アクセシビリティ:企業が配慮しはじめた理由とは・・・
HCDチーム シニアアナリスト 伊藤 順一−米国でSouthwest航空社のWebサイトで視覚障害者が航空券を購入できなかったことが、米国障害者法に違反しているという理由から人権擁護団体Access Nowなどが原告となった訴訟で、 2002年10月、同法および関連の規制にはインターネットのWebサイトは含まれないとの判決が出た。−
これだけを聞くと、Webサイトにおいてアクセシビリティに配慮する必要は無いのではないかと感じる方もいるだろうが、実際のところはそれと反するもので、多くの企業がアクセシビリティを考慮し始めている。
同情はいらない、ただ情報が欲しいんだ。
「同情してアクセシビリティなんて言葉を使って欲しくはないんです。障害者だって、情報が欲しいのです。物を買うんです。アクセシビリティに配慮していないサイトはそれだけ、障害者に対しての市場を失っているのです。」私が、知り合いの障害者(その方は全盲という障害を抱えています)に言われた言葉である。すべての障害者の方が同じことを思っているとは限らないが、私はこの言葉に強い衝撃を覚えた。
現在日本では約3.3%の人が何らかの障害を抱えている。また、総務省の統計によれば平成14年9月現在、65歳以上人口は2362万人で総人口の18.5%を占め、75歳以上人口は初めて1000万人を突破したとのことだ。この数字はEコマースの市場として考えてみれば見逃せる数ではない。
なかなか外に出られない、ゆっくりと買い物をすることができない方にとって、自宅で簡単にアクセスできるインターネットは生活を向上させる非常に便利なツールだ。総務省の「通信に関する現状報告」(平成12年)によれば、インターネットを利用する障害者の約90%が、利用後の生活の変化について「よい方向に変わった」または「どちらかと言えばよい方向に変わった」と回答している。しかしよい方向に変わった理由として「買い物が便利になった」と回答した方は11.1%と低く、この調査から数年たった今でもまだ市場としての成熟には至っていないと考えられる。Webサイトのアクセシビリティを向上させ、間口を広げることで将来的に、Eコマースの消費者としての大きな市場を得られることになるだろう。
今までの企業の動きは
2000年9月21日、米国の主要なIT企業46社が連名で、企業側からも率先してアクセシビリティに取り組むことを表明した手紙を当時の大統領クリントンに送った。情報技術をアクセシブルにすることが情報社会における障害者の機会や、企業にとっての利益につながることを理由としており、現在のところIBMやMicrosoftなど多くの企業が独自のWebアクセシビリティのガイドラインを公開し、アクセシビリティに関する法律であるリハビリテーション法第508条に自社の製品が適っていることを宣言している。
日本ではというと、Webに関してのガイドラインを現在公開している企業は株式会社日立製作所や株式会社富士通など一部の企業に限られているというのが現状である。
今後の企業サイトの進むべき方向
独自のガイドラインを作成するなどWebサイトについてのアクセシビリティの重要性を認識し積極的に取り組むようになってきた企業もあり、今後のインターネットの普及が障害者や高齢者などの層へ広がってゆくことは必然であると考えられる。またアクセシビリティに配慮したWebサイトは、障害者だけではなく健常者にとっても使いやすいものとなるのは当然のことであり、これからはアクセシビリティに配慮することがWebサイト構築の前提となるだろう。
アクセシビリティに配慮したサイト構築は一朝一夕に出来るわけではない。というのも我々が健常者であり、障害者の気持ちは理解できても、実際にその環境は再現できないから。そんなときに先の障害者の言葉を思い出してもらいたい。「障害者だって、情報が欲しいのです。物を買うんです。」
私たちの取り組み
私達は、Webサイトのアクセシビリティに関してW3C(インターネット上で利用される技術の各種標準規格を制定する第三者機関)の勧告と弊社が蓄積してきたノウハウを融合した100項目に及ぶチェックリストを開発し、サービス化した。これは、インターネットに期待している障害者の方と、新たな市場を開拓することの必要性を感じている企業の橋渡しの役割を演じるのが、私達のできることであり、すべきことだと認識しているからである。
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