シンプルさを追求した価値ある製品を作るには
インタラクションデザイナー 橋本 直樹「シンプルにする」というのは、優れた製品、あるいはそれを目指すときの方向性としてよく聞かれる言葉です。iPhoneやiPadのデザインを手がけたアップル社のジョナサン・アイブ氏は、「自分の仕事のほとんどはシンプルさに関すること」であって、「デザインのあらゆるプロセスにおいてシンプルさを追求している、これは根本的なことだ」( 英Telegraph紙のインタビュー より 筆者訳)と語っています
シンプルであることは優れた製品のひとつの方向性といえるでしょう。しかし、実際どのようにしてシンプルさを追求していけば良いのでしょうか?
何がシンプルであるかはユーザーや利用目的によって異なる
まず、シンプルとはどういうことでしょうか?配色が簡素だったり、機能や情報を絞られていたりと、様々な捉え方があると思いますが、マイクロソフトはシンプルさを「対象ユーザーの目につき、重要でないと見なされるデザインの属性を減らす、あるいは取り除くこと」としています(マイクロソフト「パワフルかつシンプルに」より)。端的にいえば無駄(と感じられているもの)を省くということですが、彼らが「対象ユーザーの」としている通り、ここで重要なのは、シンプルであるかどうかは対象とするユーザーの受け止め方によるという点です。
これを、デジタルカメラを例にとってご説明しましょう。
- カメラ初心者にとっては、特別な知識がなくてもボタンひとつで大抵の場面が綺麗に撮影できるフルオートのカメラは、シンプルで魅力的に感じられるでしょう。
- プロのカメラマンにとっては、思い描ける最高の画を撮るために、被写体や撮影状況に応じて、ホワイトバランスや露出など撮影設定を手動で細やかに変更できるカメラが必要で、フルオートだけのカメラは簡素すぎて不十分でしょう。
機能は豊富だけれど、無駄なく快適で(例えば頻繁に使う機能にアクセスしやすい、必要最低限の操作で済むなど)、写真撮影そのものに没頭できるとしたら、このユーザーはそのカメラをシンプルだと感じるでしょう。
つまり、こういうことです。
- シンプルとはユーザーの感覚で、シンプルかどうかはユーザーが製品に求めている目的が無駄なく快適に果たせるかどうかで決まる。
- シンプルであるとき、必ずしも機能や情報が絞られているわけではない。
シンプルさを追求する2つの方法
製品の利用目的(≒ユーザーニーズ)をうまく果たすために「シンプルにする」という方法があると考えると、シンプルさを追求する方法としては、以下のような対照的な2つの方法・方向性が考えられます。
- 本来複雑なタスクを、デザイン上の工夫により無駄なく快適にこなせるように見せる
- タスクの根本的かつ単純なニーズを捉えて、その点にフォーカスする
1の例
航空券の横断検索サイト「 KAYAK 」は、複雑なタスクを快適にこなせる一例です。大雑把にいえば「海外航空券版の価格コム」で、発着日と場所を指定すれば、システムが多数のフライト情報を統合し、価格を安い順に示してくれます。
もちろん最安便が最も良い便とは限らない(時間が合わないなど)ので、結果を見ながらどの便が良いのか比較検討を行うことになります。しかし、検索結果の一覧性が良く、かつ絞り込みツールで試行錯誤を行いやすくしている(価格や経由数・発着時間などフライト条件で絞り込み、リアルタイムで結果を確認できる)ため、最適な便を無駄なく快適に選べるようになっています。
KAYAKのように、本来複雑なタスクをシンプルに見せるには、ユーザーの目的に沿って最適な操作体系や情報構造をデザインしそれを実現することが必要です。つまり、相応のUIデザイン/情報設計/システム開発などのスキルが要求され、それがプロジェクト成功のポイントになります。
2の例
天気予報アプリ「あめふる」は、雨が降る日の朝に曲を鳴らしてお知らせしてくれます。「今日は傘を持っていったほうが良いのかな?」という天気予報に対するニーズにフォーカスした例といえるでしょう。
Todo管理アプリ「 Clear 」は、一般的なToDoアプリと違ってボタンなどのナビゲーション要素を省いており、ジェスチャーだけで操作するUIを採用しています。紙にToDoリストをサッとメモするように、ToDo管理の時間は最小限にし、実作業自体に時間を充てられるように、という意図が感じられます。
ここでは、ユーザーの根本的なニーズが何かを捉えること、そして企画・開発を進める中で、その軸をぶらさないようにすることが、プロジェクト成功のポイントになります。
ユーザーの目的に対してシンプルに応えよう
シンプルさの追求にあたっては、まずユーザーやその利用目的・ニーズを特定するのが第一歩です。その上で、それぞれの方法で、利用目的に対してユーザーがシンプルだと感じられるようなデザインを行っていきます(なお、先に示したマイクロソフト社のページで、シンプルさを実現するための原則・手法について解説があり、設計時の指針として役立つでしょう)。
さて、弊社では今夏、アプリケーションUIデザインというサービスをリリースいたしました。上記ユーザー・利用目的およびビジネス要件などを基に、ユーザー体験コンセプト・UIコンセプトを策定した上で、ユーザーの目的にシンプルに応えられるUIデザインを行ってまいります。業務システムの刷新をお考えの方、モバイルアプリケーションの制作にお悩みの方など、課題解決に役立てるかと思いますので、ぜひ一度ご検討ください。
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