SWOT分析
企業の強み(Strength)、弱み(Weakness)、機会(Opportunity)、脅威(Threat)の全体的な評価をSWOT分析と言います。SWOT分析は外部環境分析(機会/脅威の分析)と内部環境分析(強み/弱みの分析)に分けることができます。
外部環境分析とは、企業あるいは事業単位が自らの利益をあげる能力に影響を与えるマクロ環境要因(経済、技術、政治、法規制、社会、文化)とミクロ環境要因(顧客、競合他社、流通業者、供給業者)の変化を観察し、関連する機会と脅威を見極めることを言い、内部環境分析とは、魅力的な機会において成功するコンピタンスが自社の内部にあるかどうかを強み、弱みとして評価することを言います。
企業はSWOT分析を経て、事業の目標設定や戦略策定が可能となり、それを具体的な実行へと移していくことになります。こうした関係を図にすると以下のようになります。
アウトサイドインで考える
上記のようにSWOT分析とは、自社にとって魅力的なマーケティング機会の見極めと、自社のコンピタンスをもとに機会における成功確率の評価を同時に分析することだと言えます。ただ、ひとつ注意しなくてはならないのは、SWOT分析を行なう際、自社のコンピタンスの強み/弱みからはじめてしまうと外部の機会が見えにくくなるという点です。
以前、私が知人に聞いた話です。その知人は親会社にあたる企業での勤務を経て、関連会社へと出向するという経歴を持っていました。もともと親会社から派生してできた関連会社であり、知人だけでなく多くの人が親会社での勤務経験を持っている人だったこともあり、ほぼ似たような企業文化だったそうです。ただ、ほぼ似ている企業文化を持っていたとはいえ2社にも微妙な違いがあったようです。それがSWOT分析に関連することでした。
まず、親会社のほうでは、市場に魅力的な機会を見つけると直ちに戦略を立て、実行に移していたそうです。その際、自社に十分な資産と呼べるものがなくても、まだ手付かずの機会があれば、迅速に戦略を練り、実行を行なっていたということでした。いち早く実行を行なうことで、次第にノウハウが蓄積され、他社よりも早く行動した分だけの競争優位性ができるという考え方だったようです。一方で、関連会社のほうでは、市場に自社のコンピタンスにフィットした機会を見つけることからはじめていたそうです。自社のコンピタンスを検討し、その機会の成功確率を判断した上で戦略策定~実行を行なっていたとのことでした。当然ながら、自社のコンピタンスを見極める過程がある分だけ、行動が一歩遅くなります。また、自社のコンピタンスの「フィット」を優先することで、外部の機会を感知する感覚が少し鈍くなるのだと、知人は言っていました。
この話でわかるのは、SWOT分析を行なうに当たって、S/Wを優先するか、O/Tを優先するかによって、組織の機会を感知する力、環境の変化に応じて戦略策定~実行する力に差が出るということです。企業にとっての目的は「顧客を創造すること」(ドラッカー)なのですから、SWOT分析を行なう際、まずは外部=市場の変化に目を向けなくてはなりません。継続企業として、自社の成長、環境適応能力を重視するなら当然でしょう。間違えてはならないのは、市場のニーズ、顧客の声を捉えられて初めて、自社の強み、弱みを評価できるようになるということです。競合他社との相違が自社の独自性ということができますが、その独自性に含まれる強みと弱みは、変化する市場環境の観点から評価されるべきものなのです。企業の使命を価値を提供することと捉えると、市場(顧客)が価値を認めるものを提供できる能力だけが企業の強みであることがより明確になるでしょう。そのため、自社の現時点での能力を基点にインサイドアウトの視点で分析を行なうのではなく、いまだはっきりと形になっていない市場機会をいち早く感知し、他より早くソリューションを用意するアウトサイドインの視点が、ビジネスを行なう上で大きな能力となります。
外部の変化を感知する力、個々人が感知した事実を共有知識としての認知に変える力
フィリップ・コトラーと並ぶマーケティングの権威、セオドア・レビットはマーケティングの重要性を説いた上で、一方でその限界を次のように語っています。「マーケティングはひとつの企業機能であって、企業機能全体ではない。マーケティングは企業活動を非常に特別な観点から捉える。つまり、繰り返しになるが、マーケティング・コンセプトにあっては、企業というものを、顧客を創造し維持する目的で組織されたプロセスと考えるのである」(『レビットのマーケティング思考法』、ダイヤモンド社)。これは、企業にはマーケティングとは異なるコンセプトで働くプロセスが数多くあるということを示唆していると言えるでしょう。さらに言い方を換えると、企業においては、顧客の創造・維持とは違ったプロセスの中で働く人が数多くいるということにもなります。
そのため、企業の内部においては外部の変化が感知しにくい状況ができます。外部の変化が感知しにくいのは、単純に顧客接点のない人だけというわけではありません。顧客との接点にいる人でも、既存顧客の声に集中することで、逆に非顧客の声が耳に入らなくなるでしょう。そして、変化は多くの場合、非顧客において起こります。新しい製品の投入などで非顧客の心をつかんだイノベーションの波はそこだけにはとどまらず、次第に自社の既存顧客を奪う形で拡大することもあります。自社の事業に詳しくなるということは、すべてを自社の事業の視点で見てしまうことにもつながります。現状の事業プロセスを重視することが、外部の潜在的な変化を感知する力を鈍くするのです。
もちろん、企業の内部にあっても外部の変化を感知している人は必ずいます。ただ、その個人の感知が組織としての認知につながらず、みすみす機会をとり逃すことも数多くあるはずです。企業は外部の変化を鋭く感知する人を育て、その個人の声が組織の共有知識としての認知につなげられるような仕組みを持つ必要があるでしょう。カルロス・ゴーンが日産に導入したクロス・ファンクショナル・チームなどは、個人の感知(暗黙知)を組織としての認知(形式知)に変える仕組みのひとつだと言えます。企業にはマーケティング以外のプロセスが数多くあるからこそ、部門を越えたクロス・ファンクショナルな形で、顧客の創造・維持を目的としたマーケティング・プロセスをプロジェクティブに行なう必要があると言えるでしょう。
インターネット戦略を実行する上でどのような活用方法が考えられるか?
では、インターネット戦略~実行を行なう上でSWOT分析をどのように活用すればよいか、いくつか例をあげておきましょう。
1. 自らSWOTを創造する
強みと弱みは内部で評価するのではなく、外部の評価によって決まります。SWOT分析の強みと弱みの分析は内部環境分析と呼ばれているとはいえ、実際には自社を外部がどのように評価しているかを知ることだと言えます。反対に機会と脅威は内部が外部環境をどう捉えるかという話だったりします。ですから、実際にはSWOT分析というのは、すべて市場や顧客に関するモノの見方だということもできるでしょう。そして、繰り返しになりますが、企業の目的は「顧客を創造すること」です。その意味では企業は積極的に自社のSWOTを創造していかなければならないとも言えます。強みを創造するのはもちろんのこと、機会を自ら創出し、弱みや脅威は適切な対応で強みや機会に変えていくことが、事業の成功にとっては重要なことでしょう。
そのためには、強みや弱みの源泉としての自社の独自性をより強化していかなくてはなりませんし、強みや弱みがターゲット市場において価値として見出されるよう、市場の機会や脅威をコントロールしていくことも必要でしょう。強みも弱みも機会も脅威も、基本的にはターゲット市場の評価だと言うことができますので、積極的な情報提供、コミュニケーションを行なうことで、自社の競争優位性を先手を打って築くことも可能です。ブランディング・ソリューション for ブランド・マネジメントを中心にして、ターゲット市場に対する自社の独自性への理解、共感を促進することで、自らSWOTを創出することも可能でしょう。その際、ターゲット市場の選定やターゲット市場に対する戦略の立て方は、事業の規模などにより異なりますので、
ランチェスターの法則
などを参考に、自社に見合った戦略をもとに実行を行なうことが重要です。
2. インターナル・マーケティングとエクスターナル・マーケティングを統合する
コーポレート・ブランディングの観点から考えると、市場・顧客向けのエクスターナル・マーケティングと組織内部・従業員向けのインターナル・マーケティングはできる限り、統合されていたほうがマネジメントも簡便になります。外側から見た場合でも内側から見た場合でも、企業の掲げるミッション、価値観、ビジョンや、提供する価値やその手段としての製品、サービスが同じように価値あるものとして認識されていたならば、内部と外部を隔てる壁も薄くなり、外部環境の変化に対する感知~認知もよりスムーズに行なえるようになるはずです。そのためには、企業Webサイトは市場、顧客向けに価値提供を行なうエクスターナル・マーケティングのツールとしてだけではなく、インターナル・マーケティングのツールとして従業員にも魅力ある価値の提供を行ない、さらには、投資家、採用希望者、供給業者、流通業者などすべてのステークスホルダーに対して、ブランディングされた企業の一貫性のあるイメージを伝えていく統合的なコミュニケーション・ツールであることが望まれます。企業Webサイトは統合されたコミュニケーション・ツールとして、コーポレート・ブランディングを支援し、あらゆるステークスホルダーに豊かなブランド経験を伝える場として活用することが可能であり、そのような企業Webサイトこそが短期的な視点においても営業成績に効果をもたらすものになるはずです。
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