あるデザインゲームワークショップに参加して
インタラクションデザイナー 栗山 進今回は2013年2月2日(土)に実施された、あるデザインゲームワークショップに参加して感じたことや、そこで得た気づきについて報告いたします。
参加したデザインゲームワークショップについて
参加したデザインゲームワークショップは、専修大学の上平崇仁(カミヒラタカヒト)先生が企画されたワークショップで、北欧発のデザインゲームを体験することが目的でした。講師はデンマークIT大学の 安岡美佳さん で、デンマークでサービスデザインの研究者として活躍されています。
ワークショップのスケジュールと主な内容は、以下の通りです。なお、参加者数は30名程度という小規模のワークショップでした。
本日のスケジュール
13:00- 上平先生挨拶 14:00 自己紹介,講演(北欧の参加型デザイン,事例,デザインゲーム) 14:10-14:25 今日のテーマ:愛媛サポーターズ 奈須紗代子 14:25-16:45 ユーザゲーム
14:30-14:40 デモ(10分)
14:40-16:00 ゲーム(1時間20)
16:00-16:45 ペルソナ作成(45分)16:45-17:15 プレゼンテーション(30分) 17:15-17:30 技術ゲーム/シナリオゲーム 17:30-17:50 ディスカッション(30分)
実際に作業を行なうユーザゲームでは、「親子が楽しめる新店舗計画」をテーマにグループワーク(デザインゲームとペルソナ作成)を行いました。デザインゲームとは何かについては、後ほどすぐに紹介します。
現在の日本のUXデザイン(ユーザーエクスペリエンスデザイン)やHCD(人間中心設計)で用いられている手法はアメリカ発のものが主であり、今回のデザインゲームワークショップは北欧発の手法について学べる貴重な機会でした。
デザインゲームとは?
デザインゲームとは何かとは、以下のように説明されていました。
デザインゲームとは?
- 北欧の研究者が提案した参加型デザイン手法
- スカンジナビアデザイン研究会が,社会文化的影響を考慮して提案
- 参与観察的調査法を取り入れ,デザイン初期段階での利害関係者間のデザイン行為に積極的に介入
- 利害関係者間で構成したグループ(3-5人)で,ボードゲームを実施 ゲームをプレーすることを通して,未来のデザインを共創する
- 1)特定の世界観の中で,
- 2)特定の目的のために
- 3)道具(動画,カード,レゴブロックなど)を用いて
- 4)ルールに則り,
デザインゲームを含め、(アメリカ型に対する)北欧型の参加型デザインのポイントは、「社会性・平等性・民主性が重視される」点にあるとのことでした(下記参照)。
北欧型の参加型デザイン
デザイン主体の価値を第一義とする立場(デザイン思考)を用いて,デザイナー・利用者・顧客・セールス部門,管理層など背景知識(言語)の異なる専門性を持った利害関係者を,それぞれの立場からデザイン思考のプロセスに積極的に参加させ,デザインを行う(コンセプトデザインを中心に,モノの仕様やインタラクションデザインをおこなう)ことを目指す民主的デザインアプローチ.
現在では,対象は,ITシステムばかりでなく,製品、社会サービス、都市デザインなど広範囲に及ぶ.
社会性・平等性・民主性が重視される.
デザインゲームの内容とアウトプット
デザインゲームの内容と手順は以下の通りでした。
実際に体験してみないと分かりづらいのですが、簡単に言うと、以下のようなゲームでした。
ゲームで使用したもの
- ユーザーの生活/利用シーンを録画した、数十個の動画ファイル(1つ30秒程度、PCで再生)
- 上記動画に対応する数十枚の写真カード(山札)
手順
- チームメンバーが順番に、動画を基にストーリー(ユーザーの生活の流れ)を考案する。
- ストーリーの流れは、動画に対応する写真カードを机の上に並べることで表現する。
- ストーリーを追加する際は、机の上に置かれている写真カードに交差させるというルールの下で、追加する。
- 写真カードの山札がなくなるまで上記を繰り返す。
この結果を基にペルソナ(親子が楽しめる新店舗の利用者像)を作成いたしました。
感じたことやそこで得た気づき
デザインゲームの利点と課題は以下のように説明されていました。
デザインゲームの評価 利点と課題
- デザイナと利害関係者の共創
- プロの構築した土台
- 利害関係者のインプット
- 真剣に取り組みやすい
- ゲームという前提
- 現実にグラウンディングしている
- その後の工程がスムース 急がば回れ
Essential when playing the games are negotiation of meanings and interests. The players have to negotiate to solve conflicts of interests. [Brandt 04]
- 機能などに関して利害関係者の合意が取れており,理由づけも共有されている.
- 未来のシステムのイメージ(言語)が共有されている.
- 準備に手間がかかる
- 参与観察を取り入れた方法であり,デザイナの土台作りがゲームの結果を大きく左右する.
- 観察,ゲームの道具の準備に時間がかかる.
- プロセスなのか人なのか
- ファシリテータが重要なのか.
- プロセスによって支援できるのか?
今回のデザインゲームで、特に私の印象に残ったのは以下2点です。
- 利害関係者全員で、生に近いユーザー調査結果を目にすること
- 利害関係者全員に、(ゲームのルールにより)平等に参加の機会が与えられること
なぜなら、普段私が実務で参加するプロジェクトでは上記が行われることはほぼないためです。両者共に、意思決定をスムースにする、デザインの質を向上させるといった効果が期待されます。
講師の安岡さんとしては、今回行ったようなデザインゲームがそのまま実務に適用できるとは考えていないとのことでした。実際、私も実務との隔たりを感じましたが、そのプロセス/考え方の一部を実験的に取り入れてみるというのは、行なう価値があるのではないかと感じました。
おわりに
最近、アメリカの方でも「ゲームストーミング――会議、チーム、プロジェクトを成功へと導く87のゲーム」という本が出版されているように、デザインプロセスにゲームを取り入れる動きがあります。こういった動きと今回の体験から、この領域の知見を取り込むことでデザインプロセスをより洗練されたものにしていこうと思いました。
- ※ 本文中の引用文・図は、ワークショップで公開された資料を再現したものです。
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