「いいものづくり」のために
アートディレクター 遠藤 真由美今年2月、アートディレクターの副田高行氏と葛西薫氏、写真家の藤井保氏の3人によるトークショーに参加してきました。広告の今と未来に関するお話が中心でしたが、その中でも心に残ったのが「日本はものづくりの国と呼ばれているが、これからは『いいものづくりの国』にしたい」という言葉でした。ものづくりに携わる身として、自分が作るものと社会とのつながりをあらためて意識する機会となりました。
では、「いいもの」を作るにはどうすればよいのでしょうか?Web制作の工程の面から考えていきたいと思います。
従来までの作り方では通用しない
Web制作にはいくつもの工程があります。課題を明らかにし、戦略を決定し、載せるコンテンツを検討し…と、長い工程と「使う頭の違う」あらゆる事柄に取り組み、やっと完成します。各工程を順を追って対応していけば、これまでは制作が可能でした。しかし今やもうこの方法ではうまくいかない場合が多くなりました。途中で「出し戻し」が増えてしまうのです。なぜでしょうか。それには、さまざまなデバイスの登場による、ユーザーの変化が関わっています。
最近はスマートフォンやタブレットなどのデバイスの普及が加速しています。総務省が実施した平成24年通信利用動向調査によると、端末別インターネット利用率におけるスマートフォンの利用率は、平成23年末には16.2%だったものが、平成24年末には31.4%とほぼ倍増しています。50%を超えるのは時間の問題ではないでしょうか。これは、ユーザーがいつ・どこから・何を使って・何のためにサイトを訪れるのか、その組み合わせが飛躍的に増えたことを表しているとも考えられます。
そういった状況の中、お客様から弊社に多く寄せられるご要望のひとつに「マルチデバイス対応」が挙げられます。マルチデバイス対応の手法の1つである「レスポンシブWebデザイン」を例にとってみますと、先にお話したとおりWeb制作の工程には「使う頭の違う」あらゆる事柄がありますが、レスポンシブWebデザインではそれらを同時に検討する必要があります(例えば、情報設計とビジュアルデザイン、マークアップなど)。ですからビジュアルデザインをおこなう際、従来通り各工程を別々に検討すると、いざコーディングをしてみたら「パソコンからの閲覧では問題がなかったが、スマートフォンから閲覧した際には目立たせたいものがページの後ろのほうに来てしまう」などの問題が発生し、情報設計からやり直さないといけなくなってしまうこともあるのです。
工程・分野・立場の垣根を越えてサイトを作り上げる
そこで必要になってくるのは、上流工程から下流工程へと順番に対応していくのではなく、各分野のエキスパートが一緒に考え同時に進めていくスタイルです。その際、作り手だけでなく、お客様と共に頭をひねって考えていくことが重要だと考えています。本当にユーザーに伝えたい大事なことは何か?どのような方法なら適切にユーザーに届くのか?ユーザーに関する深い理解をお持ちのお客様と、Web制作の知見を持つ制作側が「1つのチーム」となって初めて「いいサイト」ができあがるのではないでしょうか。
そのためにも、大変基本的なことではありますが、実際にお会いして対面でお話しすることを大切にしています。私の所属するアートディレクションチームでは、直接ビジュアルデザインに関わる話の出ないときであっても、お客様とのミーティングに同席させていただくように心がけています。ちょっとした雑談がビジュアルデザインの参考になることもありますし、お話を聞く中でお客様の想いを知ることができ、それを社内の制作スタッフに伝えることも重要な役割だと認識しているからです。アートディレクションの枠からははみ出しているかもしれませんが、「1つのチーム」として結束するための取り組みとして意識しています。
これからもお客様と共に「いいものづくり」ができるよう日々努力してまいります。
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