「映像」≠「動画」
映像/音声本部 シニアプロデューサー 水ノ江 知丈「動画」への抵抗
私はミツエーリンクスに入社するまで、「動画」という言葉を使ったことも意識したこともありませんでした。もともと私は本編(劇場用映画)出身ということもありますが、本編やテレビ畑で働いている人のほとんどは「動画」という言葉を口にすることはないはずです(実際聞いたこともありません)。
一般的に「動画」は、Web上における映像のことを指していますが、Webはテキストや静止画が中心であることから「動画」という呼称が派生したと思われます。Web上における動画はいまや百花繚乱で、特にYouTubeの登場以降、アマチュア投稿によるCGM(Consumer Generated Media)のものから映画やテレビドラマの配信まで、Webに掲載されているものはすべて「動画」という言葉に集約されています。その言葉にはどこか、質の低さだったり、著作権を無視した違法なものという匂いが漂ってしまうのは否めません(実際、そういったものがWeb上には溢れているのですが)。内容やクオリティにかかわらず、すべてがその一言で括られてしまっている現状に抵抗感を覚えてしまうのは、きっと私だけではないと思います。
映像ビジネスにおいて注視していること
ここで話は一転しますが、インフラ、ハード、ソフト、そして社会環境や私たちの生活環境は目まぐるしく変化をし続けています。なかでもWebは永遠のβ版であり、だからこそリスクはあるけれどもあらゆる可能性を秘めています。現在、私が映像制作ビジネスにおいて注視しているのが、デジタルサイネージと映像配信ビジネスです。
デジタルサイネージにおいては、映像をのせることのできるプラットフォームがどんどんと拡充され、市場規模は昨年は650億、2015年には1兆円に拡大されると言われています(※富士キメラ総研の調査による)。これまで映像のメディア広告と言えばテレビCMが主であり、ナショナルクライアントしか出稿できなかったものが、デジタルサイネージによりローカルクライアントにもチャンスが生まれています。つまり、広告やブランディング、セールスプロモーションなどの映像ニーズが高まることは容易に想像できます。
そうなるとコンテンツやソフトの不足が課題となりますが、それを補うものとして、アマチュア制作による「動画」ではなく、クオリティの高い映像コンテンツの需要が生じてくる、と予測することができます。
映像配信ビジネスについてですが、現在、日本における動画配信ビジネスはとても成功しているとは言えません。コンテンツ調達のコストと、広告や課金による収入、その収益体制がうまく行っていないからです。その活路を各社が模索している中、今年春にヤフーがGyaOを買収し、先々月、無料映像配信サイト「GyaO! Presented by Yahoo! JAPAN」と、有料映像配信サイト「GyaO!ストア Presented by Yahoo! JAPAN」が開始されました。
果たして、これがどのような効果と価値をもたらすのか、今はまだ見えませんが、このニュースに関心を寄せたのには2つ理由があります。1つ目は、プレスリリースや記者発表での資料に「動画」という言葉は一切使われず、<映像配信>、<映像サイト>とすべて「映像」という言葉で謳われている点です。「映像」という言葉を意識的に使うことで、質の高いものを提供していこうとする姿勢を強く感じることができます。
2つ目は、フジテレビや日本テレビなどテレビ局との連携を強化した点で、昨年アメリカで急成長を遂げたHuluを想起させます。このHuluは、NBC、ABC、FOX、パラマウント、ディズニーなど100以上のコンテンツカンパニーとパートナーシップを結び、全ての配信映像が広告による収益を達成したと言われています。Huluの成功の理由として、ほとんどのオフィシャル映像コンテンツが無料(広告あり)かつフルサイズで視聴することができ、いちいちNBCのサイトに行ったり、パラマウントのサイトに行ったりする必要がなく、ユーザーにとっては非常に便利な点が挙げられます。
このビジネスモデルが日本でも通用するかというと、アメリカと日本のネット広告の規模やコストが違うことからもかなり厳しいと言わざるを得ませんが、それはそれで日本型のビジネスモデルを模索し、いつの日か日本型モデルが確立されることは、もしかするとそう遠い日のことではないのかもしれません。
映像制作者としての矜持
当社はご周知の通り、Webソリューション事業を軸としている会社です。その中の一部門として、映像/音声本部がありますが、私たち映像制作部門では、ある種独立した映像事業を展開し、企業VP・CM、テレビ、PV、サイネージ、イベント、Webなど、さまざまな映像コンテンツを制作しています。
冒頭から私は映像という言葉にこだわってきましたが、to Bコンテンツにおいても、to Cにおいても、映像制作者としての矜持を持って、「映像」の制作に全力で臨み、それは私の強い望みもあります。
そして、クライアントにも商品やサービス、自社に対して強い思いがあります。
お互いの望みを共有し、お互いの思いが共鳴することで、質の高い「映像」を生み出していく。
クライアントの思いに全力で応えていくこと。それが最大のミッションであり、私が「映像」という言葉にこだわる理由と言えます。
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