をユーザーの好きにカスタマイズできるのです。macOS版のSafariには、ユーザースタイルシートを読み込ませる設定が存在しますし、他のブラウザでもStylusやStylebotといったアドオン/拡張を組み合わせることで、任意のスタイルを適用させることが「技術的には」可能です。
技術的には……と強調したのは、ユーザースタイルシートの作成において、CSSに対する理解がどうしても必要になってしまうのです。私のようなWeb制作者はさておき、CSSについて専門的知識を持たない一般のユーザーには、まず困難でしょう。であればこそ、そこはWebブラウザがもっとユーザーに寄り添い、CSSの知識がゼロであってもユーザースタイルシートを作成し、サイト単位であれページ単位であれ任意の範囲に適用できるよう、進化すべきではないか……と私は思うのです。
先日、TechFeed Experts Night#1にて「アクセシビリティ オーバーレイの是非」と題したライトニングトークを披露させていただきましたが、そのなかで「(Webブラウザは)もっとユーザーがコンテンツをカスタマイズしやすい方向に進化すべき」と主張し、また「(そういう意見に賛同してくださる方は)一緒にブラウザベンダーに働きかけましょう」と呼びかけたのは、そんな想いからのことです。
読者の皆様には、昨今のWebブラウザは、どのように映っているでしょうか? Webブラウザに、そしてその使い勝手に、進化の余地はあるとお考えでしょうか? あるいは、Webコンテンツの表示においてどんなお悩みなり課題をお持ちでしょうか?
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