Web標準に取り組み続けた3年間
Web開発チーム フロントエンド・エンジニア 木達一仁私事で恐縮ですが、この2月でミツエーリンクスに入社して4年目に入りました。今や社内でも知る人は皆無でしょうが、入社当初、私の名刺に記された肩書は「インフォメーション・アーキテクト」。Webを介した情報伝達や、コミュニケーションにおける効果と効率を追求していくために自ら選んだ肩書であり、それに特化した内容の業務に取り組む予定……でしたが、入社間もなく自社サイトの運用に携わるようになり、その流れで今となっては業界のトレンドとして定着し始めたWeb標準準拠(文書構造とその表示を、マークアップ言語とスタイルシートを適切に用いコンテンツを実装すること、の意)というテーマに注力するようになりました。
現在の肩書は、本コラム冒頭にもありますように「フロントエンド・エンジニア」で、主にマークアップ言語、スタイルシート、スクリプト言語やその周辺技術を用いた設計工程に従事しています。「三日三月三年」という言葉がありますが、3年の歳月を経たいま、弊社におけるWeb標準への主要な取り組みを総括し、また今後に向けての抱負などを書かせていただこうと思います。
自社サイトのWeb標準準拠
弊社の提供するサービスや製品に用いられる技術の多くは、自社のサイト上における検証を通じその実効性を確認したうえで提供されます。Web標準準拠についても例外ではなく、まずは自社サイトでその有効性を検証することになりました。ファイル数にして約1,300あったHTML文書を対象に3カ月という時間をかけ、ビジュアルデザインはそのままにWeb標準準拠を実施、2004年4月30日に公開に至りました。
当時はまだ知識、経験ともに乏しく、今あらためてマークアップやスタイルシートを見直すと至らぬ点が多く残ったままで、個人的にはお恥ずかしい限りです。それらは次期リデザインの折に一掃すべく計画中でありますが、しかし自社サイトの再構築を通じて得られた経験は、その後の顧客企業様向けの設計業務や、社内ワークフローの見直しにとって貴重な財産となりましたし、何より社内に対し具体的にWeb標準準拠の成果を周知する良い機会となりました。
Web標準準拠サービスの提供
上述のとおり、2004年4月にWeb標準に準拠したかたちで自社サイトを公開したわけですけれども、同じ日にWeb標準準拠サービスをリリースしています。サービス化について、当時私は異を唱えていました。といいますのも、Web標準準拠を当たり前のこととして、特別サービス化などせずに取り組んでいる同業他社様を存じておりましたし、文法的に妥当な品質の文書を制作するということは、サイト構築を請け負うプロとしてごく当たり前のこと、という認識があったからです(その認識は今も変わりません)。
しかし、当時まだテーブル要素をレイアウトに用いた制作手法が主流を占めていた状況を踏まえ、何らかのかたちでWeb標準準拠の価値を社内外に打ち出す必要があるとの経営判断に従い、サービス化に踏み切りました。ニュースサイトなどに取り上げられた結果、賛否両論のご意見を頂き、たとえばスラッシュドットで取り上げられた「あなたのWebサイトをW3C準拠に」という記事におきましても、さまざまなコメントが寄せられました。振り返りますと、その後、同様のサービスなりポリシーを掲げるWeb制作会社が登場するなど、(市場の内外を問わず)Web標準という言葉の流行や、スタイルシートを積極的にデザイン制御に用いるというトレンドを生み出すひとつの契機になったという意味では、サービス化は決して悪い判断ではなかった、と思います。
W3C会員活動
自社サイトのWeb標準準拠や、Web標準準拠サービスの提供開始と前後して、W3Cに参加しました。W3CはWeb標準と呼ばれる技術仕様の多くを開発、勧告している国際産業コンソーシアムです。会員資格に期待される最大の恩恵は、その標準策定プロセスにダイレクトに参加したり、またその将来動向をリアルタイムに把握できることですが、残念ながら弊社はその恩恵を十分に受けてきたとはいえません。
一時期は、アクセシビリティのガイドラインを開発するWeb Accessibility InitiativeのWeb Content Accessibility Guidelinesワーキンググループに参加していたものの、時差や他の案件業務との兼ね合いから電話会議には一度も参加することができず、メールのフォローもままならないまま、結局脱会した経緯があります。
しかし年に2度開催される代表者会議(Advisory Committee Meeting)には極力出席をし、Webサイト構築企業の視点から意見を述べてきたほか、一会員として、その世界規模の標準化活動を支持してきました。来年度以降もW3C会員として活動していく方針でありますが、当面は引き続き情報収集とその社内共有、サービスや製品へ反映、関係者との交流にフォーカスしつつ、再度ワーキンググループへの積極参加を目指して再スタートを切りたい、と思っています。
書籍監修/雑誌記事執筆
Web標準という考え方、あるいはそれを実践するうえで必要とされるノウハウを普及させる一環として選んだ一手段が、書籍の刊行です。とりわけ英語圏ではWeb標準に関連して優れた書籍が執筆され好評を博していたため、それらの日本語版を刊行する(英語圏で受け入れられている発想を「輸入」する)ことには一定の価値があると考えました。
翻訳や編集といった工程はそれぞれ専門家の皆様にお願いし、自分は実務経験者の立場から技術的な視点で訳文の監修のみを行うという分業スタイルは、サイト構築業務と並行して携わるうえで理に適っていました。少なくとも、ゼロからオリジナルの書籍を書き起こすよりは、スピーディな情報提供ができたのではないかと思います。
結果、海外書籍の日本語版としてこれまでに以下の5冊に監修として参加、いずれも毎日コミュニケーションズ様より発売されています。ちなみに調査研究の一環で参加してきた、海外で催されるさまざまなセミナーやカンファレンスを通じ、いずれの書籍の原著者とも(メールだけではなしに)直に顔を合わせて話す機会にも恵まれました。
- 『Designing with Web Standards〜XHTML+CSSを中心とした「Web標準」によるデザインの実践』
- 『Web標準デザインテクニック即戦ワークブック〜XHTML+CSSを正しく賢く書くための15問』
- 『スタイルシート スキルアップ・デザインブック Ⅰ』
- 『スタイルシート スキルアップ・デザインブック Ⅱ』
- 『CSS Zen Garden Book』
また、同じ紙媒体として書籍のほかに雑誌記事も何件か書かせていただきました。自分が書き起こしたものもあれば、インタビューを受けるかたちで記事を書いていただいたケースもあります。『Web Designing』、『web creators』、『Web STRATEGY』、『日経ソリューションビジネス』、『Director's MAGAZINE』の各誌にてご掲載いただきました。
Web標準Blog
2005年2月には、Web標準Blogをスタートしました。その目的は、Blogならではの媒体特性を生かし、Webサイト管理者やWebデザイナーの方向けに、Web標準を利用するための手法やノウハウ、参考になるリソース等を紹介するというもの。他の業務と並行してBlogを定期的に書き続けるというのは難しく、更新は不定期になりがちですが、私がWeb標準の普及啓発を草の根的に推進するWeb Standards Project(WaSP)の一員となった以降は、主にWaSPのサイトに掲載される話題(WaSP Buzz)を一部翻訳のうえ掲載しています。
Web標準に関する情報は英語圏で比較的活発に流通しています。これには、インターネットが誕生してから現在に至るまでの歴史的な経緯であるとか、インターネット人口の分布、あるいはW3Cにおける公用語が英語であり、その勧告する仕様書も英語で書かれていることの影響があるかもしれませんが、Web標準というテーマを扱う一種のコミュニティのようなものが形成されています。
海外書籍の紹介にも通ずる側面がありますが、英語圏のWeb標準コミュニティやその界隈で今何が取りざたされ、議論されているのかをタイムリーに知ることは、価値があると考えています。翻訳ツールや翻訳サービスも進化してきてはいるものの、Web標準Blogは今やWaSP Buzzを「日本語で」読むことのできる数少ない場として機能していると思います。
講演活動
顧客企業様向けに弊社セミナールームで行うWeb標準セミナーは、2004年10月から2005年10月までのあいだに計8回を実施し、Web標準とは何か、そのビジネスメリットとは何か、またWeb標準準拠サービスの概要についてお話ししてきました。ほかにもInternet Explorer7の登場にあわせ、それに特化した「IE7とWeb標準準拠」解説セミナーも、2006年10〜11月に計2回実施しており、多くの皆様にご来場いただきました。
また社外におきましても、以下のイベントにお招きいただき講演させていただいたほか、社内に専門のチームを持ちサイトの運営をされている顧客企業様に出向かせていただき、Web標準の概要をお話しさせていただく機会も頂くようになりました。いずれも、大変ありがたいことです。
- CSS Nite Vol.3(2005年12月)
- WAOクリエイティブカレッジ Web最新事情セミナー「Web標準のススメ」(2006年3月)
- Web Designing Live Seminar/ Web標準(2006年5月)
- The Day of Web Standards[Web標準の日](2006年7月)
- W3C10 Asia(2006年11月)
- SOFTEXPO & DCF 2006(2006年11月)
Meet the Professionals
ミツエーリンクスVideocastingとWeb標準Blogのコラボレーション企画として、Meet the Professionalsという一連のインタビューシリーズを制作、公開してきました。その企画でも書籍監修やWeb標準Blog同様に英語圏に目を向け、海外で活躍されている方々を対象としてWeb標準、あるいはWeb全般についてお話を伺っています。本日時点では以下のコンテンツをご覧になれます。
- Meet the Professionals 〜 Molly E. Holzschlag(前半)
- Meet the Professionals 〜 Molly E. Holzschlag(後半)
- Meet the Professionals 〜 John Allsopp(前半)
- Meet the Professionals 〜 John Allsopp(後半)
- Meet the Professionals 〜 Andy Clarke(前半)
今後の取り組みに向けて
以上、大雑把ではありますが、これまでのWeb標準に対する3年間の取り組みを振り返ってみました。今後についてですが、書籍監修や雑誌記事執筆、Web標準Blog、講演活動、Meet the Professionalsといった一連の活動は継続し、引き続きWeb標準に関する普及啓発活動を展開していくほか、W3C会員活動を通じてその策定プロセスにもより深くかかわっていくことができればと考えています(コラム「再び注目を集めるHTML」もご参照ください)。
目下最大の課題は社内教育です。従業員数はこの3年のあいだに大幅に増え、それに伴い設計や実装工程に携わる人数も増えています。そうしたなかで、個々人のスキルやナレッジレベルの底上げが急務であることはもちろんのこと、フロントエンド実装の要である設計工程で安定した品質を維持・提供する仕組み作りやワークフロー改善、それらを実現するための社内教育が求められています。
代表の高橋が新年のご挨拶のなかで言及しておりますように、弊社が新規に構築するサイトすべてについて、一年以内にWeb標準に準拠した実装を基本
とする予定であり、そのために必要とされる各種施策を逐次実行していかなければなりません。現時点ではまだ道半ばにも及ばない状況ではありますが、サイトごと、コンテンツごとの「あるべき姿」を思い描きながら、その構築のための道具としてWeb標準を最大限に活用し、過去に蓄積してきた経験を生かした設計を行い、Web標準準拠のビジネスメリットを顧客企業の皆様ならびにサイトをご利用になるユーザーの皆様にご提供できればと思います。
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