CRMとWeb活用の関係
取締役副社長兼COO 小野 裕之「CRM(カスタマー・リレーションシップ・マネージメント)」に関するニュースを最近あまり見かけなくなりました。数年前私はどっぷりとCRM業界に漬かっており、"CRMとは何か"といった啓蒙から始めなければならないケースが多かったものですが、すっかりCRMそのものの概念は定着した感があります。つい数年前までの熱狂的なブームだった時代が懐かしくも感じられます。さてCRMブームは一段落しましたが、導入効果はどうだったでしょうか?残念ながらあまり成功事例が聞こえてこないのも事実かと思います。今回は改めてこのCRMという視点からWebの活用について触れてみたいと思います。
CRMがうまく導入できない理由
何故CRMは企業になかなかうまく導入されていかないのでしょうか?理由を挙げればいくつも気がつくことはありますが、とくに私は以下3点に注目しております。
- 鮮度の高い顧客情報を捉えることができない
- 導入する際の成功基準が明確でない
- 「知る」「伝える」のコミュニケーションのバランス欠如
本来CRMとは、部門間での顧客情報一元管理に基づいて顧客満足度を高める商品・サービスの提供を行い、顧客との継続的な取引関係を維持拡大していく活動のことを指しており、その目的は一顧客あたりの生涯の取引シェア拡大にあります。
またCRMを「企業が顧客のことをよく理解した上で、その顧客に最も適した商品・サービスを提供し続ける活動」とみると、既存顧客に対するワン・トゥ・ワンマーケティングと同義語と捉えることもできますが、この顧客情報をしくみで正しく捉える(顧客の囲い込みを行う)という前提に問題があると思います。常に変化する顧客情報を完全に把握することは簡単ではありません。顧客の最先端にいる現場スタッフが一番鮮度の高い情報を持っているはずですが、この生の情報をCRMにうまく生かさなければなりません。
CRM導入の際に効果基準が明確ではないケースも問題です。当時を振り返ると「他社が始めたから我社も導入する」というように目的がはっきりしないままCRMを導入してしまっていたケースが少なくありません。つまりCRMを導入すること自体が目的となってしまい、これらを実現するための道具でしかないはずのIT投資ばかりが注目されていました。最終的なCRMの導入効果についての明確な達成基準や目的が見失われてしまっては本末転倒です。
また商品・サービスの提供者である企業が一方的に顧客のことを知ろうとするCRM活動そのものの捉え方についても疑問を感じております。顧客を知ることがCRMの基本思想ですが、顧客自身も自分のことをよく理解していない可能性も高く、商品・サービス提供者である企業の情報をうまく活用することで自らのニーズを改めて知るといったケースも多いのではないでしょうか?つまりCRMを成功させるためには、企業側が顧客を知る活動と自らを知ってもらう活動とをバランスよく実施することが重要だと認識しております。
Webサイトの活用
ではWebサイトを活用した場合、企業がCRMを具体的に実現できるのかについて考察してみたいと思います。たしかにWebサイトは顧客コンタクトポイントの一つにしか過ぎません。しかし投資対効果が定量的に測れる点、リアルタイムに顧客情報を把握できる点、双方向のコミュニケーションが可能な点から前述したCRMの課題を克服できる可能性を持っております。
とくに3つ目の顧客とどのようにコミュニケーションを行うべきなのかについて言及したいと思います。まずCRMやワン・トゥ・ワンマーケティングと対峙するのが言うまでもなく従来型のマスマーケティングですが、この手法は企業側が商品・サービスに関する情報をコントロールすることによって成り立っておりました。しかしながら昨今の消費者はインターネットの普及により購買しようとしている商品・サービスの情報をWebサイトから簡単に入手できます。商品・サービスの提供者である企業情報のみならず、比較サイトや個人サイト等から第三者的な評価情報さえも入手することが可能となっております。これでは商品・サービス提供者が自社に都合のいい情報だけを発信しても顧客は信用してくれません。
このようにCRMを実現するためには、従来型のマーケティングとは異なる方法で、もっと企業が顧客に対してオープンに情報提供(開示)を行い、顧客からの信頼を得る必要があると思います。ではどのような情報を発信していけば顧客の信頼を獲得でき、継続的な関係性を築くことができるのでしょうか?これまでの弊社の経験から以下の2点が重要ではないかと認識しております。
- 顧客のあいまいな課題を解決できる情報
- 企業の活動状況や姿勢が過去から未来にわたって理解できる情報
顧客ニーズがあいまいな場合は、いきなり商品・サービスの情報には飛びつきません。
顧客はもっと手前にある課題を解決してくれる可能性のある情報を望むはずです。これまではその役割はメディアや情報提供機関などが担当してきました。インターネットが普及した今でももちろんメディアはその役割を担っていくと思いますが、企業も自社Webサイト上で同様の試みはできるはずです。顧客にとって課題を解決してくれる良質な情報をWebサイト上で提供することで必然的に顧客はそのWebサイトに集まってきます。そのWebサイトの所有者が企業なのかどうなのかについては、多くの顧客は気にしていないでしょう。その先にその企業の商品・サービスがあっても、それをごく自然に受け取る可能性が高くなるはずです。
また顧客が商品・サービスに興味を持った場合、その企業自体への興味も必ずあるわけですが、顧客からの信頼を得るためにはその瞬間の情報だけではなく、過去から未来までの企業活動実績や企業姿勢等の情報を隠さず発信していく必要があると認識しております。顧客から見える企業はその時点の状態だけではありません。企業が顧客の過去の購買履歴を捉えて未来のニーズを予測するのと同じように、顧客もその企業の過去の実績を調べ、将来の方向性を知りたがるのではないでしょうか?
男女の恋愛とよく似ています。知り合えばお互い過去を知りたがり、将来の考えを共有したくなるものです。
ただWebサイトは企業にとっては諸刃の剣になり得るものだと思います。うまくWebサイトを活用していくことで、今まで以上の顧客との関係性を構築することも可能だといえるでしょう。是非皆さんもWebサイトを活用して今一度CRMを見直してみませんか?
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