ウェブコンテンツJIS(JIS X 8341-3)の意味するもの
プランニンググループ 岡田 恵子アクセシビリティとテクノロジー
以前私がある国際フォーラムに参加した時、テクノロジーを活用することでこれほどまでのアクセシビリティ配慮ができるものかと、驚いたことがあります。一般にある程度規模の大きなセミナーやフォーラムというと、身体に障害をお持ちのかたに対するアクセシビリティ配慮がありますが、その配慮の有無や程度も、あくまでも主催者側の配慮する気持ちと、参加者からの要望によるところが強いのではないでしょうか。そんな中、テクノロジーを正しく利用することで、「情報提供」のありかたはこうまで改善する、ということを再認識させられたのを覚えています。
規模がそれなりに大きな国際フォーラムだったので、身体障害者に対する配慮や、同時通訳が手配されていたことは、あえて特記すべきことでもないかもしれません。しかし、聴覚障害者を考慮した手話通訳の手配に加え、会場での発言者の言葉がほぼ同時に、しかもほとんど間違いなく巨大なスクリーン上に二ヶ国語のテキストで表示されるという対応には、利用できるテクノロジーを上手く活用してサービスを提供している様子がうかがえました。
私自身がこのような技術をそれまで知らなかったということもありますが、主催者側の細かな配慮には、アクセシビリティという言葉を超えた思いやりの中に、「情報提供とは、こうあるべき」、という主張が感じられたのを覚えています。つまり、「情報へのアクセス手段は人によって異なる」ということを理解し、利用できるテクノロジーを最大限に活用することで、ひとつの情報を、視覚情報と聴覚情報というふたつの異なるかたちで、しかも時間のずれをまったく感じさせないスムースな方法で提供することが可能であるということ、これが本来の情報提供のかたちなのではないでしょうか。
これは、私たちが日常的に生活する、物理的社会での例ですが、違った手段で情報を発信するウェブサイトにおいても、その情報提供のありかたについて、共通して言えることがあるのではないでしょうか。
ウェブサイトというと視覚情報が中心ですが、最近ではサウンドコンテンツも充実してきているため、聴覚による情報提供も可能です。それでも、視覚情報と聴覚情報がそれぞれ独立した別の情報として提供されることがほとんどで、残念なことに、視覚情報と聴覚情報の内容に共通点が見られることはまれです。
ウェブコンテンツJISの重要性
最近になって、「人によって情報へのアクセス手段が異なる」ということが少しずつ認識されるようになっているようです。そして、日本で初めてウェブアクセシビリティに関する規定を定めたJIS規格が今年6月に公示され、その主な適用範囲である「公共分野」および「社会的役割の大きい企業サイト」を中心として、インターネットにおける情報提供のありかたを再認識する必要性が出てきています。
実際にウェブアクセシビリティ配慮が必要なサイトというのは、情報提供者がいて、アクセスするユーザーがいる限り、実質インターネット上に存在するすべてのサイトでなければならないわけですが、公共サイトや大企業のサイトが特に注目されているのには理由があります。
サイトがアクセシブルでないことによってユーザーが受けるバリア、つまり情報にアクセスできないという問題は、ユーザー数とユーザー層の規模に比例するようなかたちで増加していくのです。従って、ユーザー数とユーザー層の多様化が顕著に見られる、公共サイトやアクセスの多い企業サイトでは、アクセシビリティへの配慮は避けることのできない課題となってきているのです。
一般的に、欧米と比較して日本国内でのアクセシビリティに関する取り組みは遅れていると言われていますが、ウェブアクセシビリティに関する規定が国内で初めてJIS化されたことを受け、今後はサイト提供者間における意識の高まりが予測されます。もちろん、ウェブ制作時にアクセシビリティに配慮することが義務付けられている諸外国とは異なり、ウェブコンテンツJISには法的強制力はありません。しかし、ウェブアクセシビリティを理解し取り組もうとする際には、第一歩を踏み出す上で重要な役割を担っていると言ってよいでしょう。
情報社会におけるウェブコンテンツJISの影響
物理的な世界と同様、ウェブ上においても視覚情報と聴覚情報を提供することが可能です。問題は、これらをいかに的確にユーザーに伝えていけるか、ということではないでしょうか。超高齢化を迎える情報先進国の日本において、ウェブアクセシビリティは今後避けることのできない大きな課題です。そしてこのウェブコンテンツJISが与える影響とその役割は大きいと思います。
ただ、ここで注意しなければならないのが、アクセシビリティの本質を忘れてはいけないということです。「JIS化されたから」ではなく、ウェブアクセシビリティの意味、そして情報社会そのもののありかたを見つめ直す必要があるのです。弊社では、情報提供の場としてのウェブが、より多くの人にとってアクセスしやすくなるように、より正しいかたちで情報を提供できるようにお手伝いする、という理解のもとで、アクセシビリティにおけるコンサルティングから構築サービスまで、ご提供しています。
ウェブコンテンツJISは、日本で唯一のアクセシビリティ指針であり、初めての試みでもありますが、ウェブアクセシビリティを理解する「はじめの一歩」を踏み出す絶好の機会であり、ここで足並みが揃っていくことを期待したいと思います。そして、ひとりでも多くの情報提供者が、変わりつつある情報社会について考える機会があれば、アクセシブルなサイトも少しずつ増えてくるのではないでしょうか。
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