顧客生涯価値(Lifetime Value=LTV)を基点に、今後のCRMを考える
ディレクショングループ 棚橋 弘季現在、経営およびマーケティングの世界でのトレンドとなっている言葉の1つに「顧客生涯価値(Lifetime Value=LTV、または、Customer Lifetime Value=CLV)」 というものがあります。顧客ロイヤルティを高めていくことによって築かれる、顧客との長期的関係の上で期待できる取引価値を指すものです。今回はこの「顧客生涯価値」というキーワードを中心に話を進めたいと思います。
ビジネスの2つの成果指標、「市場シェア」と「顧客シェア」
まずは顧客生涯価値という言葉が話題となっている背景を見てみたいと思います。
企業の多くは、将来的な事業計画(売上予測)を立てる際、市場シェアを成果の指標として使っています。価格設定や製品の品質の設定など、製品のポジショニングを決める際、将来の売上を予測することとは事業にとって非常に重要なことです。売上数を予測する際に、市場シェアからそれを予測することは理にかなったひとつの方法です。
市場シェアがひとつのビジネスの成果指標と捉えられると、当然マーケターは、繰り返し行なわれる販売キャンペーンごとの売上額を気にしながら、市場シェアを追求することになります。市場自体が成長している時には、コストの投下によって市場シェアの拡大競争に勝ち抜くことは利益を生む上で重要です。ところが、成長が頭打ちの市場や、逆に衰退をはじめている市場では、市場シェアを他社と奪い合うためにコストを投下する意味合いが極めて薄いことは、考えればすぐにわかります。この場合、自社の売上、利益を死守するためには、市場シェアの奪い合いではなく、顧客シェアの維持が重要になってきます。
「市場シェア」から「顧客シェア」へ
1:5の法則に示されるように、新規顧客を獲得するコストは既存顧客を維持するコストの5倍必要であると言われます。同じ額のコストで多くの顧客から多くの売上を確保しようとするなら、新規顧客の獲得よりも既存顧客の維持にコストを投下するほうが効率的ということです。これは成長が鈍化した市場や衰退がはじまった市場だけではなく、成長過程の市場においても同じことです。あらゆる市場で競争が激化している現在では、企業は、これまでのように市場シェアを追求するだけではなく、ひとりひとりの顧客のシェアを追求する必要が出てきたのです。
顧客生涯価値は顧客シェア追求のための指標
とはいえ、顧客シェアを計る指標がなければ、どれだけのコストを投下し、どれだけの顧客シェアの維持・獲得を目標にすればいいのか、客観的な判断ができません。そのための指標として出てきたものが「顧客生涯価値」です。
顧客生涯価値をより正確に定義すれば「取引を開始した平均的な購入客から一定期間にわたって予測できる累計正味損益額」ということができます。計算式は少し複雑ですので、ここでは説明を省きますが、計算の考え方自体はキャンペーン単位で行なわれる損益予測計算と本質的には変わりません。ただ、一般的なキャンペーンの損益予測計算では、顧客を問わない「発信数量」や「レスポンス率」、「レスポンス件数」などの項目を、それぞれ新規顧客と既存顧客に分けて計算する点が大きく異なる点です。もちろん、これは「新規顧客の獲得」と「既存顧客の維持」という目的を正しく評価するために行なうものです。
既存顧客の維持が重要、しかし・・・
「新規顧客の獲得」と「既存顧客の維持」という2つの目的のうち、単純にコスト効率を考えれば、後者を重視して既存顧客の維持率を高めることを優先すべきです。しかし、どんなに維持率を高めたとしても、脱落していく率を0に抑えることは不可能です。そのため、脱落した数の補填のため、新規顧客の獲得も同時に目的として考えなくてはなりません。
顧客シェアを重視し、顧客生涯価値を指標として、事業を推進する際には、既存顧客の維持率を高く保ちつつ、新規顧客の獲得にコストを投下していく必要があります。とうぜん、その際には、「既存顧客の維持」と「新規顧客の獲得」にかかるコストとレスポンス率を損益分岐点を意識しながらバランスさせることが重要です。顧客生涯価値を計算する際に、新規顧客と既存顧客を分けて計算するのはそういう意味からなのです。
綿密に計画を立て、実行すること。そして、効果を測定し、修正すること
すでに説明したとおり、顧客生涯価値は、顧客シェアを評価するための指標です。それは単なる測定のための"ものさし"に過ぎません。実務上、よくあることですが、便利なものさしが手に入ると、「測る」ことそれ自体が仕事になってしまい、何故「測る」のか?何のために「測る」のか?が見失われてしまうことがあります。
ある施策を実行し、それが期待した成果を生み出したかどうかを知るために、指標によって効果を「測る」ことは必要なことです。しかし、ただ、効果を測っただけでは、次につながりません。何故、効果が出たのか、行なった施策は最大の効率の何パーセントを発揮して実際の数値(売上)を生み出したのか、また、その数値は誰から、どんな人から生み出されたのか、など。当初の計画のどこがうまくいき、どこに問題があったかを発見できなければ、「測る」ことは単に1回のゲームのスコアボードを見るだけの行為に等しくなります。常勝チームなら毎回スコアボードを見ることは楽しい行為でしょう。しかし、常勝チームになるには、単に1回の勝ち負けだけを評価するのではなく、戦略に基づきながらも、1試合ごとの反省点をフィードバックし修正するという継続的改善のプロセスを常に回しながら、勝つためのチーム作りをしていかなくてなりません。要するに、綿密に計画を立て、実行し、効果測定を行ない、修正するといったプロセスが常勝チームを生み出す唯一の方法です。顧客生涯価値というスコアボードの数値を常に期待に沿うものにするためには、対象となる顧客(ビジネスにとって唯一のプロフィットの源泉!)を1回ごとの場当たり的な視点で見るだけでなく、継続的な視点で見続けることが重要です。
CRMを再考する
財務的な観点から言えば、ある施策の効果を単純に測ることは、損益計算書(P/L)の観点で見ることです。しかし、ビジネスを行っていくということは、自社の資産を効果的に使って利益を生み出すことです。1回の施策により単に1回分の効果を生み出すだけでなく、資産としてのノウハウ(やり方に関する知的資産)、ノウフー(顧客資産)を蓄積することも重要です。そもそも、顧客生涯価値という言葉が取り沙汰されている背景にある考え方が、顧客を自社の資産として見るという考え方によるものです。企業がCRMを導入しようとする背景にあるのも同じ考え方です。そして、多くの企業がCRMを導入しながら、期待した効果を出せずにいるのも、顧客は1回ごとの売上・利益の源泉であると同時に長期的に利益を生み出す源泉としての資産であるという根本的な考え方を取り違えていることが原因と言えるでしょう。
成功するCRMのために
CRMを単なる顧客リストや顧客の購買状況を把握するための管理ツールと考えている限りは、期待する効果が出ないのは当然です。CRMは、顧客のリピート率を増やすツールでも、顧客への販売機会損失を減らすためのツールでもないからです。むしろ、CRMには、Customer Relationship Managementという名のとおり、顧客との関係をマネジメントするためのありとあらゆるビジネス活動が含まれます。顧客が資産であるという根本の考え方に基づくなら、顧客との関係は単にそれを維持するだけでなく、顧客の期待を知り、それを超えながら、顧客とともに成長していく関係を目指すのが理想です。
企業が顧客を自社の資産として位置づけ、顧客との共創関係をつくるためにCRMの重要性を理解したとき、そのための活動はビジネスすべてに及びます。例えば、パッケージング、製品開発、流通、顧客ケアなど、すべては顧客との関係を良好にするため、マネジメントされなくてはなりません。
もちろん、これまでどおり、WebサイトもCRMのための重要なツールとして活用できるでしょう。しかし、その活用の仕方のコンセプトはこれまでとは大きく異なります。場当たり的な視点での計画〜実行〜成果の評価ではなく、長期的な戦略に基づく計画〜実行〜効果測定〜調整の継続的改善のプロセスを組み立てていかなくてはなりません。また、ブランド構築の観点からは、Webサイトでの施策は他の施策と連動している必要もあるでしょう。
私たちは、顧客資産という長期的な視点に立ったCRM活動のための、Webサイトのプランニングをお手伝いします。
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