メディアの変遷とミーム
ミツエーインフォメーションネットワークテクノロジー 上級執行役員兼エグゼクティブプロデューサー 藤田 拓(合同会社メディアジャム 業務執行責任者)
最初のコラムとmediajam
3年前、私はこのコーナーではじめてのコラム、「新たなミームプール、Blogosphere」を書きました。このコラムをみると、それまで文章を書くということがほとんどなかったため、非常に苦労したことをまず思い出します。大学で興味をそそられた適応行動論の講義内容をヒントに、当時まだまだ日本では出始めだったBlogを題材にしつつミームでまとめたというのが実際のところです。その後の私の弊社内における活動は様々なものでしたが、不思議なものでキーワードとしてはこのコラムの内容が業務のどこかしこで見え隠れしていました。
来る2007年6月4日、弊社と神奈川新聞社様との合同会社メディアジャムによる『mediajam』がオープンいたします。当初より私も携わらせていただいておりますが、プロジェクト進行の最中、このミームを扱ったコラムの内容を想起させられることが多々ありました。それは今回のプロジェクトがメディアと広くかかわっているということがあるかと思います。ミームも何がしかの媒体(メディア)がないと拡がることはできません。今回は自分にとって重要なキーワードとなっているミームを、過去のメディアを見ながら考察していきたいと思います。
メディアの変遷
ノンバーバル
言葉がない時代、人々は動作・振る舞い、装い、表情、鳴き声・咆哮によって情報・文化を伝えていたことでしょう。声を含めた一連の動作が覚えやすく、印象に残るものが良質のミームとして伝達されたと思われます。つまり人の記憶がメディアであり、人に伝わるにつれ徐々に別の情報に変容していくという欠損が生じることが多かったと思われます。
口承
言語(または言語らしきもの)が登場してからは口伝えの口承が情報伝達の手段になりました。このことによりノンバーバルの時代よりも更に正確な情報の複製が可能ですが、依然、人の記憶がメディアであるため伝達速度、正確性は限られており、また当時の行動範囲から考えると狭いエリアでの拡がりにとどまったことでしょう。
文字
文字はまず絵から始まっていたと思われます。しかし、絵は情報伝達の経済性が悪いため、よりシンプルな文字へと結実していき、意味をそのままモデル化した表意文字、そして更に柔軟性の点から表語文字や表音文字が生まれます。文字の誕生により、聴覚と視覚の両方を利用して情報を伝達することで、記憶の定着度・正確度はアップします。また、ある水準以上で識字可能な人が同内容の文章を把握する場合は、明らかに口承で聴くより文字を読む方が早いでしょう。更に文章を岩板に1度書くだけで多数の人が時間に縛られず情報を取得できます。これらのことにより伝達の効率はより向上します。余談ですが、その当時、文字は記憶力を低下させるため望ましくないと思われたこともあったそうです。このことは今のIT時代の始まりに似ていると感じます。
紙、印刷
紙が誕生したことで、文字は携帯性を高めることになります。このことによりそれまで以上に情報の伝達範囲を拡大させることができる環境が整いました。そして更なる拡大をひきおこしたデバイスが印刷です。印刷された出版物というメディアは情報の読みやすさを与え、かつ同内容の書籍、ペーパーを無数に複製して出版可能にしたという大きな革命をもたらしました。印刷の普及で、多くの人が複製された書から情報を得ることができるようになり、世界の技術、知識、事実の把握・伝達についてのパフォーマンスを劇的に向上させたことはいうまでもありません。
レコード、ラジオ、そして映画、テレビ
19世紀頃まで、音声にまつわるアート・エンターテインメントは会場という場所に縛られていました。しかし、この分野においてもレコード、そしてラジオが登場することによりその制約から解放されました。その波は映画、テレビの出現で舞台芸術・エンターテインメントのような視覚的世界へと進みます。「特定の場所」でしか味わえないと思われた最上の時間が複製され、多くの人の「適当な場所」に届くようになりました。更にビートルズやグレン・グールドのようにライブ演奏からは撤退してしまい、メディアでしか演奏をしないというアーティストもでてきました。
Web
今まで挙げてきた印刷以降のメディアにおいては、発行システムを作るのに莫大な費用がかかるため、その仕組みを利用して情報を発信できるのは限られた人でした。つまり、情報の受け手はかなりフラットになったかもしれませんが、発信という点からいうとまだまだ格差が生じているといえます。また、これらのメディアから情報発信を行っている人たちにとっても、高コストで大規模なデバイスやシステムを使っているため、手軽に情報コンテンツを発信することはできなかったといえるでしょう。
しかし、20世紀末に登場したWebはこの制約を取り除きつつあります。BlogやCMSを利用して誰でも手軽に情報を発信することが可能になり、YouTubeを利用して誰でも動画を公開できるようになりました。そのため、今まで迅速に情報発信ができなかった企業もWebを利用して頻繁な速報が可能になりました。
更にWebはハイパーリンクによって柔軟にポインタを張ることができるため、欲しい情報へたどり着くことが容易です。この仕組みをパワーアップするのが、検索エンジンであり、ポータルであり、ソーシャルブックマークであり、個人のBlogという被リンクを増やす様々な他サイトの存在、そしてサイト内検索やタグ、そしてRSSというサイト内の仕組みです。
ユーザーフレンドリー、マシンフレンドリー
ざっとメディアの変遷について書いてきましたが、こうみてくると時を経るごとに、よりミームフレンドリーなメディアシステムが登場していると感じます。たとえば、ノンバーバル、口承では身近なコミュニティのみでしか伝わってなかったであろう情報が、文字の登場により情報把握を向上させ、より欠損の少ない状態で複製されることになったでしょう。更に良質の印刷技術の台頭は先ほども触れたように、世界を一変させるほどの影響がありました。
また、文字以降では目次、索引、章立て、見出し等の情報設計も加わり、よりファインダビリティのあるメディアとなることにより、人々へのミームの浸透を手助けしたと考えられます。このように変遷を追っていくとよりミームフレンドリーのメディアはよりユーザーフレンドリーになる構造を持つようになっていったと考えられます。
更にミームとしてのコンテンツはメディアのデバイスにフレンドリーなものほど拡がりを増すと考えられます。つまり、メディアの変遷はデバイスの変遷でもあり、そのデバイスに入力しやすく処理しやすいコンテンツをビークル(乗り物)とするミーム、つまりマシンフレンドリーなミームほど世間の淘汰に残っていったといえるわけです。
Semantic Web≧0.2としてのmediajam
Webの創始者、Tim Berners-Lee氏の著書『Webの創成』では彼の夢が語られています。その内容の一つは「Webが人々の共同作業のために、より強力なツールになること」、そしてもう一つが「その共同作業がコンピュータ同士にまで及ぶこと」とあります。この統合、実現がSemantic Webというキーワードにつながってきます。
いまや流行語のWeb2.0という言葉ですが、Semantic Webを到達点として考えれば現在はむしろWeb0.2ではないかと思ってしまいます。その実現はSemantic Web標準なサイトのネットワーク外部性の効果が高まらないとできないことはたしかでしょう。しかし、mediajamで格納しているコンテンツはSemanticにいくらか加工できると考えています。
人とマシンでデータが理想的に共同作業できる世界、それはコンテンツがユーザーフレンドリーであり、マシンフレンドリーな世界です。そこへ近づくことはミームがより喜ぶ状況をもたらすでしょう。mediajamはそんな世界を1.0としたWeb≧0.2になるべく挑戦していきたいと思っています。
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