TPAC 2009参加報告
フロントエンド・エンジニア 矢倉 眞隆一昨年・昨年に引き続き、W3C主催のイベントTPAC(Technical Plenary/Advisory Committee Meetings Week)に参加してきました。
今年はシリコンバレー
今年のTPACは、米国カリフォルニア州のSanta Claraにて行なわれました。Santa ClaraはSan Joseに近い、シリコンバレーの中心都市になります。
そういった理由もあり、空港から会場までの移動中では、オラクルといった大企業や、brightkiteといったスタートアップなどさまざまなIT企業のロゴを目にしました。会場もIntel本社すぐ近くのホテルということで、なんともすごいところに来てしまったなあと思いました。
HTML5やソーシャルWebがとりあげられたTechnical Plenary
総会となるTech. Plenaryは、一週間ある会期中の真ん中、水曜日に行なわれます。時差ぼけがひどいままの出席になりましたが、何とか乗り越えることができました。
いくつかトピックがありましたが、面白かったのは「HTML5の非集中的な拡張性(Distributed Extensibility)」と、「ソーシャルWebの未来」と題されたセッションでした。
「非集中的な拡張性」とは、HTML5が持つさまざまな課題のうちのひとつで、XMLのように誰もが自由に言語を拡張できるようにするための仕組みになります。HTML5は今後のWebプラットフォームの中核として位置づけられる技術ですし、XMLのような拡張性をHTML構文にも持たせることが求められています。議論が収束した印象は受けませんでしたが、「非集中的」「拡張性」といったふたつの点から、幅広く問題点の共有が行なわれていたことは収穫でした。
ソーシャルWebのセッションでは、Facebookでオープンソースや標準にかかわっているDavid Recordonの招待講演が行なわれました。Facebookのオープン戦略についての説明や、彼がボードをつとめるOpen Web FoundationとW3C、IETFなど他の標準化団体を比較し、標準化の今後についても触れるなど、とても興味深い内容でした。
アンカンファレンス形式で行われたHTML WG F2F
木曜と金曜はHTML WGのFace-to-faceミーティングに参加しました。今年のF2Fは事前にアジェンダを用意せず、初日の朝に各自が議論したいトピックを持ち寄り、それらを複数のセッションで展開するというアンカンファレンス形式で行われました。
セッションのうち多かったのは、Distributed Extensibilityと同じく、HTML5の大きな課題となっているアクセシビリティに関するものです。現状を知りたいこともあり、WAI-ARIAとHTML5について、また<canvas>のアクセシビリティに関するセッションなどに重点的に参加しました。
アクセシビリティについては現状を共有する側面が大きく、あまり濃い議論が行なわれませんでしたが、ベンダーや設立されたばかりのHTML Accessibility Task Forceに意見を持ち込む動きもありました。HTML5とアクセシビリティについては、今後何らかの機会でとりあげたいと考えています。
他にも、Plenary Dayに引き続き拡張性の議論が行なわれたり、ECMAのTC-39と合同ミーティングを行なうなど、バラエティ豊かな内容になっていました。参加できないセッションがあったのは残念でしたが、このアンカンファレンス形式でミーティングをする試みはうまくいったように感じています。
「スーパーヒーローはいない」
今年のTPACはシリコンバレーという土地柄か、地元であるGoogleやAppleからの参加者が目立ちました。
しかし、それ以上に目にしたのがMicrosoftからの参加者です。事前にTPACに協力するとブログで表明していたこともあり「すごそうだ」と思ってはいましたが、予想以上の数に驚いてしまいました。他のベンダーとも技術的な話題を交わすなど積極的で、今後のInternet Explorerの進化が今まで以上に楽しみになりました。
さて、ある日のランチテーブルで、とても印象に残った一言がありました。Microsoftの方の発言だったと思いますが、「大変な作業だけれど、(代わりに仕様をつくってくれる)スーパーヒーローはいない。僕らみんなで標準をつくっていくしかないんだ。」というもの。
あらためて、標準とは困難を乗り越えて「つくるもの」なんだなあと思いしらされたできごとでした。
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