「EPUBアクセシビリティ診断」サービスのリリースに寄せて
取締役社長 木達 一仁先週、7月21日に「EPUBアクセシビリティ診断」サービスをリリースしました。電子書籍に代表されるデジタル出版物に特化したサービスとしては、当社にとってこれが初めてのサービスとなります。
サービスの概要
「EPUBアクセシビリティ診断」は、フォーマットに EPUB を採用した出版物のアクセシビリティを専門家が診断、結果をレポートするサービスです。診断によって検知された問題点については、改善策もあわせてご提示します。
ご注意いただきたいのは、特定のリーディングシステム(EPUB出版物を処理するシステム)において、意図された通りの正しい音声読み上げを保証するサービスではない、という点です。リーディングシステムの誤読を完全に回避するには目下、非常に困難な状況があるためです。
リリースに至る経緯
EPUBは、W3Cで標準化されたXMLやHTML、CSSなどのWeb技術に基づいた、オープンなフォーマットです。つまりEPUB出版物は、Webコンテンツの一種でもあります。また、アクセシブルなEPUB出版物の要件を取りまとめた EPUB Accessibility 1.0 において、要件の一つに WCAG 2.0 の適合性要件を満たしていることが挙げられています。
もとより当社は、Web標準技術を活用したコミュニケーションデザインを強みとしてきました。そしてまた、アクセシビリティはWebコンテンツが満たすべき品質の一つとして、長年にわたり当社が取り組んできた分野でもあります。
- ニュースリリース「ウェブコンテンツ・アクセシビリティ・ガイドライン(WCAG)2.0への標準対応の開始について」
- ニュースリリース「ウェブコンテンツ・アクセシビリティ・ガイドライン(WCAG)2.0への標準対応の強化について」
そうした背景から、当社においてEPUB出版物のアクセシビリティを診断すること自体は以前から十分、可能な状態にあったと言えます。
いっぽう、アクセシブルなデジタル出版物に対する市場のニーズは顕在化しているかというと、残念ながら「まだ」そうした状況には無いと認識しています。インプレス総合研究所の『電子書籍ビジネス調査報告書2016』によれば、市場は堅調に拡大してきているものの、ジャンル的にはコミックの比率が高く、文字もの等は電子書籍市場全体の20%弱にすぎません(2015年度)。
つまりニーズ志向かシーズ志向かで言うと、「EPUBアクセシビリティ診断」はシーズ志向に偏ったサービスと考えています。
Webと出版の融合を見据えて
それでもなぜサービスのリリースに踏み切ったかと言えば、Webと出版の融合を見据えて、ということに尽きます。
かつて携帯電話(ガラケー、フィーチャーフォン)向けにコンテンツを配信するには、複数のフォーマット(WML、cHTML、XHTML MP etc.)を使い分けなければなりませんでした。しかし通信インフラが発達しスマートフォン全盛を迎えた今、その種の苦労は大幅に軽減されました。またWebページのレイアウトは、かつてはコンテンツ幅を固定したものが一般的でしたが、レスポンシブWebデザインの隆盛とともに柔軟な、さまざまなスクリーンサイズにフィットできるものへと変化してきました。
私は、同じような変化が今後、デジタル出版の領域でも起こるのではと予想しています。すなわち、複数存在するフォーマットはWeb技術を核とした、相互運用性を最大化できるフォーマットへと収斂し、また表示についてはフィックス(固定レイアウト)型よりも柔軟なリフロー型が、より一般的かつ主流になっていくのではないかと。
また、EPUBフォーマットやEPUB Accessibility 1.0を策定した 国際電子出版フォーラム(IDPF) は今年2月1日、W3Cと組織の統合契約を締結しました。紙の出版物がある日突然、無くなってしまうようなことは起こらないにせよ、今後ますます、Webと出版の両分野は緩やかに融合していくことでしょう。
そうなれば一層、Webコンテンツとデジタル出版物を分け隔てすることなく、いずれもデザインの対象として取り組む必要が高まるでしょう。本サービスは、当社にとってその取り組みの端緒という位置付けでもあるのです。
IDPFとW3Cの統合に関連して、注目しているのがAdvanced Publishing Laboratory(APL)です。APLは、W3Cのホストのひとつである慶應義塾大学SFC研究所、そして国内大手出版社4社、株式会社出版デジタル機構が共同で設置したもので、2年間にわたり未来の出版に関する研究を行うとのこと。活動にはアクセシビリティの研究も含まれており、今後APLの活動から得られるであろう成果も踏まえて、本サービスをより良いものに改善していきたいと考えています。
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