自己満足の読みやすさになっていませんか?
マーケティング本部 エディトリアルチーム 上原 佳彦異動で再確認した、「対顧客視点」の重要性
今回、約2年ぶりに当コラムの順番が回ってきました。振り返れば、この2年の間に私の職場環境も変わりました。これまで、私が所属する編集・ライティングの部署は、実際にWeb制作を行なう部門に所属していたのですが、約1年半前からはマーケティング本部の1部署として活動しています。当社のマーケティング本部は、市場動向を把握しながら、お客様の真のニーズに最適な効果を提供するための活動を行なっている部署。もともと私たちに編集・ライティングの依頼がある案件は、各種Web媒体に出稿する広告コンテンツや、リスティング広告から誘導するランディングページなど、広告視点が必要になることが多かったので、より一層の対顧客視点が求められる部署へ異動したことは、さらなる技術向上を進める上で重要な出来事でした。
しかし、マーケティング本部に異動した当初は、自分たちの対顧客視点の未熟さが浮き彫りになることがしばしばありました。お客様の真のニーズを掘り起こし、「売れる仕組み」としてのWebサイトを提案し続けてきた精鋭たちと一緒に仕事する機会が増えたことで、これまでお客様のためにと考えてきた技術の中には、不特定多数のお客様にとって役立つであろう「理想論」が多分に含まれていることを知ったのです。対顧客視点をおろそかにして「理想論」だけを多用しても、特定のお客様にとっての効果を生み出せるとは限りません。
こうした経験を重ねるうちに、万人(社)に通じる「テキストの読みやすさ」は存在しない、という考えを改めて自覚しました。ユーザーにとって読みやすい文章は、対顧客視点を十分に突き詰めた上で、お客様ごとに作り上げるべきものという見解に、広告文章を書き始めてから18年目にしてようやく至ったわけです。
御社のWebサイトのテキストは、自己満足になっていませんか?
自叙伝のようなプロローグが、いささか長くなってしまいました。本題に移ります。
今回このコラムでみなさんに主張したいのは、御社のWebサイトのテキストが、読みやすさの「理想論」を掲げただけの自己満足で終わっていませんか、ということです。
今はWebサイトのテキストをブラッシュアップするための指南書が出版されていたり、インターネット上でテクニックが公開されたりしていている影響からか、本当に読みやすいWebテキストが増えてきたように思います。多くの人がテキストの読みやすさについて意識を高めていることも、良質のWebテキストが増えた要因といえるでしょう。
しかし、一見読みやすそうなのに、実際はターゲットユーザーのことをあまり考慮せず、テクニックだけを駆使しているWebテキストが存在することも事実です。船頭多くして船山に登るではありませんが、Webテキストを教える「先生」が増えたことで、迷う生徒が増えているのかもしれません。
Webテキスト向上のテクニックは、TPOを間違えると逆効果
例えば、Webサイトにおいて接続詞はユーザーにとって煩わしいだけですので、できる限り削除しましょうというテクニックがあります。確かに接続詞ばかりの文章は稚拙な印象を与えますので、削除すること自体は間違っていません。Twitterにつぶやくのであれば、積極的にそうすべきです。しかし、接続詞が少なすぎると、ぶっきらぼうな散文めいた文章になってしまいます。行間を読ませるのは日本古来の奥ゆかしさを活かす技法ですが、企業メッセージや商品に込められた思いなどを訴求する重要な文章では、逆効果となることもあります。
また、Webテキストは長すぎれば読まれない、極力テキスト量をしぼってユーザーが読みやすいようにしましょう、と教える「先生」がいます。これもWebサイト全体を捉えたテクニックとしては間違っていませんが、場合によってはユーザーにとって不親切なWebサイトを生み出す危険性も含まれています。マスマーケットに打ち出すWebテキストであれば、前置きや結論など既に知られていることをできるだけ省いて、競合優位性だけを強く訴求するべきかもしれません。しかし、ニッチ市場に打ち出すメッセージや、メルマガから誘導する読み物コンテンツなどは、テキスト量をしぼってしまうことで、既にある程度の興味を持ち、多くの情報を求めているユーザーの期待を裏切ることになります。
いかに優れたテクニックであってもTPOを間違えれば効果は得られず、むしろ逆効果となることもあります。せっかく「テキストの読みやすさ」を向上させるテクニックを自社のWebサイトに適用しても、対顧客視点をしっかりと考慮しなければ、まったく読みやすくないテキストを生み出してしまうことだってあるのです。
ユーザーをファン化するような、良質なコンテンツやテキストを用意すべき
前述の「先生」の中には、「Webサイトは一瞬の印象で勝負が決まるのですから、とにかくユーザーに覚えてもらうようなWebテキストにすることが第一。読みやすさイコール、覚えてもらいやすさであり、日本語の正しさなどは二の次」という暴論を掲げる方もいらっしゃいます。しかし、本当にそれで求める効果が得られるでしょうか?
近年では、あらゆるサイトのアクセス解析結果から、商品購入や資料請求などの企業が求めるコンバージョンに至るまで、ユーザーは何度もWebサイトに来訪して複数の指標で対象を評価する傾向が強くなっているそうです。つまり、コンバージョン獲得を求めるのであれば、良質のコンテンツやテキストなどユーザーに再訪してもらえるような施策を施して、ユーザーをファン化することが重要になってきているといえます。「テキストの読みやすさ」の向上の先にコンバージョンがあるという認識は共通しているものの、来訪したユーザーを逃さないようにして即決を促すことが、コンバージョン獲得につながるという数年前までの定説とは、まるで逆行しているのです。
じっくりWebサイトの内容を吟味しようと考えるユーザーに、覚えてもらいやすさだけを際立たせたテキストは適切ではありません。ユーザーが吟味したいと考える内容を検討して、そのユーザーに適したより良いテキストを準備することが読みやすさの向上、そしてコンバージョン率の向上につながると考えています。
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