大型化するWeb構築プロジェクト、失敗は誰のせい?
取締役 兼 CSR推進室室長 山下 徹治成果物は増えても納期は延びないWeb業界
Web構築のプロジェクトは、お客様から引き合いをいただいてから納品、公開するまでの期間がたいてい3カ月から6カ月です。最近は、「段取り八分」という言葉に示されるように、企画・設計を綿密に行なうために設計期間を長めに設定するケースが増えてきていますが、それでも実装期間は長くても3カ月程度です。企業のWebサイトのミッションやプロジェクトの範囲は、以前と比べものにならないほど広く深くなっている割には、納品までの期間はそれほど長くなっていない、というのが実情です。しかし、技術的なトレンドのライフサイクルを考えると、今後もおそらく実装期間に大きな変化はないでしょう。
大型Web構築プロジェクトが抱える構造的な問題点
プロジェクトが大型化すると、携わる人間はどうしても増えます。これはお客様の体制も同様です。結果、コミュニケーションのルートは膨大になり、その中心に立つディレクターの負荷は非常に大きくなります。また、プロジェクトの仕様も、プロジェクトを進めながら煮詰めていくことが一般的ですから、仕様を確定させ、ドキュメントを最新に保つのも大変な作業です。このような環境の下、ディレクターやプロジェクトメンバーの才能と努力と根性でプロジェクトが成功する事例はもちろんたくさんありますが、力及ばず失敗することもあります。あるいはお客様に迷惑を掛けずに納品できても、内部的には疲弊しきってしまうという失敗もあるでしょう。では、プロジェクトが失敗したからといって、それを誰か個人の責任として片付けてしまってよいのでしょうか。私たちは、そうした属人的な考えを否定しました。この問題を解決するために個々のスキルアップを図っていくのは当然ですが、個々のスキルのみにフォーカスするのではなく、Web構築プロジェクトが抱える構造的な問題として、組織的な取り組みを行なっていかなければならないのではないか、と私たちは考えたのです。
個々のプロジェクトマネジメント能力の向上
個々のプロジェクト管理能力を鍛えるという方法には、例えばPMBOKというプロジェクトマネジメントのための知識領域をWeb構築プロジェクトに応用するというのも良い方法です。PMBOKを勉強し、プロジェクトとはどのような進め方、あるいは決めごとが必要かを知っているだけでも個々のスキルアップは速まるはずです。実案件を通じて数年後にはハイレベルなプロジェクト管理の手法が身に付いてきます。
しかし、熟練には数年の期間が必要ですから、プロジェクト数に対して熟練したディレクターが足りなくなる事態は容易に想定できます。また、熟練ディレクターがいつ退職するかもしれません。個々のスキルに依存していては、組織はこういうリスクから解放されず、組織の成長は不確実なものとなってしまいます。
組織としてのプロジェクト管理能力の向上
私たちは、組織として確実にプロジェクト管理の技術を育てていくためには、プロジェクトを支援する特別のチームが必要だと考えました。このチームのミッションは、「プロジェクトがうまくいくように支援する」「プロジェクト管理のノウハウを標準化し継続的に改善する」の2点です。
プロジェクトがうまくいくように支援する例を挙げます。私たちの経験上、プロジェクトが破綻するきっかけは、社内外で起こる認識の不一致である場合がほとんどです。このチームでは、認識の不一致が起こらないようにコミュニケーションのルールや場を設ける、また、そのルールや場がきちんと守られているかをチェックする、というようなことを通じてプロジェクトを支援します。
また、重要なコミュニケーションの場にはチームメンバーも参加し、プロジェクトの進捗を見守ります。もちろん問題だと思えば指摘もします。こうした支援活動を、プロジェクト期間を通じて行なっていきます。
そして、これらの支援活動を通じて得られた膨大な教訓は会社の資産です。これらの資産を管理し、標準化し、PDCAサイクルで継続的改善を行なうのが、もう一つのこのチームのミッションです。
このチームは、今までISO9001の運用を担ってきた部門が担当します。彼らはプロセスマネジメントの専門家ですから、PDCAサイクルの作り方や運用ノウハウ、ドキュメンテーションの技術はすでに持っています。またWeb構築プロジェクトの既存プロセスはわかっているので、この役割にはもってこいです。すでに2つのプロジェクトが走り始めていますが、早くもさまざまな教訓が蓄積されてきています。
しばらくすると標準ツールができあがると思います。このツールは社内には効率化をもたらし、お客様にはバラツキのないプロジェクト品質をもたらすものです。ぜひご期待ください。
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